灸と皮膚の生理学②
この教材が答える問い灸の熱は皮膚のどこまで届き、何がそれを止めているのか
この教材の数字3つ
- 伝導だけでは深部に熱は届かない輻射を組み込んで初めて実測と一致する(豚組織)
- 家兎では表面58.41℃が深さ5 mmで39.25℃報告されている到達深度は研究間で一致しない
- ヒトで灸の深部温度を測った研究がない実測値は家兎・豚・模擬生体モデルのものである
臨床への翻訳本文からの抜粋
- 11章 皮膚温と深部温
灸によって生じる温度変化は、常に定常状態への復帰に向かう過渡現象である。身体は加えられた熱を捨てる方向に働く。したがって、施灸によって深部温が持続的に上昇し続けることはない。「お灸で身体の芯から温まる」という表現が、深部体温の持続的上昇を意味するのだとすれば、それを支持する測定値に本書は到達していない。患者が感じる温かさが何を反映しているかは、温度受容の問題であり『灸と神経生理学①』が扱う。
- 13章 ここから先は『お灸の安全性』へ
『お灸の安全性』を読むとき、本書の三点を持って読むと、同じ記述が違って見える。熱傷の深達度は、皮膚の層構造の上に定義されている。そして、その層の厚みは部位によって違う[13]。同じ灸を同じ時間すえても、部位が違えば、熱が到達する層が違う可能性がある。ただしその「可能性」を定量した研究に、本書は到達していない。次章でその空白を列挙する。
- 14章 本書が答えられなかったこと
本書を読み終えた読者は、「お灸の熱が深部まで届く」という一文について、それが何によって支持され、何によって支持されていないかを言えるようになっている。支持しているのは、輻射を含めた数値モデルと豚組織での MRI 測定[5]である。支持していないのは、家兎での実測[4]と、血流を含まない模擬モデル[6]である。そしてヒトのデータは存在しない。この状態を「分かっていない」と呼ぶ。分かっていないことを分かっていないと言えることが、本書の目的である。
この教材を読むとできるようになること
- 序章熱は、どこかで止まっている本書が扱う深部温度のデータが、いずれもヒトのものではないことを、読む前に把握できる。
- 第I部熱が伝わるということ熱の三つの伝わり方と皮膚各層の熱物性の実数を押さえ、皮膚が熱的に均質でない理由が分かるようになる。
- 第II部灸の熱が皮膚に入るところ灸の熱が深さごとに何度になるかの報告値を並べ、食い違いを条件の違いに分解できるようになる。
- 第III部熱を止めているもの血流と蒸発という二つの放熱路の働き方を知り、灸の持続時間が持つ意味を言えるようになる。
- 第IV部届いた熱が組織に何をするか損傷が温度と時間の積分で決まることを知り、最高温度だけで安全性を論じられない理由が分かるようになる。
- 第V部未解決問題この領域の空白を、次の研究者が明日着手できる粒度で指させるようになる。
分かっていないこと本文各章より
- ヒトの生体で、灸の熱が皮膚のどの深さでどれだけの温度になるかを測った研究には、本書の調査範囲では到達できなかった
- 灸を対象として、血流応答の有無で深部温度を比較した研究には到達できなかった
- 施灸時に、灸をすえた局所でどれだけの発汗が起き、それがどれだけの熱を奪っているかを測った研究には、本書の調査範囲では到達できなかった
灸エビデンス・ライブラリ https://kyu.yomogi-base.jp