灸と皮膚の生理学①
この教材が扱うこと灸が触れている相手を、先に知る
この教材の数字3つ
- 表皮は約0.1 mm、真皮はその十数倍部位によって大きく変わるのは真皮のほうである
- 角層の厚みは部位で10倍以上違う頬16.8 µm に対し手掌173.0 µm(日本人 n=15)
- 灸をすえる場所の皮膚は、測られていない経穴部位の厚み・汗腺密度の実測に到達できなかった
臨床への翻訳本文からの抜粋
- 07章 部位差——同じ「皮膚」ではない
同じ灸を背部と足背に置いたとき、熱が通過する真皮の厚みは同じではない[5]。この事実は、施灸部位を変えることが「同じ刺激を別の場所に与えること」ではない可能性を示す。ただし本書は、ここから施灸量の調整規則を導かない。真皮厚の違いが、実際に届く熱量をどれだけ変えるのかを測った研究には、本書の調査範囲では到達できなかった。本書が示せるのは、部位によって組織の厚みが違うという構造上の事実までである。この空白を埋めるのが、本シリーズ②の課題になる。
- 11章 感覚受容器——どの深さに埋まっているか
灸の熱を最初に受け取る自由神経終末は、表皮の中にある。角層のすぐ下である。深部に届く前に、神経はすでに熱に触れている。そして表皮内の神経線維密度は加齢とともに減少する(5年あたり 1.35 本/mm)[11]。ただし、この密度の低下が灸の熱感覚をどれだけ変えるかについて、定量的な対応関係を示す研究に本書は到達していない。したがって、施灸時の熱感の個人差をこの数値で説明することはできない。本書が示せるのは、表皮内の神経密度が測定可能な量であり、加齢とともに変化するという事実までである。
- 14章 本書が答えられなかったこと
本書を読み終えた読者は、「お灸は皮膚を温める」という一文を、どの層の・どの深さの・どの構造物を温めるのかという問いに分解できるようになっている。そして、その問いの多くにまだ答えがないことも分かっている。臨床では、この空白を空白のまま扱うことが求められる。構造が分かっていることと、その構造に灸が何をしているかが分かっていることは、別である。本書が示したのは前者だけである。後者に進むのが、本シリーズ②以降の役割になる。
この教材を読むとできるようになること
- 序章灸が触れている相手を、先に知る本書の数値が、どの測定法で・どの部位で・誰について得られたものかを、読む前に確認する習慣がつく。
- 第I部皮膚を層として見る皮膚を表皮・真皮・皮下組織の三層で捉え、それぞれの厚みを部位別の実測値で言えるようになる。
- 第II部皮膚に埋まっているもの血管・汗腺・皮脂腺・毛包・感覚受容器が、それぞれどの深さにあるのかを構造として指させるようになる。
- 第III部皮膚が「壁」であるということ皮膚のバリアを測る指標とその限界を知り、灸の研究で何が測られていないかを具体的に言えるようになる。
分かっていないこと第14章「本書が答えられなかったこと」より
- 足三里・腎兪といった、灸の臨床で実際に用いられる部位について、表皮厚・真皮厚・角層厚・汗腺密度・毛包密度を測定した研究に、本書の調査範囲では到達できなかった
- 施灸の前後で皮膚バリアがどう変わるかを測った研究に到達できなかった
- TEWL・角層水分量・角層厚のいずれについても、施灸前後で測定した査読済み研究を見出せなかった
灸エビデンス・ライブラリ https://kyu.yomogi-base.jp