灸と神経生理学②
この教材が扱うこと二分冊の②にあたる本書は、脊髄後角から先——脳・下行性調節・自律神経出力と、臨床エビデンスおよび空白——を扱う
この教材の数字3つ
- 「灸=副交感優位」で終わらせない報告されている自律神経反応は部位と強度で向きが変わる
- 下行性調節系は抑制と促進の双方向ON細胞とOFF細胞が痛みを増やしも減らしもする
- 灸でCPMを誘導できるかそれを検証したヒト研究は1件も見つからなかった
臨床への翻訳本文からの抜粋
- 04章 ヒトの灸で測られた脳活動
「熱が広がる・透る」といった患者の感覚報告(熱敏現象)は、上記の研究では群分けの基準そのものとして用いられ、その群でVASの改善が大きかった[22]。この所見は、感覚報告を記録することの臨床的価値を支持する。ただし本研究は盲検化されていない観察比較であり、熱敏現象を報告する患者がもともと期待や反応性の点で異なる集団である可能性を排除できない。「熱敏感覚が出たから効いている」と因果として説明することはできない。
- 07章 強度が経路を選ぶ/熱以外の入力
無煙艾条と有煙艾条を同じ介入として扱うことは、現在の証拠に照らせば正当化されない。煙の有無は、嗅覚という別の求心路の有無でありうる。臨床記録に「灸を行った」と書くだけでは、後から何が効いたかを検討できない。温度・時間・部位に加え、煙の有無も記録すべき変数である。
- 09章 安全性——熱傷と神経障害
『灸と神経生理学①』第3章と『灸と神経生理学①』第5章の内容を、ここで安全性の判断に接続する。熱の検出は複数のTRPチャネルに支えられており、その系が損なわれている部位では、熱さを感じないまま組織が損傷しうる。糖尿病性神経障害・末梢神経障害・瘢痕部・知覚鈍麻部への施灸で熱傷リスクが高まるのは、この生理学から直接導かれる。「熱いと言わないから、もう少し据えられる」という判断は、神経生理学的には最も危険な判断である。また、顔面など表在神経が浅い部位への直接灸には、神経損傷の症例報告がある[32]。
この教材を読むとできるようになること
- 序章熱は、熱のままでは伝わらない脳で起きた変化の報告を、どこまで灸の作用として読んでよいかの線引きができる。
- 第I部脳と下行性調節下行性調節が抑制だけでなく促進もすることを知り、「灸は痛みを抑える」の粗さが分かるようになる。
- 第II部出力——自律神経・内分泌・免疫自律神経・内分泌・免疫という出力側について、部位と強度が向きを決めることを説明できるようになる。
- 第III部臨床と方法論臨床エビデンスの現在地と安全性を押さえ、方法論上の限界を指摘できるようになる。
分かっていないこと第10章「研究方法論と未解決問題」より
- 灸によるCPM(条件刺激性疼痛調節)の誘導
- 灸が下行性疼痛調節系を駆動することのヒトでの直接的証拠
- 灸の加温プロファイルでのヒトAδ・C線維閾値
灸エビデンス・ライブラリ https://kyu.yomogi-base.jp