灸の臨床|婦人科② エビデンスと臨床判断
この教材が扱うこと効果量を見る前に、何が測られたかを見る
この教材の数字3つ
- 生児出産率まで見た試験は1件、しかも有意差なし採卵数は 5.8±1.9 対 4.7±1.9(p = 0.012)で有意。累積生児出産率は 27.3% 対 13.3%(p = 0.172)
- 同じ灸が、指標を変えると最高位にも最下位にもなる更年期のネットワークメタ解析で総有効率 SUCRA 95.8%、Kupperman指数 SUCRA 0%
- 月経困難症のVASは、解析によって有意・非有意が分かれる有効率は両解析で一貫して有意。研究者が定義した二値指標と連続量で結果が食い違う
臨床への翻訳本文からの抜粋
- 11章 卵巣予備能低下と、灸単独データの不在
この空白は、患者説明において具体的な言葉になる。「卵巣の予備能に灸が効くという臨床試験は、いま行われているところで、結果はまだ出ていません」——これは事実であり、患者を落胆させる情報ではなく、意思決定に必要な情報である。不妊治療は時間が有限な領域である。根拠のない期待によって標準治療の判断が遅れることは、この領域における最も重い害になりうる。第1巻第13章の判断表で「区分3:条件つきで行う」——主治医の治療を代替しないことを明示し、標準治療の継続を前提とする——に該当する。
- 13章 同じ解析の中で首位と最下位が同時に起きる
更年期症状に灸を用いる施術者が、この解析から取り出せる説明は一つしかない。「灸は、研究者が定義した有効率という指標では上位に評価されていますが、標準化された更年期症状の尺度では、電気鍼と薬の併用に有意に劣っています。同じ解析の中で、指標を変えると評価が反対になります」。片方だけを引用することは、この解析が示した最も重要な事実——評価が指標に依存するということ——を隠す。第7章で述べた SUCRA の三つの確認のうち、三つめ(別のアウトカムで順位はどうか)が決定的に効く実例である。
- 15章 患者への説明と、空白リスト
この六文は、患者を灸から遠ざけるものではない。効果を大きく語る施術者は、患者が医療機関で受ける説明と矛盾する。矛盾した瞬間に、その施術者の言葉全体の信用が失われる。境界を正確に語る施術者は矛盾しない。矛盾しないことが、長く選ばれる条件である。第1巻第13章で述べたとおり、この領域で防御可能な立場は、効果の大きさではなく境界の正確さの側にある。
この教材を読むとできるようになること
- 序章効果量を見る前に、何が測られたかを見る効果量を見る前に、その数値にかかる四つの割引を先に持てるようになる。
- 第I部月経困難症——痛み以外の指標月経困難症を、痛みの点数ではなく持続日数・鎮痛薬・タイミングで語れるようになる。
- 第II部PMSネットワークメタ解析の順位表を、効果の大きさと取り違えなくなる。
- 第III部不妊治療の補助ART併用の試験を、主要アウトカムの欄から読み始められるようになる。
- 第IV部更年期のホットフラッシュ同じ解析の中で評価が反転する例を、自分の言葉で説明できるようになる。
- 第V部確実性と臨床判断患者に言えることと言えないことを、六つの文に収められるようになる。
分かっていないこと第15章「患者への説明と、空白リスト」より
- ART併用の灸で、生児出産率を主要アウトカムに置いた試験がない
- ホットフラッシュに対する偽灸対照試験がない
- 卵巣予備能低下に対する灸単独の完了済み対照試験がない
灸エビデンス・ライブラリ https://kyu.yomogi-base.jp