灸の臨床|消化器① 病態と適応
この教材が扱うこと症状の名前を決めるまで、灸の話はできない
この教材の数字3つ
- 同じ熱が、部位で逆に働くマウスの胃運動は足三里の43℃で振幅+13.3±3.5%〜+27.2±4.3%、中脘では抑制。41℃はどちらも無効
- 機能性ディスペプシアの26.1%は過敏性腸症候群の基準も満たす上部と下部を別の主訴として扱うと、4人に1人を取りこぼす
- CDAIには内視鏡が入っていない担当医の全般評価を再現するよう18変数から8変数を選んで作られた指数である
臨床への翻訳本文からの抜粋
- 11章 下痢という訴えの分解
慢性下痢の患者では、脱水と電解質の状態が背景にある。下痢が続いている患者に、発汗を伴うような強い温熱刺激を長時間加えることは、体液の状態を悪い方向に動かしうる。これはヒトの試験で定量されたものではなく、生理学的な妥当性からの注意である。本書はこの注意を、報告値ではなく推論として明示したうえで置く。灸の施術そのものより、施術時間と室温の管理の問題として扱うのが実際的である。
- 14章 標準治療と、鍼灸が置かれる場所
IBD の患者に灸を提案するときに施術者が言えるのは、次の形に限られる。「主治医の治療を続けたうえで、症状の負担を減らす目的で試す価値があるかもしれない。ただし粘膜の炎症そのものが灸で治るという根拠はない」。この文の後半を省略すると、第12章で見た「症状が軽くなったから通院をやめる」という最悪の経路が開く。後半こそが、施術者が言うべき部分である。
- 17章 安全性と連携の判断
この一覧を通した結果として、灸を行わない、あるいは受診を先行させるという判断になる患者は一定数いる。それは施術の機会を失うことではない。第2巻で見るとおり、消化器領域における灸の効果の根拠はきわめて限られている。根拠の限られた介入を、除外診断が済んでいない患者に対して行うことは、期待できる利益に対して負う責任が大きすぎる。この巻が最終的に読者に渡すのは、灸のやり方ではなく、灸を始めない判断を自信をもって下すための材料である。
この教材を読むとできるようになること
- 序章症状の名前を決めるまで、灸の話はできない消化器の訴えを、主観指標・複合臨床指標・客観指標の三層に分けて扱えるようになる。
- 第I部上部消化管——胃はどう働き、どこで壊れるか「胃がもたれる」を、貯める・砕く・送り出すのどれの話かに分けて語れるようになる。
- 第II部下部消化管——過敏性腸症候群過敏性腸症候群を亜型で分け、腹痛が必須要件であることから考え始められるようになる。
- 第III部便秘と下痢——何を測っているのか便秘の効果を、回数・便形状・通過時間のどれで測っているかを見分けられるようになる。
- 第IV部炎症性腸疾患炎症性腸疾患で灸を選ばない判断を、粘膜治癒という到達点から説明できるようになる。
- 第V部灸が届きうる経路と安全性腹部への灸と四肢への灸で胃の応答が逆になることを、体節の言葉で説明できるようになる。
分かっていないこと本文各章より
- 単独療法として標準治療を置き換える設計の試験は、今回の調査範囲では見出せなかった
- 今回の調査では、隔物灸(生姜灸・附子灸)の皮膚温を測定した査読済みの一次文献に到達できなかった
- 大腸通過時間で灸を評価した試験には、今回の調査範囲で到達できなかった
灸エビデンス・ライブラリ https://kyu.yomogi-base.jp