鍼灸エビデンス・ライブラリ
灸と血流の生理学(全2分冊) ① 血流の基礎生理学と、熱源としての灸 姉妹巻:灸と血流の生理学②
Moxibustion & Circulation ① — 基礎編・全12章

灸と血流の生理学①

温熱はどの分子を介して血管を変えるのか。
そして灸は熱源として何を出しているのか。

第2版 2026年8月 皮膚循環 / TRPチャネル / 体性-自律神経反射 / 42℃の境界 / 艾の燃焼と放射 / 灸法の分類
序章

血流という一本の軸で灸を読み直す

灸の効果は伝統的に「温める」「巡らせる」と語られてきた。本書はこれを、測定可能な一つの量——組織血流——に翻訳する。二分冊の①にあたる本書は、血流そのものの生理学と、熱源としての灸の物理を扱う。灸種ごとの血流反応と全身循環への波及は②に送る。

00本書の読み方とエビデンスの階層

灸と血流の研究は、質の分布が極端に偏っている。基礎生理学(動物実験・健常者実験)は精密だが対象が狭く、臨床試験は対象が広いが方法論的な質が低い。この非対称性を意識せずに読むと、必ず結論を過大評価する。

本書が「示唆」を書くときの規約

本書は原著の報告値だけで構成する。報告値を超えて編者が可能性を述べる箇所は、1冊につき2件までとし、いずれも「考察」「臨床仮説」等のラベルを付けた囲みの中に置き、成立しない条件を併記する。囲みの外の本文に、報告されていない因果や機序を書かない。ラベルのない断定は、すべて原著の報告値か、原著の著者自身の結論である。

本書が採る証拠の格付け

表 0-1 本書で用いるエビデンスの階層
階層研究デザイン灸研究における典型的な弱点
A盲検化されたRCT/Cochraneレビュー本数が少ない。偽灸の妥当性が課題
B健常者クロスオーバー実験(LDF・NIRS等)n が10〜80と小さい。短時間観察
C動物実験(機序解明)刺激条件がヒトの臨床と異なる
D非盲検RCT/単群前後比較中国語文献に集中、出版バイアス大
E実技者による実測報告・症例報告査読なし。ただし温度データは有用
読者への注意

灸の臨床試験は、圧倒的多数が中国で実施され、非盲検・小規模・陽性結果に偏っている。本書が臨床章で示す効果量は、そのバイアスを含んだ数値である。一方で第I部〜第IV部の生理学的データは、盲検化の必要が小さい客観指標(温度・血流量・心拍間隔)に基づくため、相対的に信頼できる。「機序は確からしい、臨床効果量は不確か」——これが2026年時点の正直な要約である。

三つの問いで章を貫く

  1. どこが変わるか——皮膚か、筋か、内臓か、脳か。灸法によって届く深さと範囲が違う。
  2. どちらに変わるか——血流は必ずしも増えない。初期には減る。二相性を理解しないと臨床判断を誤る。
  3. どれだけ続くか——刺激中だけの反応と、刺激後に残る反応は、別の機序による。
PART I

基礎生理学

灸を語る前に、血流そのものを語る。ここを飛ばすと、以降のすべての数値が意味を失う。

01血流を決める三つの量

ある組織を流れる血液量 Q は、その血管床にかかる灌流圧 ΔP を血管抵抗 R で割ったものに等しい。

基本式

Q = ΔP / R  および  R ∝ ηL / r⁴(Hagen–Poiseuille)

η は血液粘度、L は血管長、r は血管半径。抵抗は半径の4乗に反比例する——半径がわずか19%広がれば抵抗は半分になり、血流は2倍になる。灸が「血流を増やす」と言うとき、実質的にはこの r を動かしている。

灸が動かしうる三つの変数

半径 r ——最も効率のよい標的
血管平滑筋の弛緩による細動脈の拡張。灸の温熱刺激が主として作用するのはここであり、4乗の効きがあるため、わずかな拡張が大きな血流増加を生む。
粘度 η ——温度依存性がある
血液粘度は温度上昇に伴って低下する。局所加温は粘度を下げ、同じ灌流圧でも流速を上げる方向に働く[19](生体熱輸送の数値シミュレーションによる予測であり、ヒトでの実測ではない)。効果は r ほど大きくないが、微小循環(毛細血管レベル)では無視できない。
灌流圧 ΔP ——全身性の変数
灸による血圧変化は、健常者では有意でないことが多い[3]。つまり灸の局所血流効果は、血圧を上げることによってではなく、局所抵抗を下げることによって生じている。これは重要な鑑別点である。

02皮膚循環という特殊な血管床

灸が最初に作用するのは皮膚である。そして皮膚の血管は、他のどの臓器とも違う設計をしている。

二重の役割

皮膚の血管系は、栄養血管(組織代謝を支える)と体温調節血管(熱を運ぶ)という二つの役割を持つ。安静時の皮膚血流は心拍出量の数%にすぎないが、全身が熱負荷を受けると皮膚血流は大幅に増加し、心拍出量の相当部分が皮膚に振り向けられる。これは他の臓器では起こらない、皮膚固有のダイナミックレンジである。

動静脈吻合(AVA)

手掌・足底・指趾・耳・鼻など無毛部(glabrous skin)には、細動脈と細静脈を毛細血管を介さず直結する動静脈吻合が存在する。AVA は交感神経血管収縮線維の支配を強く受け、開けば大量の血液が皮膚表層を通過して熱を放散する。手足の冷えは、多くの場合この AVA の閉鎖(交感神経緊張)による。

臨床的含意

足底の KI1(湧泉)、手指、耳などへの灸が「よく効く」と経験的に言われるのは、AVA が密に分布し、交感神経緊張の解除が大きな血流変化として現れやすい部位だからである。逆に有毛部(前腕背側や下腿)では AVA がなく、血流反応は軸索反射と NO に依存する。同じ灸でも、部位によって働く機序が違う。

有毛部と無毛部の神経支配の違い

表 2-1 皮膚部位による血管制御機構の差
特性無毛部(手掌・足底)有毛部(体幹・四肢の大部分)
AVA豊富ほぼなし
血管収縮神経強い緊張性支配あり
能動的血管拡張神経なしあり(発汗と共役)
加温時の主機序交感神経緊張の解除軸索反射+NO
灸への反応大きく速い中等度・二相性が明瞭

03血管径を決める四つの制御系

1. 筋原性(myogenic)調節
血管平滑筋が伸展されると収縮する(Bayliss効果)。灌流圧が変動しても血流を一定に保つ自動調節の基盤。
2. 内皮性調節
血管内皮が産生する NO(一酸化窒素)、プロスタサイクリン、内皮由来過分極因子(EDH)。血流が増えると内皮に加わるずり応力(shear stress)が上がり、eNOS が活性化して NO が産生される——つまり血流が増えること自体が、さらなる血管拡張を呼ぶ正のループがある。慢性温熱療法が血管内皮機能を改善するのは、この経路の反復刺激による[13]
3. 代謝性調節
局所の低酸素、CO₂・H⁺・K⁺・アデノシンの蓄積が血管を拡張させる。活動組織への血流を自動的に増やす仕組み。
4. 神経性調節
交感神経血管収縮線維(ノルアドレナリン → α受容体)が全身の血管に緊張性に分布する。有毛部皮膚にはさらに交感神経能動的血管拡張線維があり、全身加温時の皮膚血流増加の大部分を担う。灸の遠隔効果・全身効果は、この神経性調節を介する。
要点

局所の灸は 1〜3(局所機序)と 4 の一部(軸索反射)を、全身への波及は 4(中枢を介する反射)を動かす。局所効果と全身効果は、別々の回路である。本書が第III部と第IV部を分けている理由がこれである。

04温度受容の分子基盤:TRPチャネル

灸は熱である。その熱が生体反応に変換される最初の一点が、TRP(transient receptor potential)チャネルである。ここを理解しないと、なぜ「43℃」が繰り返し登場するのか、なぜ棒灸の高さが効果を変えるのか、なぜ同じ場所に据え続けると効きが鈍るのかを、すべて丸暗記するしかなくなる。本章は本書で最も長い章である。

4-1 皮膚は二層のセンサーでできている

古典的な理解では、温度を感じるのは感覚神経の自由終末だった。しかし現在の知見では、表皮のケラチノサイト自体が温度センサーとして働くことが分かっている。

  • ケラチノサイトは TRPV3TRPV4 を発現し、温刺激で活性化する[59]
  • 加温されたケラチノサイトは ATP を放出する。TRPV3欠損マウスではこのATP放出が損なわれる[59]
  • 放出されたATPが後根神経節(DRG)由来の神経終末上のP2受容体を活性化し、温度情報が神経に渡される[59]
  • この反応はギャップ結合を介した細胞間 Ca²⁺ 波・ATP 波としてケラチノサイト間に伝播し、信号が空間的に増幅される
灸への含意

ケラチノサイト層が増幅器として働くということは、灸の熱が届く物理的範囲(『灸と血流の生理学②』第2章:直径約15mm)よりも、神経に渡される信号の範囲のほうが広い可能性を意味する。表皮が「面」で受けて、神経が「線」で運ぶ——この二段構えが、灸の作用範囲を理解する出発点になる。

4-2 温度感受性TRPチャネルの全体像

ヒトの皮膚には、冷から熱までを分担する一連の TRP チャネルが並んでいる。灸を論じるうえでは温側だけで足りるように見えるが、冷側を知らないと「冷え」の病態が説明できないため、冷側も含めて掲げる。

表 4-1 皮膚の温度感受性TRPチャネルと灸温度域[55][67]
チャネル活性化温度主な発現部位灸との関係
TRPA1約 17℃以下C線維(TRPV1陽性の一部)侵害性の冷。冷えによる痛みの受容
TRPM8約 25–30℃以下独立した冷線維環境冷の主要検出器。メントール受容体。冷え症の感覚側
TRPV4約 27–34℃ケラチノサイト、血管内皮温感の基礎。棒灸を遠く保持した低温域。内皮では血流応答を担う(4-5)
TRPV3約 33–39℃ケラチノサイト心地よい温感。温灸・箱灸・棒灸遠距離の主作動域。ATP放出の起点
TRPM2約 35℃以上感覚神経、免疫細胞温感受容の増強
TRPV1約 43℃以上Aδ・C線維終末、DRG、筋、線維芽細胞灸の主標的。熱痛と軸索反射の閾値。透熱灸・台座灸・温筒灸のピーク温度域
TRPV2約 52℃以上Aδ線維強い侵害熱。直接灸の局所ピーク
この表の読み方

『灸と血流の生理学②』第2章の実測値と重ね合わせると、灸種の設計思想が見える。棒灸(高さ100mm・30.1℃)は TRPV4/TRPV3 域にとどまり、TRPV1 には一度も届かない。台座灸(55.9℃)・温筒灸(64.3℃)は TRPV1 を確実に超え、温筒灸は TRPV2 域にまで達する。「どのチャネルを開けたいのか」が決まれば、選ぶべき灸法は物理的に決まる——これが本書の中心的な主張である。

4-3 TRPV1——灸の主標的

閾値。TRPV1 は約 43℃ を超える熱で活性化する非選択性陽イオンチャネルであり、この温度はヒトが熱を痛みとして感じ始める温度と一致する[55]。カプサイシン(唐辛子の辛味成分)の受容体でもあり、「熱い」と「辛い」が同じ感覚として立ち上がるのはこのためである。

可塑的な閾値。ここが臨床的に決定的に重要な点である。TRPV1 の43℃という閾値は固定値ではない。ATP、ブラジキニン、プロスタグランジンE₂・I₂ といった炎症性メディエータは、TRPV1 の熱活性化閾値を最低 30℃ 付近まで引き下げる[55][57]。つまり炎症のある組織では、通常なら痛くない温度——ほぼ体温——でも TRPV1 が開く。

分子機構。閾値低下は TRPV1 の細胞内 N末端・C末端における PKA / PKC によるリン酸化によって起こる[56]。細胞質ドメインの2つのセリン残基が PKC のリン酸化基質として同定されており、熱活性化閾値の低下には PKC 依存性経路が主に関与する[56]。さらに PKCβII は化学的作動薬だけでなく熱によるゲーティングにも必須の補助タンパク質であり、AKAP79/150 という足場タンパク質が PKA・PP2B・PKC を TRPV1 の近傍につなぎとめて複合体を形成している[58]。この複合体は、炎症や組織損傷時にGタンパク質共役受容体が刺激されることで活性化する[58]

臨床への直結

炎症部位への灸が「異様に熱く感じる」のは、患者の気のせいでも術者の腕でもなく、TRPV1 の閾値が薬理学的に下がっているからである。同じ台座灸を、健常組織と炎症組織に据えれば、後者では実効的な刺激強度が大きくなる。急性炎症のある部位で通常量の灸を据えれば、熱傷リスクは上がり、患者の不快も強くなる。「熱がりの患者」は感受性の問題ではなく、組織の状態を反映している可能性がある——用量を下げる合理的な根拠になる。

4-4 TRPV1が灸の標的である直接的証拠

ここまでは一般的な温度生理学である。では、灸そのものが TRPV1 を介して働くという直接的な証拠はあるか。ある。

証拠1:温度依存性が TRPV1 欠損で消える
急性高脂血症モデルマウスに 38 ± 1℃(快適な温感)と 46 ± 1℃(明瞭な熱感)の棒灸を施行した研究[62]。野生型では46℃群がコレステロール低下作用において有意に優れたが、TRPV1⁻/⁻ マウスでは温度による差が消失した。DRG における TRPV1 mRNA の発現上昇も46℃群で有意に大きかった(p<0.01)。著者らは「最良の治療効果をもたらす至適温度は43℃を超える閾値であるべき」と結論している。
証拠2:経穴に TRPV1 が濃縮している
マウスの ST36(足三里)と非経穴(sham point)を比較した研究[61]では、ST36 の筋で 1.89倍、筋外膜層で 2.23倍 の TRPV1 発現が認められた。発現部位は深腓骨神経線維、筋線維膜(特に筋外膜直下の薄層)、および皮下結合組織・筋外膜の線維芽細胞という神経・非神経の両方にまたがる。ST36 へのカプサイシン注入は手技鍼の鎮痛効果を再現したが、TRPV4作動薬・ASIC3作動薬では再現されなかった[61]
証拠3:隔物灸でも TRPV1 が起点になる
CV8(神闕)・CV4(関元)への生姜灸は、経穴の TRPV1 を活性化することで青斑核-脊髄経路を調節し、鎮痛・抗炎症作用を発揮すると報告されている[63]TRPV1 は灸療法の鍵となる標的であると著者らは述べている。
ただし——過大評価を避ける

TRPV1 は灸の唯一のセンサーではない。TRPV1 ノックアウトマウスでも急性熱痛はわずかしか影響を受けず、TRPV1 陽性線維そのものを除去したときに初めて完全に消失する[66]。TRPV1 は「熱を感じる線維の目印」としては極めて優秀だが、「熱を感じる唯一の分子」ではない。ST36 における TRPV1 の高発現も1.89〜2.23倍という差であって、経穴と非経穴が質的に別物であることを示すものではない。

4-5 血管側のTRP——内皮TRPV4と増幅ループ

TRP チャネルは感覚神経とケラチノサイトだけの話ではない。血管内皮細胞も TRPV4 を発現しており、これが血流そのものを感知している。

  1. 血流が増えると内皮にずり応力が加わる。
  2. ずり応力が内皮 TRPV4 を開き、単一チャネルレベルの局所 Ca²⁺ 流入——Ca²⁺スパークレット——が生じる[60]。TRPV4 は4チャネルで一群を成してスパークレットを媒介する。
  3. Ca²⁺ 流入が eNOS を活性化して NO を産生させると同時に、中等度(IK)・小(SK)コンダクタンス Ca²⁺感受性カリウムチャネルを開いて内皮を過分極させる。
  4. 過分極が周囲の平滑筋に伝わり、内皮依存性血管拡張(EDH)が起こる[60]

TRPV4⁻/⁻ マウスでは、血流依存性弛緩の NO 成分と EDH 成分の両方が著明に減弱する[60]。第3章で述べた「血流が増えること自体がさらなる血管拡張を呼ぶ正のループ」の分子実体が、これである。

灸の熱から血流増加までの分子カスケード
灸の熱 30–64℃ 表皮ケラチノサイト TRPV3 / TRPV4 ATP 放出 → P2受容体(神経終末) 感覚神経終末 TRPV1(> 43℃) 軸索反射 CGRP / サブスタンスP 血管内皮 TRPV4 Ca²⁺スパークレット 細動脈拡張 血流増加 NO / EDH ずり応力 ↑(増幅ループ)
図 4-1 三つの経路が並走している。灸の温度が43℃を超えるかどうかで、中央の TRPV1 経路(実線・強調)が動くかどうかが決まる。破線は、増えた血流自身が内皮 TRPV4 を再刺激して拡張を維持する正のフィードバック。慢性温熱療法が血管内皮機能を改善する(第7章)のは、このループを反復して回した結果と理解できる。

4-6 脱感作とタキフィラキシー——「毎日据える」ことの分子的意味

TRPV1 は開きっぱなしにはならない。活性化に伴って自らを抑制する仕組みを内蔵している。

急性脱感作(acute desensitization)
刺激中にチャネル活性が急速に低下する現象。
タキフィラキシー(tachyphylaxis)
反復刺激に対する応答の減弱。灸の臨床にとってはこちらが本質的である。

いずれも Ca²⁺依存性である。チャネルを通って流入した Ca²⁺ が、①カルモジュリンの結合、②カルシニューリンをスキャフォールドタンパク質経由でリクルートしての脱リン酸化、③ホスホリパーゼC活性化による PIP₂ の分解——という負のフィードバックを働かせる[64][65]。脱感作からの完全な回復には PI4K による PIP₂ の再合成が必要であり、脂質キナーゼを阻害すると回復しない[65]。加えて、タキフィラキシーからの回復はチャネルの細胞膜への再輸送(リサイクリング)と時間的に一致することが示されている[64]

反復熱刺激によるタキフィラキシーの大きさは、HEK細胞で 54%、DRG で 59%、そしてヒトで 25% と報告されている[66]

臨床仮説(未検証)

この分子機構は、同一部位に同じ灸を繰り返し据えたとき、物理的な温度が同じでも神経応答は目減りしうることを意味する。ヒトでの目減りは約25%と報告されており[66]、無視できない大きさである。実務上の含意は次の通り。

連続壮数を増やしても、後半の壮の神経応答は前半より小さい——『灸と血流の生理学②』第4章で見た「1壮と3壮で皮膚温に差がない」という所見[4]と整合する。②取穴を分散させる/日を空けるという伝統的な作法には、分子レベルの合理性がありうる。③一方で、深部加温(伝導熱)はタキフィラキシーの影響を受けないため、連続壮による深部温度の累積[20]とは矛盾しない

ただし、灸を用いてヒトでタキフィラキシーを直接測定した研究は存在しない。これは他分野の知見からの外挿であり、本書では仮説として提示する。

4-7 温度域から灸法を逆算する

表 4-2 目的とするチャネルから灸法を選ぶ
目的開けたいチャネル必要温度適する灸法
穏やかな保温・広範囲の温感TRPV3 / TRPV433–39℃棒灸(遠距離)、箱灸
NO依存性の持続的血流増加TRPV3/V4+内皮TRPV440–42℃棒灸(中距離)、箱灸、灸頭鍼
軸索反射・CGRP放出TRPV143℃超台座灸、温筒灸、知熱灸、隔物灸
炎症性充血・免疫賦活TRPV1+TRPV2+組織損傷50℃超透熱灸(直接灸)
本章の要約

灸の温度は、単に「熱い/ぬるい」ではなく、どの分子スイッチを入れるかを決めている。43℃という一線の上と下では、動く機序も、血流反応の形も、持続時間も違う。『灸と血流の生理学②』第2章の温度実測、『灸と血流の生理学②』第3章の血流データ、『灸と血流の生理学②』第4章の用量論は、すべてこの章の分子論の帰結として読むことができる。

4-8 局所加温に対する二相性の血流反応

標準的な実験プロトコル(局所皮膚温を 33℃ から 1℃/10秒42℃ まで上げ、20〜30分保持)で観察される反応は次の通り[6][7]

  1. 初期ピーク(onset 数十秒〜数分)——軸索反射による。TRPV1 を持つ C 線維終末が興奮し、インパルスが分枝を逆行性に伝わって隣接する終末から CGRPサブスタンスP が放出され、細動脈が拡張する。中枢を介さない、末梢だけで完結する反射である。TRPV1 拮抗薬(カプサゼピン)でこの初期ピークは減弱する[8]
  2. ノーディア(一過性の落ち込み)——初期ピークの後、血流が一度下がる。
  3. 二次プラトー(持続相)——主として NO に依存する。加温が続く限り高い血流が維持される。加齢によりこの NO 依存性の成分と軸索反射成分の両方が低下する[7]
臨床への翻訳

短時間・高温の灸(透熱灸、温筒灸)は主に軸索反射相を、長時間・中等温の灸(棒灸、箱灸、灸頭鍼)は主にNOプラトー相を狙っていると整理できる。前者は「点で強く」、後者は「面で長く」。この違いが、後述する灸種別の血流曲線の形の違いとして現れる。

4-9 軸索反射の分子的証拠

CGRP 拮抗薬を投与すると、灸様熱刺激による血流増加反応は完全に消失する[9]。CGRP は既知の内因性血管拡張物質のなかで最も強力な部類に属し、灸の局所血流増加の分子的主役と考えてよい。

05体性-自律神経反射

皮膚や筋に加えられた体性感覚刺激は、求心性線維を介して脊髄・脳幹に入り、自律神経遠心路を介して内臓機能を変化させる。これが体性-自律神経反射であり、鍼灸の全身作用の主要な生理学的基盤である[10]

二つの経路

分節性反射(segmental)
刺激部位と同じ脊髄分節に支配される臓器に、反射弓が脊髄内で完結して作用する。腹部への温熱刺激が上腸間膜動脈血流を増やす反応[11]はこの典型で、刺激部位の選択が効果臓器を決める
上位性反射(supraspinal)
延髄・視床下部を経由する。心拍数、血圧、全身の交感神経緊張の変化はこちら。刺激部位への依存性が小さく、「どこに据えても心拍は下がる」タイプの反応。

灸刺激の求心路

灸はポリモーダル受容器(機械・温熱・化学のいずれにも応答)を興奮させ、Aδ線維とC線維を介して脊髄後角に入る。この入力は同時に、延髄大縫線核・中脳水道周囲灰白質を興奮させて下行性疼痛抑制系と広汎性侵害抑制調節(DNIC)を賦活し、内因性オピオイドを動員する[12]。ただし本書は文献[12]の本文を読み取れておらず、この記述は原典で確認できていない。血流変化と鎮痛は、同じ求心路から分岐した別の出力である。

0642℃という境界線

灸のすべての温度設計は、42〜44℃という狭い帯域をめぐって組み立てられている。

表 6-1 組織温度と生体反応の対応
組織温度生体反応灸法との対応
〜39℃快適な温感。血管拡張は緩徐棒灸(遠距離)、湯たんぽ様
40–41℃安全域。内臓血流を変えうる[11]腹部温熱、箱灸
約42℃HSP発現の閾値。タンパク質変性が始まりうる温灸類が超える標準的な閾値
約43℃TRPV1活性化=熱痛の閾値、軸索反射の発火台座灸・温筒灸のピーク帯
44℃超組織熱傷が発生する[11]透熱灸は意図的にここを超える
50℃以上不可逆的な細胞死・水疱形成直接灸の灸痕形成

熱ショックタンパク質(HSP70)

HSP を誘導する臨界温度はおよそ 42℃ であり、多くの実験系で用いられる誘導温度と一致する[14]。HSP70 は分子シャペロンとして変性タンパク質に結合し、カスパーゼを抑制してアポトーシスを抑え、オートファジーを調節する。動物実験では、末梢経穴(LR14、PC6)への低温熱刺激が内臓の HSP70 発現を誘導し、肝・心の虚血再灌流障害を軽減することが示されている[14]

灸の設計原理

灸の温度設計は「42℃を超え、44℃を超えすぎない」時間をどれだけ確保するかの勝負である。『灸と血流の生理学②』第2章で見る通り、市販の間接灸はいずれも42℃超過時間を 87〜182秒 の範囲に収めている。これは偶然ではなく、HSP誘導域に入りつつ熱傷を最小化するという物理的最適化の結果と解釈できる。

07温熱の全身循環作用

急性の反応

局所〜領域の加温は、皮膚血管拡張による末梢抵抗低下、心拍出量の再配分、そして自律神経バランスの変化を引き起こす。健常者への下腿間接灸では、血圧は変化せずに心拍数のみが低下し、副交感神経指標(RMSSD)が上昇する[3]——後述する『灸と血流の生理学②』第6章の中心データである。

慢性の適応:温熱療法の血管効果

反復する受動的加温は、血管機能そのものを改造する。座位中心の生活を送る成人に 8週間(週4〜5回)の受動的温熱療法を行った研究では[13]

  • 血流依存性血管拡張反応(FMD)が 5.6 ± 0.3%10.9 ± 1.0% へ上昇
  • 動脈コンプライアンス改善、大動脈脈波伝播速度の低下
  • 頸動脈内膜中膜厚の減少、血圧低下

機序は順行性ずり応力の増加と逆行性ずり応力の減少、HSP の増加、および循環因子を介した NO 生物学的利用能の改善の複合と考えられている[13]

灸への外挿の注意

この研究の加温は全身温浴に近い規模であり、局所の灸1壮とは熱量が桁違いである。ただし「反復する温熱刺激が血管内皮を長期的に改善しうる」という原理は、灸を継続する臨床的意義を支持する方向にある。灸で同等の効果が出るかは未検証であり、これは現時点で最も価値の高い研究課題の一つである。

PART II

灸の物理学と分類

灸は熱源である。熱源としての性質——燃焼温度、放射スペクトル、熱の伝わり方——が決まれば、生体側の反応はかなりの程度予測できる。

08艾の燃焼と放射

燃焼の温度構造

燃焼中の艾(もぐさ)は、単一の温度を持つ物体ではなく、温度の異なる二つのゾーンからなる[15]

  • 燃焼帯(先端の赤熱部)550–700℃
  • 赤外放射帯(その後方)200–400℃

皮膚に届く熱の大部分は、直接の高温部からではなく、この赤外放射帯からの輻射と、灰・台座を介した伝導による。

燃焼の熱力学

熱重量分析/示差走査熱量測定(TG/DSC)による測定では、艾は 200℃→500℃ の区間で 9188 mJ/mg の熱を放出する[15]。主燃焼段階の平均質量減少率は 1.08%/分、ピークでも 7.86%/分 にとどまる。艾の燃焼は穏やかで遅く、熱を連続的・安定的に放出する——これが、爆発的に燃える他の植物材料ではなく艾が選ばれ続けてきた物理的な理由である。

赤外放射スペクトル

報告されるスペクトルは測定法によって幅がある。

表 8-1 燃焼する艾の赤外放射スペクトル(報告値のばらつき)
測定法波長範囲ピーク領域
直接測定0.8–5.6 µm約 1.5 µm近赤外
FTIR2.5–13.0 µm3.75 / 8.75 µm(二峰性)中〜遠赤外
間接法約 2.8 µm近〜遠赤外

いずれにせよ艾の放射は可視光ではなく赤外であり、生体組織における赤外線の透過深度は波長により数百µm〜数mm程度にとどまる。したがって「赤外線が深部まで直接届く」という説明は物理的に成立しない。深部への到達は、後述の通り熱伝導と神経反射による。

煙の組成

艾の精油成分にはシネオール、α-ツエン、ピネン、サビネンなどのアルケン類、カンファー、ボルネオールが含まれ、微量のアルデヒド、ケトン、フェノール、アルカン、ベンゼン系化合物も検出される[15]。日本製の艾の燃焼煙については安全性評価が行われている[16]が、換気の乏しい環境での長時間曝露は避けるべきである(『灸と血流の生理学②』第13章)。

09熱の伝わり方で灸を分ける

灸法を分類する軸はいくつもあるが、血流反応を予測するうえで最も有用な軸は「熱の伝達様式」である

表 9-1 熱伝達様式による灸の分類
伝達様式該当する灸法温度特性主に動く血流機序
直接燃焼透熱灸・焼灼灸・打膿灸点状・超高温・短時間組織損傷 → 炎症性充血
伝導熱隔物灸(生姜・塩・味噌・ニンニク)中温・面状・介在物依存軸索反射+NO
輻射熱棒灸・箱灸低〜中温・広範囲・長時間NOプラトー相
伝導+輻射台座灸・温筒灸中〜高温・限局・数分軸索反射(CGRP)主体
金属伝導灸頭鍼(温鍼)深部へ持続加熱深部組織血流+軸索反射

10灸法の分類体系

有痕灸(灸痕を残す)

透熱灸
精製度の高い点灸用艾を米粒大〜半米粒大にひねり、皮膚上で燃やし切る。意図的に微小な熱傷(灸痕)を残す。局所温度は50℃を大きく超え、点状の組織損傷を作る。
焼灼灸・打膿灸
より大きな艾炷を用い、意図的に化膿創を作る古典的手法。現代日本では衛生上の理由から実施が限られる。

無痕灸(灸痕を残さない)

知熱灸
艾を皮膚上に置くが燃やし切らず、患者が熱さを感じた時点で取り除く。TRPV1閾値(約43℃)に到達した瞬間に刺激を終了する設計であり、軸索反射のトリガーとしては十分だが熱傷は作らない。
隔物灸
生姜・ニンニク・塩・味噌・枇杷葉などを皮膚と艾の間に挟む。介在物が熱容量と熱伝導率を決めるため、同じ艾でも到達温度と持続時間が変わる。加えて介在物由来の化学的刺激(生姜のジンゲロール等)が加わりうる。
台座灸(せんねん灸型)
紙筒+艾+台座。伝導熱と輻射熱の両方を用いる。市販品の標準的な形式。
温筒灸(カマヤミニ型)
筒状の容器に艾を充填。台座灸より急峻に温度が上がり、最高温度も高い。
棒灸
棒状に固めた艾を皮膚から距離を置いてかざす。距離が唯一かつ最大の制御変数であり、距離を変えるだけで性質が別物になる(『灸と血流の生理学②』第2章)。
箱灸
木箱の中で艾を燃やし、広い面を穏やかに温める。腹部・腰部に用いる。
灸頭鍼(温鍼)
刺入した鍼の柄に艾を装着して燃やす。金属鍼を熱伝導路として深部組織へ熱を運ぶ唯一の灸法。持続的な加熱により深層まで温めうる。
電子温灸・無煙灸
電気ヒーターや炭化艾を用い、煙を出さずに温熱のみを与える。温度制御が精密で、研究上の再現性が高い。
PART III

本書が答えられなかったこと

基礎生理学はこの分野で最も証拠が固い領域である。それでも、臨床がもっとも知りたい問いには答えが出ていない。その空白を具体的に書く。

11本書の範囲で見出せなかったこと

本書が扱った基礎循環生理学と灸の物理学は、この分野で最も証拠が固い領域である。それでも、臨床がもっとも知りたい二つの問いには、まだ答えが出ていない。以下は原本の空白リストからの抜粋であり、文言・引用は原本のまま変えていない。

  1. 反復施灸による血管機能の変化——温熱療法が8週間でFMDを約2倍にした[13]ように、灸の継続が内皮機能を改善するかは検証されていない。臨床的にも研究的にも、これが最も価値の高い未解決問題である。
  2. ヒトにおける TRPV1 タキフィラキシーの実測——第4章6節の議論は他分野からの外挿にとどまる。連続壮数・施灸間隔・取穴の分散が受容体応答にどう影響するかを、ヒトで直接測定した研究がない。これが検証されれば、壮数と施灸間隔という最も基本的な臨床パラメータに、初めて分子的な根拠が与えられる。
この先は姉妹巻に続く

灸そのものを対象とした空白——灸種の直接比較試験、透熱灸の定量的血流データ、刺激パラメータの標準報告、効果の長時間追跡——は、いずれも灸種別の血流を扱う姉妹巻の範囲にある。偽灸(sham moxibustion)が成立するかという方法論の問題とあわせて、『灸と血流の生理学②』第14章に収めた。

演習

理解度チェック

本書の内容から7問。選択するとその場で正誤と解説が出ます。設問はすべて本文に記載した報告値・記述に対応しており、各問には該当章へのリンクを付けました。自己確認のための演習であり、資格や技能を証明するものではありません。

Q01 出典:第1章

血管の半径が広がったとき、血流はどう変わるか。

Q02 出典:第2章

手掌・足底・耳などの無毛部に密に分布し、開くと大量の血液が皮膚表層を通って熱を放散する構造はどれか。

Q03 出典:第3章

「血流が増えること自体が、さらなる血管拡張を呼ぶ」というループを担っているのはどの制御系か。

Q04 出典:第4章

灸の主要な標的と考えられている TRPV1 は、何℃を超える熱で活性化するか。

Q05 出典:第6章

灸の温度設計について、本書はどうまとめているか。

Q06 出典:第8章

燃焼中の艾から皮膚に届く熱について、正しいのはどれか。

Q07 出典:第9章

灸法を「熱の伝わり方」で分けたとき、金属を熱伝導路として深部組織へ熱を運ぶ手法はどれか。

解答ずみ 0 / 7
付録

引用文献

本書の記述はすべて以下の一次・二次資料に基づく。階層E(非査読)の資料は本文中でその旨を明記した。

  1. Nakahara H, et al. Acute effects of regional heat stimulation by indirect moxibustion on cardiovascular responses. J Physiol Sci. 2022;72(1):30. PMC10717983
  2. Kuge H, et al. Effect of Different Dosages of ST36 Indirect Moxibustion on the Skin Temperature of the Lower Legs and Feet. Medicines (Basel). 2018;5(2):47. PMC6023346
  3. Johnson JM, Kellogg DL. Local thermal control of the human cutaneous circulation. J Appl Physiol. 2010. journals.physiology.org
  4. Minson CT, et al. Decreased nitric oxide- and axon reflex-mediated cutaneous vasodilation with age during local heating. J Appl Physiol. 2002. journals.physiology.org
  5. Wong BJ, et al. Transient receptor potential vanilloid type-1 (TRPV-1) channels contribute to cutaneous thermal hyperaemia in humans. J Physiol. 2010;588(Pt 21):4317-4326. PubMed 20807792
  6. Noguchi E, et al. Neural mechanism of localized changes in skeletal muscle blood flow caused by moxibustion-like thermal stimulation of anesthetized rats. J Physiol Sci. 2009;59(6):421-427. PMC10717530
  7. 佐藤昭夫. 体性-自律神経反射について. 耳鼻咽喉科展望 1980;23(3). J-STAGE
  8. Takayama S, et al. Changes of Blood Flow Volume in the Superior Mesenteric Artery and Brachial Artery with Abdominal Thermal Stimulation. Evid Based Complement Alternat Med. 2011;2011:214089. PMC3095448
  9. 神経内科診療における鍼灸活用の可能性を探る. 臨床神経学. 2012;52(11):1294.(学会シンポジウムの記録。本書の調査では本文PDFから文字情報を抽出できず、記載内容を原典で確認できなかった) 神経学会(PDF)
  10. Brunt VE, et al. Passive heat therapy improves endothelial function, arterial stiffness and blood pressure in sedentary humans. / Heat therapy: mechanistic underpinnings and applications to cardiovascular health. J Appl Physiol. 2020. journals.physiology.org
  11. Thermal Effect on Heat Shock Protein 70 Family to Prevent Atherosclerotic Cardiovascular Disease. Biomolecules. 2023;13(5):867. PMC10216495
  12. Zhang Y, Kang L, Li H, et al. Characterization of moxa floss combustion by TG/DSC, TG-FTIR and IR. Bioresour Technol. 2019;288:121516. doi:10.1016/j.biortech.2019.121516
  13. Matsumoto T, Katai S, Namiki T. Safety of smoke generated by Japanese moxa upon combustion. Eur J Integr Med. 2016;8(4):414-422. doi:10.1016/j.eujim.2016.03.005
  14. Huang C, Sheu TWH. Study of the effect of moxibustion on the blood flow. Int J Heat Mass Transf. 2013;63:141-149.(生体熱輸送の数値シミュレーション研究。実測ではない) doi:10.1016/j.ijheatmasstransfer.2013.03.057
  15. 菅田良仁, 東家一雄, 大西基代, 黒岩共一, 戸田静男, 木村通郎. 艾の燃焼温度と生体内温度変化に関する研究. 全日本鍼灸学会雑誌. 1988;38(3):326-329.(抄録に数値の記載がなく、本文に到達できなかった) doi:10.3777/jjsam.38.326
  16. Tominaga M. The Role of TRP Channels in Thermosensation. In: Liedtke WB, Heller S, eds. TRP Ion Channel Function in Sensory Transduction and Cellular Signaling Cascades. Boca Raton (FL): CRC Press/Taylor & Francis; 2007. Chapter 20.(第2版までは著者名を誤って Patapoutian と記載していた。第3版で原典に当たり訂正した) NCBI Bookshelf NBK5244
  17. Rosenbaum T, Simon SA. TRPV1 Receptors and Signal Transduction. In: Liedtke WB, Heller S, eds. TRP Ion Channel Function in Sensory Transduction and Cellular Signaling Cascades. Boca Raton (FL): CRC Press/Taylor & Francis; 2007. Chapter 5. NCBI Bookshelf NBK5260
  18. Moriyama T, et al. Sensitization of TRPV1 by EP1 and IP reveals peripheral nociceptive mechanism of prostaglandins. Mol Pain. 2005;1:3. PMC1074353
  19. The Basal Thermal Sensitivity of the TRPV1 Ion Channel Is Determined by PKCβII. / J Neurosci. 2014;34(24):8246-8258. J Neurosci
  20. Mandadi S, et al. TRPV3 in keratinocytes transmits temperature information to sensory neurons via ATP. Pflugers Arch. 2009;458(6):1093-1102. PubMed 19669158
  21. Mendoza SA, et al. TRPV4-mediated endothelial Ca²⁺ influx and vasodilation in response to shear stress. / Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2010;298(2):H466-H476. APS
  22. Wu SY, et al. Abundant expression and functional participation of TRPV1 at Zusanli acupoint (ST36) in mice: mechanosensitive TRPV1 as an "acupuncture-responding channel". BMC Complement Altern Med. 2014;14:96. PMC3984709
  23. Wang GY, et al. Effects of Moxibustion Temperature on Blood Cholesterol Level in a Mice Model of Acute Hyperlipidemia: Role of TRPV1. Evid Based Complement Alternat Med. 2013;2013:871704. PMC3713370
  24. Wang X, Yang L, Bi K, et al. Ginger Moxibustion Activates TRPV1 to Modulate the Locus Coeruleus-Spinal Cord-Uterus Pathway and Alleviates Primary Dysmenorrhea in Rats. J Pain Res. 2025;18:7109-7125.(ラット実験) doi:10.2147/JPR.S554548
  25. Tian Q, Hu J, Xie C, et al. Recovery from tachyphylaxis of TRPV1 coincides with recycling to the surface membrane. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019;116(11):5170-5175. doi:10.1073/pnas.1819635116
  26. Liu B, et al. Functional Recovery from Desensitization of Vanilloid Receptor TRPV1 Requires Resynthesis of Phosphatidylinositol 4,5-Bisphosphate. J Neurosci. 2005;25(19):4835. J Neurosci
  27. Rosenberger DC, et al. The capsaicin receptor TRPV1 is the first line defense protecting from acute non damaging heat: a translational approach. J Transl Med. 2020;18(1):28. PMC6966804
  28. McKemy DD. How cold is it? TRPM8 and TRPA1 in the molecular logic of cold sensation. Mol Pain. 2005;1:16. Molecular Pain/Bautista DM, et al. The menthol receptor TRPM8 is the principal detector of environmental cold. Nature. 2007. Nature

灸と血流の生理学① 第1版 2026年8月17日発行
発行:合同会社YOMOGI BASE(鍼灸エビデンス・ライブラリ)

本書の位置づけ。本書は『灸と血流の生理学』(第2版・全24章)を読み進めやすい分量に分けた二分冊の①であり、基礎循環生理学と灸の物理学・分類までを収める。灸種別の局所血流、全身循環への波及、臨床エビデンスと安全性は②に収めた。

数値の出所方針。本書は2026年8月時点で公開されている一次文献・系統的レビューに基づいて編纂した。数値はすべて原著の報告値であり、本書の著者が計算・推定した値は含まない。

調査範囲。分冊にあたり、本書の本文が引用している文献のみを引用文献欄に掲げ、番号は原本の通し番号を保持した。

本書の限界。本書が扱う温熱の血管作用の知見は、灸以外の加温手段(温浴・接触加温・カプサイシン)で得られたものを多く含む。灸への外挿にあたっての留保は各章に明記した。本書の範囲の空白リストは第11章に、原本全体の未解決問題は『灸と血流の生理学②』第14章に掲げた。

発行と利益相反。本書の発行者は合同会社YOMOGI BASEである。同社はよもぎ・お灸に関連する商品を扱う事業者であり、この利害関係を開示したうえで、本書では特定の商品・サービス・銘柄に一切言及せず、効能をうたわない編集方針を採っている。文献の選定・数値の引用・空白の明示は、事業上の利害と独立して行った。自社および自社関係者による発信は、査読の有無にかかわらず出典として用いない。

ご利用にあたって。本書は教育・研究目的の学術情報であり、個々の患者に対する診断・治療方針を示すものではない。臨床判断は、施術者自身の責任において、患者の状態と関連法規に基づいて行われたい。

改版履歴。原本『灸と血流の生理学』(全24章)第2版(2026年8月)では、第4章を「温度受容の分子基盤——TRPチャネル」として全面的に書き改め、TRPチャネルの全体像、TRPV1の可塑的閾値とリン酸化による感作、灸を対象とした TRPV1 の直接的証拠(ノックアウトマウス・経穴発現)、脱感作/タキフィラキシー、内皮TRPV4の増幅ループ、および分子カスケード図を追加した。
2026年8月17日 二分冊化にともなう第1版。章番号を分冊内で振り直し、姉妹巻の章への参照はリンクで接続した。
2026年8月17日 出典照合版。全引用文献をNCBI(PubMed/PMC)・Crossref・J-STAGEの書誌レコードに当たって実在と書誌を確認し、著者名・巻号頁を補完した。孫引き・誤帰属・非査読ソースは一次文献に差し替え、差し替えた箇所は引用文献欄に注記した。編者が報告値を超えて述べる示唆は1冊2件までとする規約を序章に明記した。