灸エビデンス・ライブラリ
Moxibustion & Tissue Repair — 組織修復・全16章

灸と組織修復

灸は、意図的に組織を壊す手技である。
壊したあとに起こることを、どこまで「治療効果」と呼べるのか。

第1版 2026年8月 熱ショック応答 / 炎症相 / マクロファージとコラーゲン / 血管新生 / 灸痕 / 撤回された臨床エビデンス

3分で要点だけ

本文で示した報告値のうち、この教材の骨格になる3点。

  1. 施灸局所には瘢痕組織が生じる46±1℃・30分のマウスでも表皮の不完全化と瘢痕が報告されている
  2. 修復の指標が動いた報告は、すべて動物ヒトの施灸局所を測った研究に1件も到達できなかった
  3. 最上層の臨床エビデンスは撤回された理由は査読プロセスの毀損であり、効果の否定ではない

続けて読むなら 序章から。要点だけ確かめたい場合は 理解度チェック へ。

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序章

壊すことと治すことが、同じ一つの操作である

灸は、日常的に行われる手技のなかで、ほとんど唯一「組織を壊すこと」を意図に含む。壊れた組織は修復に向かう。その修復反応を、私たちは長く「灸の作用」と呼んできた。本書は、その呼び方が現在どこまで支えられているのかを、報告値の側から確かめる。

この部を読むと「損傷が起きた」「修復が起きた」「治療効果があった」の三つを、混ぜずに読み分けられるようになる。

00本書の読み方とエビデンスの階層

本書は灸を否定する本ではない。灸が組織に起こす変化のうち、何が実際に測られていて、何が測られていないのかを分ける本である。分けた結果、測られていない側が予想より大きいことが、本書の主要な内容になる。

0-1 この教材を貫く三つの問い

  1. 灸が作る組織損傷は、どこまで組織学的に記述されているのか
  2. 損傷のあとに起こる修復反応のうち、灸で実際に測られたのはどれか
  3. その反応を「治療効果」と呼ぶために、いま何が足りないのか
本書が「考察」を書くときの規約

本書は原著の報告値だけで構成する。報告値を超えて編者が可能性を述べる箇所は、1冊につき2件までとし、いずれも「考察」のラベルを付けた囲みの中に置き、成立しない条件を併記する。囲みの外の本文に、報告されていない因果や機序を書かない。ラベルのない断定は、すべて原著の報告値か、原著の著者自身の結論である。

0-2 エビデンスの階層

本書で用いる階層は既刊と同じA〜Eである。ただし本書では、この表そのものが一つの所見になっている。階層Bの欄を見てほしい。

表 0-1 本書で用いるエビデンス階層
階層デザイン本書での該当主な弱点
A系統的レビュー/二重盲検RCT褥瘡・糖尿病足のメタ解析[20][22][23]——いずれも撤回済み。慢性創傷への局所温罨法のレビュー[24]——組み入れ0件撤回により根拠として用いることができない
Bヒトを対象とした客観指標の実験該当なし——
C動物実験(機序解明)マウス施灸局所の組織像[1]、ラット全層皮膚欠損[12]、ラット難治性潰瘍[13][14]、ラット切除創[16]、ラット筋のHSP[9]刺激条件がヒト臨床と大きく異なる。皮膚の厚さと毛包密度も異なる
D症例集積・非盲検研究灸の有害事象の症例報告レビュー[18]分母がなく発生率を計算できない
E症例報告(単一例)灸痕から生じた基底細胞癌[19]、熱傷瘢痕のMarjolin潰瘍[27]1例から発生率は導けない。ただし機序と重症度の上限を示す
階層に入らない記述がある

創傷治癒の相[2]熱傷閾値[3]HSF1の熱センサー機構[7][8]HSP70の免疫学[11]マクロファージ極性[15]は、灸を対象とした臨床試験ではなく、一般生理学・免疫学の総説および教科書的資料に基づく。これらは階層A〜Eの対象外として扱い、灸の根拠としてではなく、灸の所見を読むための枠組みとして用いる。

0-3 読むときに外してほしくない三つの区別

「損傷が起きた」と「修復が起きた」と「治療効果があった」
この三つは連続していない。修復は損傷が起きれば必ず始まる生体の既定の応答であり、修復が観察されたことは、その損傷を与えた意義を証明しない。本書はこの三段を毎回分けて書く。
「灸で測られた」と「温熱で測られた」
組織修復と熱の関係を扱う研究の多くは、灸ではなく温熱療法・レーザー・実験的熱傷で行われている。本書はそれらを引用するが、引用のたびに「これは灸ではない」と明記する。
「マーカーが動いた」と「創が閉じた」
サイトカイン・コラーゲン・血管数はいずれも中間指標である。中間指標の変化が創閉鎖という結果に対応するかは、別に確かめる必要がある。

0-4 本書が扱わないこと(既刊との境界)

本書は損傷が起きたあとを扱う。損傷が起きるまで——熱傷の深度分類、44℃という閾値、低温熱傷損傷積分、皮膚温と組織温の区別、灸種別のリスク構造、有害事象の全体像——は既刊『お灸の安全性』に収めた。本書は同じ現象の裏側から入るため、いくつかの数値を引き直すが、論点は「壊れたあとに何が起こるか」に固定する。

灸の温度曲線そのものは『温度曲線』に、熱の受容機構は『灸と神経生理学①』に、血管反応は『灸と血流の生理学』にある。本書は神経を経ない組織側に限定する。侵害受容・反射・脳の関与は扱わない。

商品名・銘柄・価格・購入先は本書に一切登場しない。

第I部

損傷は起きた。そこから何が始まるか

この部は二つの章でできている。一つは、灸を据えた場所の組織が実際にどう見えるかという観察。もう一つは、その観察を読むための一般的な枠組みである。枠組みを先に置かないと、以降の章に並ぶ指標が、何の相の何の話なのか分からなくなる。

この部を読むと施灸局所の組織所見を、創傷治癒の四相という時間の目盛の上に置けるようになる。

01灸は組織に何を残すのか

「灸は温熱刺激である」という説明は、施灸局所を顕微鏡で見た報告と突き合わせると、不十分であることが分かる。そこにあるのは刺激の痕ではなく、損傷と修復の痕である。

1-1 施灸局所で観察された組織像

Xieら(2018年)は、C57BL/6Jマウス15匹とTRPV1欠損マウス15匹を、無処置対照・施灸30分後・施灸72時間後の3群(各5匹)に分け、左側の足三里(ST36)に 46 ± 1℃ の灸を30分間行い、局所組織をH.E.染色で観察した[1]

報告された所見は次のとおりである[1]

表 1-1 施灸局所の組織学的所見[1](マウス・46 ± 1℃・30分)
部位報告された所見
表皮不完全な表皮。角層は対照より厚く、層構造が不明瞭
表皮〜真皮瘢痕組織が認められた
真皮構造が疎になり、膠原線維・弾性線維が減少
間質炎症細胞の浸潤、血管の拡張と充血
付属器毛包と脂腺の異常な過形成

これらの所見は、C57BL/6JマウスとTRPV1欠損マウスの両方で認められた[1]

1-2 この観察が持つ二重の意味

第一に、灸を据えた場所には瘢痕組織が生じている。瘢痕は刺激の結果ではなく、組織欠損が修復された結果である。第1章の時点で、本書の主題は「刺激への反応」ではなく「損傷への修復」に確定する。

第二に、この一連の組織変化はTRPV1欠損マウスでも生じた[1]。TRPV1は温度感受性の侵害受容チャネルであり、灸の熱を神経に伝える入口として繰り返し言及されてきた(『灸と神経生理学①』)。その入口を失った動物でも、組織の側の変化は起きている。組織修復の話を、神経の話と切り離して立てられる根拠がここにある。

1-3 この条件は、灸の実測温度のどこに位置するか

Xieらが用いた 46 ± 1℃・30分という条件は、灸の実測値の分布のなかでどこにあるのか。既刊で扱った測定値を、測定点を明示したうえで並べる。

表 1-2 灸の温度の報告値と、本章の実験条件
対象温度測定点・条件文献
米粒大艾炷(透熱灸)140〜160℃艾炷の底面。石綿板上での燃焼[5]
棒灸(直径1.8 cm・距離1〜2 cm)71〜93℃ラット足三里の局所皮膚温。熱傷病変が生じた条件[6]
温筒灸64.3 ± 3.3℃熱電対。灸そのものの温度特性[4]
台座灸55.9 ± 5.0℃同上[4]
棒灸(高さ20 mm)51.2 ± 4.7℃同上[4]
本章の実験条件[1]46 ± 1℃マウス足三里・30分間[1]
棒灸(高さ100 mm)30.1 ± 3.3℃熱電対。灸そのものの温度特性[4]
この表を縦に読まない

測定点がすべて異なる。艾炷の底面温度[5]、灸器具そのものの温度[4]、動物の皮膚温[1][6]は別の量である。この表が示しているのは順位ではなく、本章の46℃が、灸で報告されている温度帯の下のほうに位置するという一点だけである。それでも瘢痕は生じている。

Liuら(2020年)は、SDラット120匹を用い、直径0.5・0.9・1.2・1.8 cmの艾条を1〜5 cmの距離から足三里に10分間当て、局所皮膚温を測定した(各群6匹)[6]。皮膚温は艾条の直径が大きいほど上がり、距離が離れるほど下がった。直径1.8 cmの艾条を1〜2 cmの距離で用いた条件では 71〜93℃ に達し、熱傷病変が生じた[6]

臨床への翻訳

施灸局所に瘢痕組織が生じるのは、透熱灸のような有痕灸に限った話ではない。マウスでは46℃・30分という、間接灸の温度帯の下限に近い条件でも、表皮の不完全化と瘢痕形成が報告されている[1]。ただしこれはマウスの皮膚での所見であり、ヒトの皮膚は厚く毛包密度も異なる(第15章)。この所見をヒトの灸痕の説明としてそのまま用いることはできない。言えるのは、「痕が残らない灸=組織が変化していない灸」ではないということまでである。

02熱傷の「あと」を扱う枠組み

損傷のあとに起こることには、決まった順序と時間の目盛がある。この目盛を持たずに灸の研究を読むと、「7日目に増えた」「14日目に減った」という報告が、良い知らせなのか悪い知らせなのか判断できない。

2-1 創傷治癒の四つの相

皮膚創傷の治癒は、止血・炎症・増殖・成熟(再構築)の四相で記述される[2]

表 2-1 創傷治癒の相と時間[2]
時間主な担い手と出来事
止血受傷直後血小板の活性化によりフィブリンの足場が形成される
炎症数日間好中球・単球・内皮細胞がフィブリンの足場に接着する
増殖数週間5〜7日目までに線維芽細胞が新しいコラーゲンを産生し始める。筋線維芽細胞が創収縮に関与する
成熟・再構築3週目ごろから最長12か月細胞外基質が再構築される
止血 炎症 増殖 成熟・再構築 0 数日 3週 12か月 受傷からの時間(目盛は等間隔ではない)
図 2-1 模式図。原著が示しているのは「炎症は数日間」「増殖相は数週間、5〜7日目までに線維芽細胞がコラーゲン産生を開始」「成熟・再構築は3週目ごろから最長12か月」という記述である[2]。各相の境界の正確な日付や、相の重なり方の割合を原著が数値で示しているわけではない。横軸に等間隔の目盛を置かないのはこのためである。

2-2 治癒は元どおりではない

創の抗張力が最大に達するのは受傷から 11〜14週 後であり、最終的に得られる瘢痕は元の組織の抗張力の約80%にとどまり、100%には決してならない[2]

この一文は、灸を組織修復の側から論じるときの前提になる。修復は復元ではない。組織を壊すたびに、そこには元と異なる組織が置かれる。

2-3 マクロファージの二つの表現型

炎症相から増殖相への移行を担う細胞として、マクロファージの表現型の切り替えが繰り返し論じられる。Gaoら(2023年)は、ラット骨髄由来マクロファージをリポ多糖でM1に、インターロイキン4でM2に分極させ、それぞれをラットの創傷モデルに投与した[15]

報告された内容は次のとおりである[15]

  1. 培養細胞は CD45陽性 87.1%、CD68陽性 89.2%、CD45/CD68二重陽性 86.5% であった
  2. M1培養ではIL-12が増加し(P < .05)、IL-10の減少は有意ではなかった(P ≥ .05)
  3. M2培養ではIL-10が有意に増加し(P < .01)、IL-12の低下は有意ではなかった(P ≥ .05)
  4. M2細胞の投与は治癒と組織再生を促進し、M1細胞の投与は炎症細胞の動員とコラーゲン沈着を遅らせ、治癒を損なった
要点

この研究は灸を扱っていない。ここで得られるのは読み方の座標軸である。以降の章で「灸によりマクロファージが増えた」という報告に出会ったとき、問うべきは数ではなく、いつ増えていつ引いたかどちらの表現型かになる。増えたまま引かない炎症は、治癒の遅延を意味しうる。

臨床への翻訳

患者に灸痕の経過を説明するとき、目盛は「数日」ではなく「3週から最長12か月」である[2]。赤みや硬さが数か月残ることは、治癒が失敗している徴候ではなく、再構築相が進行している状態と整合する。同時に、最終的な瘢痕は元の抗張力の約80%にとどまる[2]。同じ部位に灸痕を重ねることの意味を、この数字を知ったうえで説明する必要がある。

第II部

熱ショック応答——壊れる前に起こる反応

細胞には、壊れる手前の温度で作動する防御装置がある。熱ショック応答である。灸の解説でもっとも頻繁に引き合いに出される機序でありながら、灸そのもので測った一次文献はきわめて少ない。この部は、その少なさを数えるところから始める。

この部を読むと「お灸でHSPが増える」という説明が、どの一次文献のどこまでに支えられているかを言えるようになる。

03HSF1という温度センサー

熱ショックタンパク質は、熱が上がれば自動的に増えるわけではない。HSF1という転写因子が温度を読み取り、ある温度域を境に急に働き始める。その境の値が、灸の温度を考えるときの基準になる。

3-1 HSF1はタンパク質そのものが温度計である

Hentzeら(2016年)は、精製したヒトHSF1を用いて、その三量体化が温度によってどう変わるかを測定した[7]。報告された値は次のとおりである[7]

表 3-1 ヒトHSF1の熱による転移[7]
条件報告値
転移の中点(10分の前保温後)36.15 ± 0.14℃
転移温度(30分の前保温後)32.0 ± 0.4℃ / 34.7 ± 0.2℃
転移の活性化エネルギー249 ± 47 kJ・mol⁻¹

著者らは、三量体化が多分子反応であるため本質的に濃度に依存すること、Hsf1の転写を負に制御するHsp90が温度応答曲線の傾きを緩やかにし、転移中点を下げたことを報告している[7]

3-2 細胞では、41℃までと42℃で挙動が変わる

Tulapurkarら(2009年)は、ヒト肺上皮A549細胞を37・38.5・39.5・41・42℃で保温し、HSP72の発現を測定した[8]

原著の報告値

HSP72タンパク質は、37℃から41℃までは 1℃上がるごとにおよそ0.5倍ずつ 増加した[8]。mRNAのピーク値は、37℃から38.5℃、38.5℃から39.5℃でそれぞれ2倍になり、39.5℃から41℃、および41℃から42℃では、それぞれ4倍に増加した(P < 0.05)[8]。タンパク質については、41℃から42℃へさらに1℃上げると、HSP72はさらに2.4倍に増加した[8]。ルシフェラーゼ活性は37℃から41℃で2倍になり、41℃から42℃でさらに14倍に増加した(P < 0.05)[8]

すなわち、37〜41℃では温度の上昇に対しておおむね比例的に増え、42℃で不連続に立ち上がる。「42℃が熱ショック応答の閾値」と言われるのは、この不連続を指している。

3-3 二つの数字は矛盾しない

精製タンパク質の転移中点は 36.15 ± 0.14℃[7]、細胞での急峻な立ち上がりは42℃である[8]。この差は、測っているものが違うことによる。前者は単離したHSF1分子の構造転移であり、後者は細胞内でシャペロンによる抑制を受けた状態での転写出力である。本書はこの二つを統一せず、別の量として扱う。

臨床への翻訳

「灸で温めるとHSPが増える」という説明を検算するには、どの温度が、どの組織で、何分保たれたかが要る。細胞レベルの不連続は42℃にある[8]。灸の実測温度(表1-2)はこれを大きく上回るが、それは灸器具や皮膚表面の温度であって、細胞が置かれた温度ではない。表面温と組織温の隔たりは既刊『お灸の安全性』の主題であり、その橋はまだ架かっていない。したがって「灸はHSPを誘導する温度域にある」と断定する材料は、現時点で揃っていない。

04灸でHSPは誘導されるのか

この章は、本書でもっとも短い結論を持つ。灸を対象に熱ショックタンパク質を測った研究は存在する。ただし、施灸局所の皮膚を測ったものはなく、ヒトを対象にしたものもない。

4-1 検索の記録

本書は、PubMedに対し moxibustion[tiab] AND (heat shock protein[tiab] OR HSP70[tiab] OR HSP72[tiab]) の検索を行った(2026年8月21日時点)。該当は20件であった。内訳を対象組織で分けると次のようになる。

表 4-1 灸と熱ショックタンパク質を扱った文献の対象組織
対象本書が確認した内容
胃粘膜前処置灸による保護と HSP70 発現[10] ほか複数
心筋・骨髄・松果体などいずれも施灸部位ではない遠隔臓器
骨格筋1件[9](4-2で扱う)
施灸局所の皮膚該当なし
ヒト該当なし

4-2 唯一の原点

「灸でHSPが誘導される」という命題の直接の一次文献は、本書が到達した範囲で1件である。

Kobayashi(1995年)は、ラットの殿部の筋に対し、筋肉内温度が40℃に保たれる条件で15分間の施灸を行い、刺激直後・3時間後・24時間後に筋組織を採取して、二次元電気泳動でタンパク質を解析した[9]刺激の3時間後に屠殺した個体の組織から、分子量70,000(hsp70)・85,000(hsp85)・100,000(hsp100)の熱ショックタンパク質が検出された[9]

この研究について本書が確認できなかったこと

動物数、群構成、検出量の定量値、統計処理については、本書が到達した抄録に記載がない。したがって本書は「検出された」という定性的な記述のみを引用し、増加率・倍率などの数値は記載しない。

4-3 40℃という数字の位置

考察1(本書が原著の報告値を超えて述べる2件のうち1件目)

Kobayashiが用いた筋肉内温度は40℃である[9]。一方、細胞におけるHSP72発現の急峻な立ち上がりは42℃で報告されている[8]編者は、この二つの数字のあいだに検討を要する隙間があると考える。40℃は、37〜41℃の比例的な増加域には入るが[8]、熱ショック応答が不連続に立ち上がる温度には達していない。「灸はHSPを強く誘導する」という主張の根拠として1995年の1本を引くとき、この温度差は明示されるべきである。

この考察が成立しない条件。第一に、Tulapurkarらの実験はヒト肺上皮細胞株であり[8]、ラットの骨格筋[9] と同じ閾値をもつ保証はない。組織と種によって熱ショック応答の閾値が同一である保証はない。第二に、Kobayashiが記述しているのは筋肉内温度であり、細胞が実際に曝露された温度の分布ではない。第三に、40℃・15分という条件は熱線量としての積算を持つ。単一の温度点で閾値と比較すること自体に限界がある。

4-4 局所ではない研究群

灸とHSPを結ぶ研究の主流は、施灸部位ではない臓器で行われている。Changら(2007年)は、ラットの足三里または梁門への前処置灸が、ストレス性の胃粘膜損傷に対して保護的に働き、この保護が胃粘膜のHSP70 mRNAおよびタンパク質の高発現と関連していたと報告した[10]

この研究が測っているのは、施灸局所の皮膚ではなく、遠隔臓器の粘膜である。灸の局所で何が起きたかについて、この研究は情報を持たない。前処置灸の全身作用として読むべきものであり、本書の主題である局所の組織修復の根拠にはならない。

臨床への翻訳

「お灸でヒートショックプロテインが増える」という説明は、現時点で次の形にしか翻訳できない。ラットの骨格筋で、40℃・15分の施灸の3時間後にhsp70・hsp85・hsp100が検出されたという1995年の報告が1件ある[9]ヒトの皮膚で、施灸局所のHSPを測った研究には到達できなかった。患者への説明にこの機序を持ち出すのであれば、この二文をそのまま添えるのが誠実である。

05HSP70は保護因子であり危険信号でもある

熱ショックタンパク質は「細胞を守るタンパク質」として紹介されることが多い。しかし細胞の外に出たHSP70は、免疫系にとって危険信号として働きうる。同じ分子が、居場所によって別の意味を持つ。

5-1 細胞内と細胞外

Borgesら(2012年)の総説によれば、HSP70はかつて細胞内のシャペロンと考えられていたが、その後の研究で細胞から放出されうることが示された[11]。細胞内では折りたたみの介助を担い、細胞外では受容体を介した免疫調節に関わるという、局在によって異なる機能を持つ[11]

5-2 細胞外HSP70とTLR

細胞外HSP70の受容体としては、CD14 および Toll様受容体(TLR)2・4 が最初に提唱された[11]。ただし著者らは、この位置づけが論争の対象であり続けていることを強調している[11]。報告されている経路の一つは、TLR2からERKを介してIL-10の産生を誘導するものである[11]

5-3 混入という論争

原著の記述

HSP70の精製においては、リポ多糖(LPS)や脂質様の混入物を効率的に除去することが困難であった[11]。Triton X-114処理によって混入したエンドトキシンとリポペプチドを除去すると、可溶性HSP70は抗炎症性を示した[11]。著者らは、混入がそれ以前の「HSP70自体の炎症惹起作用」とされた所見を交絡させていた可能性を示唆している[11]

この経緯は、機序の教材にとって重要な教訓を含む。「HSP70は炎症を起こす」という記述と「HSP70は炎症を抑える」という記述が併存しているのは、両方が同時に正しいからではなく、実験材料の純度という技術的な問題が長く未解決だったからである。

臨床への翻訳

「灸でHSPが増える」がそのまま「良いことが起きる」を意味しないのは、二つの理由による。第一に、灸の施灸局所でHSPが増えることを示したヒトの研究に到達できていない(第4章)。第二に、仮に増えたとして、それが細胞内にとどまるのか細胞外に放出されるのかで、免疫系に対する意味が変わりうる[11]分子の名前を挙げることは、作用の向きを示したことにはならない。

第III部

微小熱傷後の修復カスケード

本書の中核である。灸を据えたあと、炎症・増殖・再構築の各相で何が測られたのかを、相ごとに追う。ここで扱う研究はすべて動物実験である。その事実を各章の冒頭で繰り返す。読み終えたとき、「灸で実際に測られたのはどれか」に指を差して答えられることが、この部の到達点である。

この部を読むと灸で実際に測られた修復指標を、相・種・モデル・時点つきで指させるようになる。

06炎症相——灸で測られたサイトカイン

損傷の直後に起こるのは炎症である。灸においてこれを測った研究は二つの水準に分かれる。施灸局所の組織で測ったものと、血中で測ったものである。両者は別の主張をしている。

6-1 施灸局所のTNF-α

第1章で組織像を引いたXieら(2018年)の研究は、同じ標本で腫瘍壊死因子α(TNF-α)陽性細胞を免疫蛍光染色により計数している[1]

表 6-1 施灸局所のTNF-α陽性細胞の変化[1](マウス・46 ± 1℃・30分・各群5匹)
系統部位対照との比較
C57BL/6J表皮施灸30分後に有意に増加(P < 0.05)
真皮施灸30分後・72時間後ともに有意に増加(P < 0.01)
TRPV1欠損表皮・真皮表皮は施灸30分後、真皮は30分後・72時間後に増加(P < 0.01)
※原著はこの三つをまとめて記述しており、部位ごとのP値を分けていない

時間経過については、次のように報告されている[1]。C57BL/6Jマウスの真皮では、施灸72時間後のTNF-α陽性細胞数は30分後より有意に少なかった(P < 0.01)。TRPV1欠損マウスでは、表皮・真皮のいずれでも72時間後が30分後より有意に少なかった(P < 0.01)。

著者らはこの結果を、灸刺激が局所の皮膚構造の変化を引き起こし、TRPV1に依存しない免疫調節を介してTNF-α陽性細胞を増加させたものと結論づけている[1]

要点

TNF-αは炎症性サイトカインであり、その増加は「炎症が起きた」ことを意味する。この報告は、灸が抗炎症的に働いたことを示していない。示しているのは、施灸局所で炎症反応が惹起され、72時間の時点では30分後より収まっていた、という時間経過である。

6-2 全身と創部で測られたサイトカイン

Kanら(2019年)は、成熟した雄性SDラット84匹を正常群6匹・モデル群39匹・灸群39匹に分け、全層皮膚欠損創を作成した[12]創の周囲に対して1日25分、6日間の施灸を行い、サイトカインを測定している[12]

表 6-2 全層皮膚欠損創モデルにおけるサイトカインの変化[12](SDラット84匹・モデル群との比較)
指標時点灸群の変化
血清 IL-1α・IL-61日目有意に増加(P < 0.05)
血清 IL-1α・IL-63日目明らかに低下(P < 0.05)
血清 IL-1β1日目・2日目モデル群より有意に高い(P < 0.05)
血清 IL-4・IL-101日目有意に上方調節(P < 0.05)
血清 IL-4・IL-103日目以降明らかに下方調節(P < 0.05)
血清 MIP-1α2日目上方調節(P < 0.05、P < 0.01)
血清 VEGF1日目・2日目上方調節(P < 0.05、P < 0.01)
創部皮膚の VEGF5日目上方調節(P < 0.05、P < 0.01)

著者らの結論は、灸が炎症性・抗炎症性の双方のサイトカインの水準を調節することによって炎症反応を促進し、治癒相への移行を早めたというものである[12]。炎症性(IL-1α・IL-6・IL-1β)と抗炎症性(IL-4・IL-10)の両方が同じ方向に動いている点が、この「双方を調節する」という結論の根拠になっている[12]。なお最後の行は血清ではなく創部皮膚で測られており、時点も5日目と遅い[12]

6-3 「炎症を抑える」ではなく「炎症相を早く通す」

二つの研究に共通するのは、施灸後の早い時点で炎症性の指標が上がっている点である[1][12]。そして両者とも、その後の時点で低下している[1][12]

Kanらが主張しているのは「炎症の抑制」ではない。炎症相を促進し、次の相への移行を早めるという主張である[12]。この違いは、臨床での説明を大きく変える。

本書がここで書けないこと

Kanらの報告について、本書が到達した抄録には、各サイトカインの実測値(平均±SD)と各時点の詳細な統計量が記載されていない。したがって本書は増加の幅を数値で示さず、原著が明示した有意性の記述のみを引用する。「何倍になった」という形の記述は本書に存在しない。

臨床への翻訳

施灸後に局所が赤くなり熱を持つことを、「炎症が起きてしまった」と否定的に読む必要はない。動物実験で報告されているのは、施灸後の早期に炎症性サイトカインが上がり、その後下がるという経過である[1][12]。ただしこれは、炎症が引くことまで含めて一つの所見である。数日経っても発赤・腫脹が引かない場合、それは同じ現象の延長ではなく、別の事態(感染・深達性熱傷)を疑う所見になる。判断の分かれ目は強さではなく時間経過にある。

07増殖相——マクロファージとコラーゲン

炎症の次に来るのは、組織を埋める工程である。灸についてこの相を定量した研究は、本書が到達した範囲で1件ある。そこには、数の増減だけでなく、コラーゲンのに関する数値が含まれている。

7-1 難治性皮膚潰瘍モデルでの実験

Sunら(2012年)は、雄性SDラット80匹を正常群8匹・モデル群24匹・TDP群(遠赤外線治療器)24匹・灸群24匹に分けた[13]。開放創の作成とヒドロコルチゾンコハク酸ナトリウムの筋注により難治性皮膚潰瘍モデルを作り、創面および両側の腎兪(BL23)・足三里(ST36)に対して1日15分の温和な灸またはTDP照射を行い、7日・10日・14日で評価している[13]

表 7-1 難治性皮膚潰瘍モデルにおけるマクロファージとコラーゲン[13](ラット80匹)
指標比較報告された結果
マクロファージ数モデル群 vs 正常群7・10・14日で有意に増加(P < 0.05)
灸群・TDP群 vs モデル群7〜10日でさらに増加(P < 0.05)、14日で有意に減少(P < 0.05)
I型コラーゲンモデル群 vs 正常群7日で著明に減少(P < 0.01)
灸群・TDP群 vs モデル群7日・14日で増加(P < 0.05、P < 0.01)
III型コラーゲン灸群・TDP群 vs モデル群7日・14日で増加(P < 0.05、P < 0.01)
I型/III型比モデル群 vs 正常群7日・14日で有意に高い(P < 0.05)
灸群・TDP群 vs モデル群7〜14日で有意に低い(P < 0.05、P < 0.01)

灸群とTDP群の比較では、10日のマクロファージ数の増加、14日のI型・III型コラーゲン発現の増加、および14日のマクロファージ数の低下において、灸がTDPより明らかに優れていたと報告されている(P < 0.05、P < 0.01)[13]。著者らの結論は、温和な灸がマクロファージを調節しコラーゲン発現を強め、創傷治癒と瘢痕形成の減少に寄与するというものである[13]

7-2 「増えて、引く」という形

マクロファージ数の記述を、第2章で置いた枠組みに当てはめる。灸群では7〜10日で増加し、14日で減少している[13]。増えたまま高止まりしていない。M1が持続すると治癒が損なわれるという知見[15] に照らすと、この「引く」という経過のほうが、増加そのものより重要な所見である。

この研究が測っていないこと

Sunらが計数したのはH.E.染色によるマクロファージのであり[13]、M1/M2の表現型ではない。したがって「灸がM2への転換を促した」という主張を、この研究から導くことはできない。灸とマクロファージ極性を結ぶ研究は関節リウマチのモデルなど他の疾患領域に存在するが、それらは施灸局所の皮膚創傷を対象としていない。施灸局所の皮膚でM1/M2を判定した研究に、本書は到達できなかった。

7-3 I型/III型比が下がることの意味

I型とIII型のコラーゲンは、創傷治癒の過程で構成比が変化する。Sunらは、モデル群でI/III比が正常群より高く、灸群・TDP群ではモデル群より有意に低かったと報告している[13]。著者らはこれを瘢痕形成の減少と結びつけて解釈している[13]

本書はこの解釈を、著者らの結論として提示するにとどめる。I/III比と最終的な瘢痕の外観・機能の対応を、同じ研究の中で評価した記述には到達していない。

臨床への翻訳

この研究の施灸条件は1日15分を7〜14日間である[13]。日本の透熱灸のように数秒で終わる刺激とは、熱の量も反復の設計も異なる。したがって「灸は瘢痕を減らす」という一般化はできない。この研究から臨床に持ち帰れるのは、創傷治癒を目的に灸を用いるならば、単回ではなく日単位で反復する設計が、少なくとも動物実験では前提になっているという点である。

08血管新生

増殖相で組織を埋めるには血流が要る。灸と血管新生を結ぶ実験は、同じ研究グループが同じモデルで行っている。そのことは、所見の一貫性と同時に、独立した再現の不在も意味する。

8-1 微小血管数とVEGF

Sunら(2011年)は、皮膚損傷を作成した雄性SDラット104匹を、対照群8匹・モデル群32匹・TDP群32匹・灸群32匹に分けた[14]。ヒドロコルチゾンコハク酸ナトリウムの筋注により慢性難治性創傷モデルを作成し、創面および両側の腎兪(BL23)・足三里(ST36)に1日15分の温和な灸を行い、3日・7日・14日で評価している[14]

報告された結果は次のとおりである[14]

  1. 3・7・10・14日の治癒率が、モデル群と比較して有意に改善した
  2. 灸群の成績は、遠赤外線治療器(TDP)群より良好であった
  3. 3日・7日において、血流量・微小血管数(MVC)・VEGF発現がいずれも有意に上方調節された
  4. これらの指標は14日で明らかに低下した

著者らの結論は、温和な灸が血流と微小血管数を増やし、創の肉芽組織におけるVEGF発現を上方調節することによって創傷治癒を促進しうる、というものである[14]

8-2 「14日で低下」をどう読むか

指標が下がったことは、効果が失われたことを意味しない。第2章の枠組みでは、増殖相のあとに再構築相が来る[2]。血管新生は増殖相の現象であり、再構築相では新生血管は減少していく。3〜7日で上がり14日で下がるという形は、増殖相から再構築相への移行と時間的に整合する。

ただし、この整合は本書が枠組みに当てはめて述べているものであり、原著がそのように解釈したという記述には到達していない。

本書がここで書けないこと

本書が到達したSunら(2011年)の抄録には、血流量・微小血管数・VEGF発現の実測値(平均±SD)が記載されていない。有意性は P < 0.01・P < 0.05・P > 0.05 という形でのみ示されており、どの指標のどの時点にどのp値が対応するのかを抄録から特定できない。したがって本書は、増加・低下という方向の記述のみを引用し、変化量・変化率の数値を一切記載しない。この研究を根拠に「灸で血流が◯%増える」と述べることは、本書の調査範囲では不可能である。

臨床への翻訳

第7章と本章は、同じ研究グループが同じモデルで行った一連の実験である[13][14]。所見が互いによく整合するのは当然であり、それは独立した再現ではない。二つの論文を「複数の研究が示している」と数えることはできない。灸と創傷治癒を扱う機序研究の層は、想像よりはるかに薄い。

09一致しない報告をどう読むか

ここまでの章は、灸が修復を後押しする向きの所見で揃っていた。しかし、逆向きの数値を報告している研究がある。本書はそれを消さずに並べる。

9-1 ブラジルの切除創モデル

Alonsoら(2020年)は、成熟した雌のWistarラット90匹を対照群・鍼群・灸群に分け、背部に切除創を作成した[16]。鍼は肺兪(BL13)・膈兪(BL17)・足三里(ST36)に刺入し、灸は同じ経穴の上で行い、7日・14日・21日で組織を評価している[16]

表 9-1 切除創モデルにおける所見[16](Wistarラット90匹)
指標報告された結果向き
線維芽細胞数14日・21日で鍼群・灸群が有意に高い修復を後押しする向き
顆粒球数同時点で減少修復を後押しする向き
新生血管数21日で増加修復を後押しする向き
複屈折コラーゲン21日で対照群が有意に高い逆向き
TGF-β1・VEGF全期間を通じて対照群より低い逆向き

著者ら自身の結論は、鍼と灸が線維芽細胞の増殖と血管新生を刺激し、同時にコラーゲン線維の再構成の期間を延長したというものである[16]。「促進した」ではなく「延長した」という語が使われている点が重要である。

9-2 VEGFはどちらへ動くのか

VEGFについて、本書は三つの異なる報告を引いた。

表 9-2 灸とVEGFに関する報告の比較
研究種・nモデル測定対象VEGFの向き
Sun 2011[14]SDラット104匹難治性潰瘍(ステロイド投与)肉芽組織3・7日で増加、14日で低下
Kan 2019[12]SDラット84匹全層皮膚欠損血清および創部皮膚血清は1・2日、創部皮膚は5日で上昇
Alonso 2020[16]Wistarラット90匹切除創(正常治癒)組織全期間で対照より低い

9-3 食い違いを消さない

この三つを平均したり、多数決で処理したりしてはならない。条件が四つの点で異なる。

モデル
ステロイドで治癒を阻害した難治性潰瘍[13][14] と、正常に治癒する切除創[16] では、介入が働く余地が異なる。治癒が阻害された系で改善が出やすいのは、創傷治癒研究に共通する構造である。
種と系統
SDラット[13][14] と Wistarラット[16]、雄[13] と雌[16]
施灸部位
創面に直接行ったもの[13][14]、創の周囲に行ったもの[12]、離れた経穴に行ったもの[16]
測定対象
肉芽組織[14]、血清[12]、組織[16]。血清VEGFと局所組織VEGFは別の量である。
臨床への翻訳

「灸は血管新生を促す」という一文は、現在の一次文献の状態を正確に表していない。より正確な言い方は次のようになる。ステロイドで治癒を阻害したラットの潰瘍に創面から灸を行った研究では、早期にVEGFと微小血管数の増加が報告されている[14]正常に治癒する切除創に離れた経穴から灸を行った研究では、VEGFは対照群より低かった[16]。どちらの条件が目の前の患者に近いのかを、施術者が判断する必要がある。

10灸で実際に測られたのはどれか

第III部をここで一枚の表にまとめる。この表の目的は、書かれている行を数えることではなく、書かれていない行に気づくことである。

10-1 一覧

表 10-1 灸を対象に修復関連指標を測定した研究の一覧(本書が到達した範囲)
指標種・nモデル施灸条件時点文献
損傷組織像(H.E.)マウス 30匹無傷の皮膚(ST36)46 ± 1℃・30分30分後・72時間後[1]
損傷局所皮膚温・熱傷病変SDラット 120匹無傷の皮膚(ST36)艾条4種 × 距離5条件・10分施灸中[6]
炎症TNF-α陽性細胞マウス 30匹無傷の皮膚(ST36)46 ± 1℃・30分30分後・72時間後[1]
炎症血清 IL-1α・IL-6・IL-1β・IL-4・IL-10・MIP-1α・VEGF、創部皮膚 VEGFSDラット 84匹全層皮膚欠損創周囲・25分/日・6日1・2・3・5日[12]
増殖マクロファージ数・I/III型コラーゲンSDラット 80匹難治性潰瘍(ステロイド)創面+BL23・ST36/15分・日7・10・14日[13]
増殖血流量・微小血管数・VEGF・治癒率SDラット 104匹難治性潰瘍(ステロイド)創面+BL23・ST36/15分・日3・7・10・14日[14]
増殖・再構築線維芽細胞・顆粒球・新生血管・複屈折コラーゲン・TGF-β1・VEGFWistarラット 90匹切除創(正常治癒)BL13・BL17・ST367・14・21日[16]
熱ショックhsp70・hsp85・hsp100ラット(数の記載なし)無傷の骨格筋筋肉内温度40℃・15分直後・3時間・24時間[9]

10-2 この表から読めること

  1. ヒトの行が一つもない。種はすべてラットまたはマウスである。
  2. 創傷モデルを用いた研究は4件であり、うち2件[13][14] は同一グループの同一モデルによるものである。独立したグループによる創傷モデルの研究は、本書が到達した範囲で3グループにとどまる。
  3. 施灸条件は15〜30分を日単位で反復するものが中心であり、日本の透熱灸のように数秒で完了する刺激を用いた研究は含まれていない。
  4. 熱ショックタンパク質の行は1995年の1件のみであり、しかも皮膚ではなく骨格筋である[9]
臨床への翻訳

「灸には組織を修復する作用がある」と説明するとき、その根拠として提示できるのは、表10-1に並ぶ8行がすべてである。そして8行すべてが動物実験である。この事実は、灸を用いてはいけないことを意味しない。意味するのは、説明の語尾を「〜する」ではなく「〜がラットで報告されている」に保つべきだということである。語尾の選択は、誠実さの問題であると同時に、説明義務の問題でもある。

第IV部

灸痕と長期の帰結

ここまでの章が扱ったのは、数日から数週間の時間である。この部が扱うのは、数年から数十年である。意図的に瘢痕を残す手技を持つ以上、その瘢痕がその後どうなるかは、灸の教材が引き受けるべき論点である。

この部を読むと灸痕の長期の帰結について、灸特異的なデータと熱傷瘢痕一般の値を分けて説明できるようになる。

11意図的に瘢痕を残す手技

透熱灸・打膿灸は、灸痕を残すことを避けるのではなく、残すことを前提に組み立てられた手技である。この節で本書が確認するのは、その伝統的な根拠が現在どこまで一次文献に到達できるか、という一点である。

11-1 灸痕は瘢痕である

第1章で引いた組織所見のとおり、施灸局所には瘢痕組織が生じる[1]。そして第2章で引いたとおり、瘢痕の抗張力は元の組織の約80%にとどまる[2]。灸痕は、皮膚の外観上の記号ではなく、力学的性質の異なる組織である。

11-2 日本の学会が確認していること

尾崎ら(2008年)は、全日本鍼灸学会のシンポジウム報告のなかで、施灸皮膚組織の形態学的変化について次の点が強調されたと記している[26]

原著の記述

「皮膚組織の再生では、血管の再生と共に角質細胞や線維芽細胞の作用が特に重要なこと、皮膚組織がある程度修復されてこないと神経線維は再生されないこと[26]

この報告には数値が記載されておらず、本書が到達した範囲では本文の実測値に届かなかった。したがって本書はこの文献から数値を一切引用せず、上記の定性的な記述のみを引く。

ただしこの一文は、臨床的に重要な順序を含んでいる。神経線維の再生は、皮膚組織の修復に遅れる。灸痕部の知覚が回復するまでには、組織修復の時間が先に必要になる。

11-3 「灸で白血球が増える」の一次文献

化膿灸・打膿灸の説明として、しばしば白血球数の増加が挙げられる。その出所として繰り返し言及されるのが、原志免太郎による1929年の学位論文である。

本書が到達できなかったもの

本書の調査範囲では、この学位論文の一次文献に到達できなかった。確認できたのは、二次的な解説記事における記述のみである。孫引きを避けるという本書の方針により、白血球数の変化について、本書は数値・時間経過・実験条件のいずれも記載しない。

灸と免疫を扱った和文の総説は複数存在するが、本書はそれらの本文にも到達できておらず、数値を引用していない。この項目は第15章の空白リストに掲げる。

臨床への翻訳

有痕灸を行うときの説明に含めるべき事実は、現時点で次の三つである。第一に、そこに残るのは瘢痕であり、力学的性質は元の皮膚と異なる[1][2]。第二に、再構築には最長12か月を要する[2]。第三に、知覚の回復は組織修復に遅れる[26]。「白血球が増えて免疫が上がる」という説明は、本書が一次文献に到達できなかった以上、根拠を示せる説明ではない。

12繰り返す熱傷の長期リスク

灸痕を繰り返し重ねることに、長期のリスクはあるのか。この問いに答える灸特異的なデータは、症例報告が1例あるだけである。その1例と、熱傷瘢痕一般の知見を、混ぜずに並べる。

12-1 灸の有害事象の全体像

Xuら(2014年)は、灸の有害事象に関する症例報告を系統的にレビューし、24論文・64症例を収集した[18]。国別の内訳は、中国51症例(12論文)、米国6症例(5論文)、韓国4症例(4論文)、スペイン・日本・イスラエルが各1症例である[18]

表 12-1 灸の有害事象の内訳[18](24論文・64症例)
事象症例数
熱傷43
アレルギー7
感染6
胎児への影響2
悪心・嘔吐2
1
基底細胞癌1
眼瞼外反1
死亡1
この表から発生率は出せない

症例報告の集積には分母がない。64という数字は、灸を受けた人のうち何人に起きたかを示していない。示しているのは、報告される価値があると判断された事象の種類と、その相対的な頻度の見当だけである。著者ら自身も、事故に起因しない損傷が副作用として扱われているなどの誤りが含まれること、因果関係の判定が依然として困難であることを限界として挙げている[18]

12-2 灸痕から生じた基底細胞癌

表12-1の「基底細胞癌1例」は、本書の主題に直接関わる唯一の長期転帰の報告である。Xuらの記載によれば、58歳の韓国人男性が、腹部の同一部位に10年以上にわたって繰り返し施灸を行った結果、大型の表在型基底細胞癌を発症した[18]。病変は境界明瞭・円形で 7.2 × 5.7 cm の暗赤色局面として記載されている[18]。放射線治療がよく奏効し、5年の追跡で再発は認められなかった[18]

「同一部位に10年以上」という条件は、この症例を読むうえで欠かせない。単発の灸痕についての報告ではない[18]

出典の階層について

この症例の原著はYunら(2009年、Eur J Dermatol)である[19]本書は原著の抄録本文に到達できなかったため、上記の記述はすべて系統的レビュー[18]に記載された内容の引用である。本書はこれを孫引きであると明示したうえで採用し、原著から直接確認した事実としては扱わない。

12-3 熱傷瘢痕一般における悪性化

灸に限らず、熱傷瘢痕から悪性腫瘍が生じることは古くから知られており、Marjolin潰瘍と呼ばれる。Methneniら(2025年)の症例報告と文献レビューによれば、報告されている数値は次のとおりである[27]

表 12-2 熱傷瘢痕の悪性化について報告されている値[27]
項目報告値
熱傷瘢痕を有する者における発生1〜2%
主要な組織型扁平上皮癌。次いで基底細胞癌、黒色腫
受傷から発症までの期間症例集積により 5か月〜48年、および 11〜38年 と報告されている
提示された症例熱傷から 40年 後に発症

著者らは、治癒が遷延し滲出と悪臭を伴う創に対しては悪性化を疑うべきであると述べ、外科的切除が主たる治療であるとしている[27]

12-4 灸痕特異的なデータは存在しない

本書が到達できなかったもの

灸痕からの悪性腫瘍の発生率を、分母を伴って示した研究に到達できなかった。存在するのは、症例報告1例[18][19] と、熱傷瘢痕一般についての数値[27] である。後者を灸痕にそのまま当てはめてはならない。Marjolin潰瘍が論じられているのは広範囲・深達性の熱傷瘢痕や慢性難治性創であり、灸痕の面積・深度・治癒経過とは条件が異なる。本書は、灸痕の悪性化リスクについて数値を述べない。

臨床への翻訳

この章から臨床に持ち帰れるのは、リスクの大きさではなく観察の指標である。灸痕が長期にわたり治癒せず、滲出と悪臭を伴う場合、それは「灸痕が残っている」ではなく医師への紹介を要する所見である[27]。同一部位に長年灸を重ねている患者では、灸痕そのものを定期的に視診の対象に含めることが、報告されている事実から支持される。頻度が低いことと、見なくてよいことは別である。

第V部

臨床エビデンスと未解決問題

動物で測られた指標が、ヒトの創を閉じる力に対応するのか。この部が扱うのはその一点である。そして本書がこの部で報告するのは、この領域の臨床エビデンスの最上層が、2025年に撤回によって失われたという事実である。

この部を読むと撤回が「効果の否定」ではないことを説明でき、次に埋めるべき空白を具体的に挙げられるようになる。

13創傷治癒を目的とした灸の臨床研究——撤回という事件

灸を創傷治癒に用いる臨床研究は、褥瘡と糖尿病足を中心に蓄積されてきた。それらを統合したメタ解析が複数存在し、いずれも良好な結果を報告していた。そして2025年、それらは撤回された。

13-1 何が報告されていたか

Yuら(2024年)は、褥瘡に対する灸の臨床研究を統合し、11のランダム化比較試験・795名を組み入れたメタ解析を発表した[20]。報告された統合効果は次のとおりである[20]

表 13-1 褥瘡に対する灸のメタ解析の報告値[20]【本論文は撤回済み】
比較はいずれも「灸+標準創傷ケア」対「標準創傷ケア単独」である
アウトカム研究数・人数統合効果
有効率8研究・577名RR 1.21(95%CI 1.13–1.29)0%
治癒までの日数4研究・188名MD −5.69(95%CI −9.58 〜 −1.80)97%
PUSHスコア4研究・344名MD −1.13(95%CI −1.36 〜 −0.89)0%

著者ら自身が挙げた限界は四つである[20]。試験数が少ないこと、サンプルサイズが小さいこと、バイアスのリスクが高いこと、そしてすべての試験が中国で実施されており他地域への一般化可能性に疑問があることである。著者らは結論として、これらのために「褥瘡に対する灸の有効性について確固たる結論を導くことはできなかった」と述べている[20]

なお、治癒日数の I² = 97% という値は、研究間の異質性がきわめて高いことを示している。統合値そのものの解釈が難しい水準である。

13-2 撤回

撤回通知の記載

この論文は 2025年4月18日に撤回された[21]。撤回理由として通知に記載されているのは次の一文である。「この論文は、毀損された査読プロセスのみに基づいて受理された(this article was accepted solely on the basis of a compromised peer review process)」[21]。撤回は編集長と出版社の調査に基づく合同の判断であり、著者らは撤回通知に応答しなかったと記載されている[21]

13-3 撤回されたのは1本ではない

表 13-2 創傷治癒領域で撤回された灸のメタ解析
論文対象規模撤回
Yu ら 2024[20]褥瘡11 RCT・795名2025年4月[21]
Ji ら 2024[22]糖尿病足12 RCT・1196名2025年4月
Wang ら 2022[23]褥瘡(中薬・鍼灸の併用)——2025年4月

Jiら(2024年)は、12のランダム化比較試験・1196名を組み入れ、灸が糖尿病足の有効率・治癒時間・創面積・足関節上腕血圧比を改善したと報告していた[22]。この論文も撤回済みである[22]

13-4 撤回が意味すること、意味しないこと

この事実の読み方を、正確に区切っておく必要がある。

撤回が意味すること
これらの論文を根拠として引用することはできない。査読という品質保証の工程が機能していなかったと出版社が判定した以上、そこに書かれた統合値は、検証を経た知見として扱えない。
撤回が意味しないこと
「灸には創傷治癒の効果がない」と証明されたわけではない。撤回理由は査読プロセスの毀損であり、データの捏造や解析の誤りが認定されたという記載は撤回通知にない[21]。元となった個々の臨床試験そのものが取り消されたわけでもない。
結果として残る状態
この領域の統合された臨床エビデンスは、現在ほぼ空白である。効果があるとも、ないとも、統合された形では言えない。

13-5 撤回されていないもの

褥瘡に対する灸の系統的レビューは、2026年にも発表されている[25]ただし本書は、この論文の抄録本文に到達できなかった。組み入れ研究数・アウトカム・結論のいずれについても、本書は数値および記述を引用しない。存在を記録するにとどめる。

13-6 隣接領域が示していること

灸そのものではないが、示唆的な系統的レビューがある。Yueら(2018年)は、慢性創傷(褥瘡・静脈性潰瘍・動脈性潰瘍・糖尿病足潰瘍)に対する局所温罨法の有効性を検討するため、9つのデータベースを日付・言語の制限なく検索した[24]

原著の報告

組み入れ基準を満たす研究は1件もなく、メタ解析を実施できなかった。著者らは、慢性創傷に対する局所温罨法の有効性に関する現在のエビデンスは不明確であると結論している[24]

灸に隣接するもっとも近い介入——創部を局所的に温めること——について、統合可能な質のランダム化比較試験が世界に1件も見つからなかった、という報告である。

臨床への翻訳

褥瘡や糖尿病足に灸を用いることの是非を、本書は裁定しない。しかし、患者や他職種に対して「メタ解析で有効性が示されている」と説明することは、2025年4月以降できなくなった[21]。もし過去にその説明を用いていたのであれば、説明の更新が必要である。現時点で言えるのは、動物実験では修復関連の指標が動くという報告があり、ヒトでの統合されたエビデンスは撤回によって失われているという二文である。とりわけ糖尿病足は、易損傷部位に熱を加える行為であり、既刊『お灸の安全性』第16章の対象と完全に重なる。効果が不明で、リスクが明確に高い組み合わせであることは、判断材料として明示されるべきである。

14「灸の組織修復作用」の出所を辿る

灸と組織修復を結ぶ説明は、しばしば非常に整った形で語られる。熱がHSPを誘導し、HSPが細胞を保護し、修復が促進される——この筋書きの各部分が、それぞれどの研究に由来するのかを辿る。

14-1 温熱前処置の研究

Wilminkら(2008年)は、レーザーによる温熱前処置が創傷治癒を高めるかどうかを、Hsp70の発現を分子イメージングで追いながら検討した[17]

表 14-1 レーザー温熱前処置の条件と結果[17]
項目報告値
波長1.85 μm
繰り返し周波数50 Hz
パルス幅2 ms
組織温度43〜44℃
照射時間10〜40分
前処置のタイミング切開の 12時間前
Hsp70 の発現ピーク照射後 9〜15時間
最大誘導20分照射で 17倍
最大荷重(術後7日)対照より 58% 強い
最大荷重(術後10日)対照より 40% 強い
引張応力(術後7日・10日)対照より 70%50% 強い
統計最大荷重・引張応力とも対応のあるt検定で P < 0.01

14-2 これは灸ではない

この研究が示していることは明快である。43〜44℃の温熱をあらかじめ与えておくと、その後に作った切開創が強く治る。しかし、これを灸の根拠として引くことはできない。相違点は少なくとも四つある。

  1. 熱源が波長1.85 μmのレーザーであり、艾の燃焼ではない[17]
  2. 温度と時間が43〜44℃で10〜40分であり、灸の実測温度帯(表1-2)と一致しない
  3. 順序が前処置である。創ができる12時間前に照射している[17]。創ができたあとに行う施灸とは、介入の位置が逆である
  4. 面積と均一性が異なる。灸は点状の刺激である

14-3 借用の系図

考察2(本書が原著の報告値を超えて述べる2件のうち2件目)

「灸で熱ショックタンパク質が誘導され、それが組織を保護し修復を促す」という説明を、命題に分解すると次の二つになる。(a) 灸はHSPを誘導する。(b) HSPは組織修復を促進する。

本書が到達した一次文献において、(a) を直接支えるのは1995年の1件のみであり、対象はラットの骨格筋、条件は筋肉内温度40℃・15分、報告は定性的な検出にとどまる[9]。(b) を支えるのは、レーザーによる温熱前処置[17] など、灸以外の熱源を用いた研究群である。

編者は、この説明が広く流通しているのは、(a) と (b) が別々の文献で成立していることを根拠に、両者を接続してよいと扱われてきたためではないかと考える。しかし (a) の温度条件(40℃・骨格筋)と (b) の温度条件(43〜44℃・皮膚・前処置)は一致しておらず、この二つを灸の条件で同一研究内につないだ報告に、本書は到達できなかった。

この考察が成立しない条件。第一に、本書の検索はPubMedの英文抄録を中心としており、中国語・日本語の紀要等に該当研究が存在する可能性を排除できない。第二に、Kobayashi(1995年)の本文には抄録に現れない条件や定量値が記載されている可能性がある。第三に、HSP以外の経路(第III部で扱ったサイトカイン・マクロファージ・コラーゲン)については、灸を直接用いた実測が複数存在する[12][13][14][16]この考察はHSPを介する説明についてのみ述べたものであり、灸の組織修復作用全体を否定するものではない。

臨床への翻訳

機序の説明を患者や同業者に行うとき、「灸で」測られたのか「温熱で」測られたのかを、毎回言い分けることを勧める。第III部で扱った炎症・マクロファージ・コラーゲン・血管新生は、灸を直接用いた実測がある(ただしすべて動物である)。HSPを介する説明は、そこまでの裏づけを持っていない。同じ「機序」という言葉の下に、根拠の厚みが著しく異なるものが並んでいる。

15研究方法論と未解決問題

なぜこの領域はこれほど空白が多いのか。偶然ではなく、研究デザイン上の構造的な理由がある。理由を明示したうえで、次に着手すべき項目を具体的に列挙する。

15-1 三つの構造的困難

盲検化ができない
有痕灸には偽刺激を作れない。皮膚に痕が残る介入で、被験者にも評価者にも割付を隠すことは原理的に困難である。既刊『お灸の安全性』が扱った偽灸デバイスは、痕を残さない灸種を前提としている。本書の主題である意図的な組織損傷は、その前提から外れる。
種差が大きい
表10-1の8行はすべてラットまたはマウスである。齧歯類の皮膚はヒトより薄く、毛包密度が高く、創収縮の寄与が大きい。加えて刺激条件も異なる。46 ± 1℃・30分[1]15分/日を14日間[13] は、日本の透熱灸のように数秒で完了する刺激とは別の介入である。
ヒトに意図的な損傷を作れない
施灸局所の組織反応をヒトで確かめるには、皮膚生検が要る。灸痕を作ったうえで生検を行う研究は、倫理審査の観点から実施が難しい。この領域にヒトの行がない最大の理由は、研究者の怠慢ではなく、この制約である。

15-2 空白リスト

次の研究者が明日着手できる粒度で列挙する。

表 15-1 本書が到達できなかった項目
#空白現状
1ヒトの施灸局所の皮膚でHSP70等を測定した研究PubMedで灸×熱ショックタンパク質は20件。うち施灸局所の皮膚もヒトも0件(第4章)
2ヒトの施灸局所のサイトカイン・マクロファージ表現型到達できなかった。動物では測られている[1][12][13]
3ヒトの灸痕の組織学的な経時観察到達できなかった。日本の学会報告[26] は定性的記述にとどまり、本文の数値に到達できなかった
4施灸局所でM1/M2の表現型を判定した研究到達できなかった。計数されているのはマクロファージの総数である[13]
5灸の温度条件とHSF1活性化閾値を同一研究内で対応づけたもの到達できなかった。二つは別々の文献に存在する[8][9]
6熱線量(等価加熱時間)の考え方を灸に適用した報告到達できなかった。本書は熱線量の数値を一切記載していない
7Sunら(2011年)の実測値抄録に平均±SDおよびp値の記載がなく、本書は方向のみを引用した[14]
8Kanら(2019年)の実測値抄録に各サイトカインの実数の記載がなく、本書は有意性の記述のみを引用した[12]
9灸痕からの悪性腫瘍の発生率(分母つき)到達できなかった。存在するのは症例報告1例[18][19] と熱傷瘢痕一般の値[27]
10原志免太郎(1929年)の学位論文一次文献に到達できず、白血球数について本書は数値を記載していない(第11章)
11化膿灸・打膿灸の免疫学的指標をヒトで測った査読済み研究到達できなかった
12創傷治癒を目的とした灸の、撤回されていないメタ解析の内容2026年の系統的レビュー[25] は存在を確認したが抄録本文に到達できず、数値・結論を引用していない
13透熱灸(数秒の刺激)を用いた組織修復の実験到達できなかった。表10-1の施灸条件はすべて15分以上である

15-3 確実性の階層で並べ直す

表 15-2 本書の記述を確実性で並べ直したもの
確実性記述根拠
比較的高い(一般生理学)創傷治癒は四相で進み、再構築は3週目から最長12か月に及ぶ。最終的な瘢痕の抗張力は元の約80%である[2]
比較的高い(一般生理学)細胞におけるHSP72の発現は37〜41℃で比例的に増え、42℃で不連続に立ち上がる[8]
低い(動物・単一研究)マウスの施灸局所には瘢痕組織・炎症細胞浸潤が生じ、TNF-α陽性細胞が増加すると報告されている。これはTRPV1非依存であった[1]
低い(動物・単一グループ)ステロイド誘発の難治性潰瘍ラットで、灸によりマクロファージ数・コラーゲン・微小血管数・VEGFが変化し、治癒率が改善したと報告されている[13][14]
非常に低い灸により熱ショックタンパク質が誘導されるという報告がある(ラット骨格筋・40℃・1995年の1件)[9]
相反する報告がある灸とVEGFの関係。増加の報告[12][14] と、対照より低いとする報告[16] が併存する第9章
不明(統合不能)ヒトの創傷治癒に対する灸の効果。統合したメタ解析は撤回された[20][21][22][23]
定量データなしヒトの施灸局所における熱ショックタンパク質・サイトカイン・マクロファージ表現型表15-1

15-4 結び

本書が答えられたことは、次のとおりである。灸を据えた場所には、瘢痕組織を含む損傷と修復の像が生じる[1]。その反応はTRPV1に依存しない[1]。損傷のあとには炎症・増殖・再構築という決まった順序があり[2]、灸を用いた動物実験では、炎症性サイトカインの早期上昇と後の低下[1][12]、マクロファージ数の増加と14日での減少[13]、コラーゲンI/III比の低下[13]、微小血管数とVEGFの早期増加[14] が報告されている。同時に、正常治癒のモデルではTGF-β1とVEGFが対照より低いという逆向きの報告もある[16]

答えられなかったことは、より明確である。ヒトの施灸局所で修復関連の指標を測った研究に、本書は1件も到達できなかった。灸で熱ショックタンパク質が誘導されるという説明を直接支える一次文献は、1995年の1件である[9]。そしてヒトの創傷治癒についての統合された臨床エビデンスは、2025年の撤回によって失われた[21]

冒頭の問いに戻る。灸が意図的に作る微小な熱傷を、「治療効果」と呼んでよいのか。本書が示せるのは、判定ではなく現在地である。修復が起きていることは動物で示されている。修復が起きることは、損傷を与えたことの正当化にはならない。正当化に必要なのは、その修復が、損傷を与えなかった場合より良い転帰をヒトにもたらすという証拠であり、それは現在、撤回された論文が置かれていた場所に空いている。

演習

理解度チェック

本書の内容から10問。選択するとその場で正誤と解説が出ます。設問はすべて本文に記載した報告値・記述に対応しており、各問には該当章へのリンクを付けました。自己確認のための演習であり、資格や技能を証明するものではありません。

第I部損傷は起きた。そこから何が始まるか4問
Q01 出典:第1章

施灸した局所を顕微鏡で観察した報告(マウス・46 ± 1℃・30分)が示したのはどれか。

Q02 出典:第2章

皮膚の創傷治癒はどの四相で記述されるか。

Q03 出典:第2章

線維芽細胞が新しいコラーゲンを産生し始めるのは、受傷後いつごろか。

Q04 出典:第2章

治癒後の瘢痕の抗張力について報告されているのはどれか。

第II部熱ショック応答——壊れる前に起こる反応2問
Q05 出典:第3章

熱ショックタンパク質の発現を制御している温度センサーはどれか。

Q06 出典:第5章

HSP70について正しいのはどれか。

第III部微小熱傷後の修復カスケード2問
Q07 出典:第8章

増殖相で組織を埋めるために不可欠なものはどれか。

Q08 出典:第9章

灸と創傷治癒に関する報告について、正しいのはどれか。

第V部臨床エビデンスと未解決問題2問
Q09 出典:第13章

褥瘡に対する灸の臨床研究を統合したメタ解析について、2025年に起きたことはどれか。

Q10 出典:第4章

灸と熱ショックタンパク質(HSP)について、文献調査で確認できたのはどれか。

解答ずみ 0 / 10
付録

引用文献

本書の記述はすべて以下の一次・二次資料に基づく。すべての文献に到達可能なURLを付した。本文に到達できず数値を引用しなかった文献には、その旨を注記した。撤回された論文には【撤回済み】と明記した。

  1. Xie LS, Zhao N, Yang H, Huang B, Tang Y, Wu QF, Jing XH, Yu SG. Moxibustion-induced regional changes of histological structure and number of TNF-α in "Zusanli" (ST 36) in C57BL/6J and TRPV1(-/-) mice. Zhen Ci Yan Jiu. 2018;43(5):296-301.(中国語論文。本書は英文抄録に記載された内容のみを引用した) PMID: 29888564
  2. Wound Healing Phases. StatPearls. StatPearls Publishing.(教科書的資料。個別の臨床試験ではない) NBK470443
  3. Martin NA, Falder S. A review of the evidence for threshold of burn injury. Burns. 2017;43(8):1624-1639. PMID: 28536038
  4. 和田恒彦, 全英美, 宮本俊和. 間接灸の温度特性——台座灸、温筒灸、棒灸の比較. 日本東洋医学系物理療法学会誌. 2017;42(2):65-71. doi:10.32255/jjsop.42.2_65
  5. 山下仁, 江川雅人. 透熱灸の温度と燃焼時間——艾炷の密度および高さの影響. 全日本鍼灸学会雑誌. 1995;45(3):203-207. doi:10.3777/jjsam.45.203
  6. Liu L, Wang MJ, Wu LB, Hu L, Zhao LN, Jiang ZM, Li XJ, Wu ZJ, Cai RL. Influence of moxibustion with moxa sticks with different diameters and at different distances from surface of "Zusanli" (ST36) on local skin temperature in rats. Zhen Ci Yan Jiu. 2020;45(5):396-401.(中国語論文。本書は英文抄録に記載された内容のみを引用した) PMID: 32447855
  7. Hentze N, Le Breton L, Wiesner J, Kempf G, Mayer MP. Molecular mechanism of thermosensory function of human heat shock transcription factor Hsf1. eLife. 2016;5:e11576. doi:10.7554/eLife.11576
  8. Tulapurkar ME, Asiegbu BE, Singh IS, Hasday JD. Hyperthermia in the febrile range induces HSP72 expression proportional to exposure temperature but not to HSF-1 DNA-binding activity in human lung epithelial A549 cells. Cell Stress Chaperones. 2009;14(5):499-508. PMC2728283
  9. Kobayashi K. Induction of heat-shock protein (hsp) by moxibustion. Am J Chin Med. 1995;23(3-4):327-330.(本文に到達できず、本書は抄録に記載された定性的な記述のみを引用した。動物数・定量値・統計処理は引用していない) PMID: 8571930
  10. Chang XR, Peng L, Yi SX, Peng Y, Yan J. Association of high expression in rat gastric mucosal heat shock protein 70 induced by moxibustion pretreatment with protection against stress injury. World J Gastroenterol. 2007;13(32):4355-4359. PMC4250864
  11. Borges TJ, Wieten L, van Herwijnen MJC, Broere F, van der Zee R, Bonorino C, van Eden W. The anti-inflammatory mechanisms of Hsp70. Front Immunol. 2012;3:95. PMC3343630
  12. Kan Y, Zhang XN, Yu QQ, He W, Wang XY, Wan HY, Su YS, Jing XH. Moxibustion promoted transformation of inflammatory phase to facilitate wound healing in rats with full-thickness cutaneous wounds. Zhen Ci Yan Jiu. 2019;44(5):352-357.(中国語論文。本書は英文抄録に記載された内容のみを引用した。各指標の実測値は抄録に記載がなく、引用していない) PMID: 31155868
  13. Sun LH, Liang YL, Sun YH, Zhang HZ, Li XF, Ma HL, Zhao ZS, Jiang HT. Effect of mild moxibustion on macrophage number and collagen expression of raw surface tissue in chronic refractory skin ulcer rats. Zhen Ci Yan Jiu. 2012;37(4):259-265.(中国語論文。本書は英文抄録に記載された内容のみを引用した) PMID: 23140044
  14. Sun YH, Sun LH, Liang YL, Zhao ZS, Zhang HZ, Li XF. Effect of mild-warm moxibustion on microcirculation in the raw surface tissue of chronic refractory wound in skin ulcer rats. Zhen Ci Yan Jiu. 2011;36(5):321-326.(中国語論文。本書は英文抄録に記載された内容のみを引用した。実測値およびp値は抄録に記載がなく、引用していない) PMID: 22073882
  15. Gao X, Lu C, Miao Y, Ren J, Cai X. Role of macrophage polarisation in skin wound healing. Int Wound J. 2023;20(7):2551-2562.(灸を対象とした研究ではない。本書は読み方の枠組みとして引用した) PMID: 36785490
  16. Alonso HR, Kuroda FC, Passarini Junior JR, Quispe Cabanillas JG, Mendonça FAS, dos Santos GMT, de Aro AA, do Amaral MEC, Marretto Esquisatto MA. Acupuncture and moxibustion stimulate fibroblast proliferation and neoangiogenesis during tissue repair of experimental excisional injuries in adult female Wistar rats. Acupunct Med. 2020;38(2):93-100. PMID: 31928210
  17. Wilmink GJ, Opalenik SR, Beckham JT, Abraham AA, Nanney LB, Mahadevan-Jansen A, Davidson JM, Jansen ED. Molecular imaging-assisted optimization of Hsp70 expression during laser-induced thermal preconditioning for wound repair enhancement. J Invest Dermatol. 2009;129(1):205-216.(灸を対象とした研究ではない。本書は「灸ではない」と明示したうえで引用した) PMC3846389
  18. Xu J, Deng H, Shen X. Safety of moxibustion: a systematic review of case reports. Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:783704. PMC4058265
  19. Yun SK, Kim SM, Park J, Lee JS, Yi JH, Kim HU, Ihm CW. Large superficial basal cell carcinoma arising from moxa cautery. Eur J Dermatol. 2009;19(4):387-388.(抄録が公開されておらず本文に到達できなかった。本症例に関する本書の記述は、すべて文献[18]の記載の引用であり、その旨を本文に明示した) PMID: 19451052
  20. Yu W, Shi B, He Q, Zhang S. A meta-analysis of clinical studies of moxibustion for pressure ulcer healing. Int Wound J. 2024;21(2):e14686.【撤回済み】撤回通知は文献[21]。 PMC10831133
  21. RETRACTION: A meta-analysis of clinical studies of moxibustion for pressure ulcer healing. Int Wound J. 2025;22(4):e70582.(文献[20]の撤回通知。2025年4月18日) PMC12007985
  22. Ji Y, Zhang Y, Wu R, Wang T, Wang J, Liu Z, Liu W. Treatment of diabetic foot with moxibustion: clinical evidence from meta-analysis. Int Wound J. 2024;21(2):e14791.【撤回済み】撤回通知:Int Wound J. 2025;22(4):e70655。 PMID: 38361252
  23. Wang X, et al. Effect of Chinese herbal topical medicine, acupuncture, and moxibustion on pressure ulcer wound healing: a meta-analysis. Int Wound J. 2022;19(8):2031-2038.【撤回済み】撤回通知:Int Wound J. 2025;22(4):e70417。本書は撤回の事実のみを記録し、内容を引用していない。 doi:10.1111/iwj.70417
  24. Yue JH, Zhang SJ, Sun Q, Sun ZR, Wang XX, Golianu B, Lu Y, Zhang Q. Local warming therapy for treating chronic wounds: a systematic review. Medicine (Baltimore). 2018;97(12):e9931. PMID: 29561463
  25. Zhang D, Ding Y, Yin J, Zhang X, Sun X, Zhang Y, Zhang H. Moxibustion's therapeutic impact on wound healing in patients with pressure injury: a systematic review. Eur J Integr Med. 2026;85:102671.(抄録本文に到達できなかった。本書は存在の記録にとどめ、組み入れ研究数・アウトカム・結論のいずれも引用していない) doi:10.1016/j.eujim.2026.102671
  26. 尾崎昭弘, 會澤重勝, 戸田静男, 熊本賢三, 榎原智美, 小池太郎. お灸の研究. 全日本鍼灸学会雑誌. 2008;58(1):32-50.(抄録に数値の記載がなく、本文に到達できなかった。本書は定性的な記述のみを引用し、数値を引用していない) doi:10.3777/jjsam.58.32
  27. Methneni A, Ammar CB, Dhambri S, Kedous S. Retroauricular squamous cell carcinoma developing on a burn scar: Marjolin's ulcer, a case report and review of the literature. Int J Surg Case Rep. 2025;130:111183.(灸を対象とした報告ではない。熱傷瘢痕一般についての値であり、灸痕に外挿しないことを本文に明示した) PMC11999488

灸と組織修復 第1版 2026年8月21日発行
発行:合同会社YOMOGI BASE(灸エビデンス・ライブラリ)

本書の位置づけ。本書は「灸が意図的に作る微小な熱傷は、施灸局所の組織にどんな修復反応を起こし、それを『治療効果』と呼んでよいのか」という一つの問いに答えるために編んだ教材である。損傷が起きるまで——熱傷の深度分類・44℃という閾値・低温熱傷・損傷積分・皮膚温と組織温の区別・灸種別のリスク構造・有害事象の全体像——は既刊『お灸の安全性』に収めた。本書は損傷が起きたあとのみを扱う。灸の温度曲線は『温度曲線』に、熱の受容機構は『灸と神経生理学①』に、血管反応は『灸と血流の生理学』にある。本書は神経を経ない組織側に論点を限定しており、侵害受容・反射・脳の関与は扱っていない。

数値の出所方針。本書に記載した数値は、すべて一次文献に記載された報告値をそのまま引用したものである。編者が計算・推定・丸めた値は含まない。平均±SDは原著の表記どおりに記した。原著が実数を示していない箇所については、本書は数値を記載せず、その旨を本文に明記した(第4章・第6章・第8章・第11章)。図2-1は模式図であり、根拠にした報告値をキャプションに明記した。

階層の扱い。創傷治癒の相、熱傷閾値、HSF1の熱センサー機構、HSP70の免疫学、マクロファージ極性については、灸を対象とした研究ではなく一般生理学・免疫学の総説および教科書的資料に基づくため、エビデンス階層A〜Eの対象外として扱い、灸の根拠としてではなく灸の所見を読むための枠組みとして用いた。灸を対象とした実験については、種・系統・匹数・モデル・施灸条件・測定時点を必ず併記した(表10-1)。

編者の考察の範囲。本書が原著の報告値を超えて可能性を述べたのは2件である(第4章「考察1」および第14章「考察2」)。いずれも「考察」のラベルを付した囲みに収め、その考察が成立しない条件を併記した。囲みの外の本文に、報告されていない因果や機序は書いていない。

調査範囲。英語・日本語・中国語圏を対象に16件の検索クエリとPubMedの構造化検索を行い、一次・二次資料に到達したうえで本書に必要な27件を採用した(2026年8月21日時点)。到達できなかった数値は記載していない。文献9・12・14・19・25・26については存在を確認したが本文または実測値に到達できず、それぞれ本文中に注記のうえ、引用の範囲を限定した。とくに文献19(灸痕から生じた基底細胞癌の症例報告)については、本書の記述はすべて文献18を経由した引用であり、孫引きであることを本文に明示した。

本書の限界。本書が引用できた灸の組織修復に関する実験データは、そのすべてが動物実験である(表10-1)。ヒトの施灸局所で修復関連の指標を測定した査読済み研究には1件も到達できなかった。加えて、創傷治癒モデルの研究4件のうち2件は同一グループの同一モデルによるものであり、独立した再現ではない。そして本書最大の空白として、ヒトの創傷治癒に対する灸の効果を統合した臨床エビデンスは、2025年4月の撤回によって失われている。撤回理由は査読プロセスの毀損であり、効果の否定ではない。空白の一覧は第15章の表15-1に掲げた。

本書が書かないこと。本書は創傷の処置手順を示さない。被覆材・洗浄・薬剤の選択に関する記載は、本書が到達した文献の範囲にないため書いていない。また、有痕灸の是非について本書は裁定を行わず、法令の解釈も述べない。示したのは、判断の材料となる報告値と、患者への説明に含まれるべき事実である。創傷の診断と治療は医師の管轄である。

発行と利益相反。本書の発行者は合同会社YOMOGI BASEである。同社はよもぎ・お灸に関連する商品を扱う事業者であり、この利害関係を開示したうえで、本書では特定の商品・サービス・銘柄に一切言及せず、効能をうたわない編集方針を採っている。灸の作用機序を扱う教材において、この開示はとりわけ重要である。文献の選定・数値の引用・空白の明示は、事業上の利害と独立して行った。自社および自社関係者による発信は、査読の有無にかかわらず出典として用いない。

ご利用にあたって。本書は教育・研究目的の学術情報であり、個々の患者に対する診断・治療方針を示すものではない。臨床判断は、施術者自身の責任において、患者の状態と関連法規に基づいて行われたい。

改版履歴。2026年8月21日 第1版発行。