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Knee Pain II — 全20章

灸の臨床|膝痛② エビデンスと臨床判断

灸に偽対照の無作為化比較試験があるのは、この領域だけである。
だからこそ、そこから何を言い、何を言わないかが問われる。

第1版 2026年9月 偽対照RCT / メタ解析 / 撤回と批判 / 運動・鍼との比較 / 安全性

3分で要点だけ

本文で示した報告値のうち、この教材の骨格になる3点。

  1. 膝痛は、灸で偽対照試験が積まれた唯一の領域である110人・150人・392人の無作為化比較試験がいずれも偽灸を対照に置いている
  2. 偽対照群では15m最速歩行時間が動かなかった392人の二重盲検試験で、実測の歩行時間は期待や通院では変わらなかった
  3. この領域では灸のメタ解析が撤回されている引用する前に、文献が現在どう収載されているかを確かめる

続けて読むなら 序章から。要点だけ確かめたい場合は 理解度チェック へ。

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序章

偽対照が置かれた、ただ一つの領域

本ライブラリの臨床編では、灸を偽灸と比べた試験が見つからないという報告を繰り返してきた。膝痛は違う。110人、150人、そして392人の偽対照試験が実在する。本書はその内容を精密に読み、そこから何を言い、何を言わないかを線引きする。対象の見立てと適応の判断は第1巻で扱った。

この部を読むと試験を読むとき、効果量より先に対照を見る習慣がつく。

00本書の読み方と対照の一覧

本書の各章は、ひとつの試験またはひとつの系統的レビューを扱う。読者に持ち帰ってほしいのは個々の結論ではなく、その結論がどの対照との比較から出たのかを毎回確かめる習慣である。

0-1 対照の一覧

表 0-1 対照の種類と、そこから言えること
対照差し引けるもの差し引けないもの
無処置・待機自然経過、平均への回帰期待、関係性、通院そのものの効果
薬物薬物と比べた相対的な位置灸に固有の効果(両群とも非特異的効果を含む)
運動療法証拠のある治療と比べた位置併用したときの上乗せ効果
偽灸期待、関係性、通院、儀式偽灸が皮膚温を上げてしまう場合の温熱効果
対照なし(前後比較)何も差し引けない——

0-2 エビデンスの階層

表 0-2 本書で用いるエビデンス階層
階層デザイン典型的な弱点
A盲検化された無作為化比較試験、系統的レビュー・メタ解析、診療ガイドライン偽刺激の妥当性。部分集団解析の事前規定
Bコホート・横断・比較研究(客観指標つき)因果を示さない。対象数が小さい
C動物実験(機序の解明)刺激条件がヒト臨床と異なる
D非盲検の無作為化比較試験、単群前後比較出版バイアスが大きい
E症例報告・症例集積、専門家の合意診断精度や頻度を推定できない

0-3 第1巻との関係

膝OAの疫学、Kellgren-Lawrence分類、重症度と症状の対応、評価尺度、適応の線引きは第1巻『灸の臨床|膝痛① 病態と適応』で扱った。本書はそれを前提として進む。とくにKL grade 4 で有意な効果が示されなかったという所見は、本書でも繰り返し参照する。

読み方の注意

本書には、撤回された論文と、公表後に方法論批判を受けた論文を扱う章がある(第7章)。効果の数値だけでなく、その数値がどの状態の文献に載っているかを確かめる——これも証拠を読む作業の一部である。

第I部

偽対照のある領域

まず、この領域が他と違うことを確認する。灸を偽灸と比べた無作為化比較試験が、複数の規模で実在している。

この部を読むと灸の偽対照試験の内容を、規模・盲検化・アウトカムまで含めて説明できるようになる。

01灸で偽対照試験が積まれた唯一の領域

本ライブラリの臨床編は、これまで同じ空白を繰り返し報告してきた。膝痛でその報告は変わる。

1-1 これまでの巻での報告

表 1-1 本ライブラリの臨床編における偽灸対照試験の有無
領域偽灸対照の無作為化比較試験
不定愁訴(身体症状症・身体的苦痛症)見出せなかった
腰痛完了報告は見出せなかった(プロトコルのみ)
肩こり見出せなかった
膝痛(変形性膝関節症)複数存在する

1-2 本書が扱う3つの偽対照試験

本書の第I部では、次の3つを順に扱う。いずれも偽灸または偽レーザー灸を対照に置いた無作為化比較試験である。

  • 110人——伝統的な灸を用い、患者と施術者の盲検化に成功した試験[1]
  • 150人——同じ枠組みで生活の質を主要アウトカムに置いた試験[2]
  • 392人——CO2レーザー灸を用いた二重盲検・多施設試験[3]
臨床への翻訳

膝痛の患者に対しては、他の訴えとは違う説明ができる。「灸をしているふりと比べた研究があります」と言える領域は、鍼灸の臨床のなかで多くない。ただし、その研究が何を測って何を示したかを正確に知っていなければ、この強みは使えない。

02伝統的な灸の偽対照RCT——110人

艾を燃やす伝統的な灸で、患者と施術者の双方を盲検化した試験がある。本書で最も重要な試験のひとつである。

2-1 設計

組み入れ基準を満たした慢性の変形性膝関節症疼痛をもつ110人が、実灸群55人と偽灸対照群55人に無作為に割り付けられた。刺激部位は犢鼻(ST35)、経外奇穴の内膝眼(EX-LE4)、および阿是穴で、週3回・6週間の施術が行われた[1]

効果はWOMAC(VA 3.1)の基準により、治療コースの終了時および初回治療から3週・12週・24週の時点で評価された[1]

2-2 結果

表 2-1 実灸群と偽灸群のWOMAC得点の比較(110人)[1]
アウトカム3週6週12週24週
疼痛p = 0.012p < 0.001p = 0.002p = 0.002
身体機能p = 0.002p = 0.015p < 0.001p = 0.058

WOMACの疼痛得点は、3週・6週・12週・24週のいずれの時点でも実灸群のほうが有意に大きく改善した。身体機能得点は3週・6週・12週で有意であったが、24週では有意ではなかった(p = 0.058)[1]

2-3 盲検化と安全性

患者と施術者の盲検化は成功しており、試験期間中に重大な有害事象は認められなかった[1]

著者らの結論は、6週間の灸のコースは変形性膝関節症の患者において疼痛を効果的に緩和し機能を改善するようであり、その効果は治療終了後18週まで持続する、灸治療は安全と考えられ、新しい艾のデバイスの有用性が検証された、というものである[1]

この試験の位置づけ

本ライブラリで扱った灸の試験のなかで、患者と施術者の双方の盲検化が成功したと明記されているものは多くない(階層A)。ただし対象数は110人であり、第4章で扱う392人の試験より小さい。また、この試験は灸を補助療法(adjunctive therapy)として位置づけている。

臨床への翻訳

身体機能が24週で有意でなくなったこと(p = 0.058)に注目する。疼痛の差は24週まで保たれたのに、機能の差は保たれなかった。痛みが軽くなることと、動けるようになることは別々に動く。第1巻の第13章で見た刺入深度の試験と同じ構造である。

03生活の質を測った150人の試験

同じ枠組みで、疼痛ではなく生活の質を主要アウトカムに置いた試験がある。患者にとっての結果に一歩近い。

3-1 設計と結果

慢性の変形性膝関節症患者150人が、実灸治療群77人と偽灸治療群73人に無作為に割り付けられ、週3回・6週間の施術を受けた。生活の質はSF-36により、ベースラインと3週・6週・12週の時点で評価された。解析対象となったのは136人である[2]

表 3-1 SF-36で実灸群が有意に優った下位尺度(150人)[2]
下位尺度時点p値
全体的健康感(GH)6週0.015
全体的健康感(GH)12週0.029
活力(VT)12週0.042

著者らの結論は、6週間の灸治療は身体的・精神的な生活の質に関連する全体的健康感と活力を、信頼できる偽灸と比べて12週まで改善するようである、というものである。試験期間中に有意な有害作用は認められなかった[2]

3-2 有意になった尺度の数

SF-36には8つの下位尺度がある。このうち有意差が報告されたのは、全体的健康感と活力の2つである[2]。多くの下位尺度を測って一部で有意差が出た場合、多重比較の問題を考慮する必要がある。

臨床への翻訳

この試験が示したのは、灸が生活の質の一部の側面を偽灸より改善したということである。「生活の質が上がる」と一般化して伝えるのは、報告値を超えている。伝えるなら「元気さや全体的な健康感の項目で差が出た研究があります」となる。

04レーザー灸の392人・二重盲検試験

本書で最大規模の偽対照試験である。艾を燃やさないレーザー灸を用い、実測できるアウトカムを主要指標に置いている。

4-1 設計

適格基準を満たした変形性膝関節症の患者392人が、レーザー灸治療群と偽レーザー灸対照群に1対1で無作為に割り付けられた。両群とも膝関節の患部に治療または模擬治療を受け、週3回・4週間実施された[3]

この試験の特徴は、主要アウトカムに15メートルを最速で歩く時間という実測値を置いた点である[3]

4-2 結果

表 4-1 15m最速歩行時間の変化(392人)[3]
比較4週12週
レーザー灸群の治療前との比較有意に短縮(p < 0.05)有意に短縮(p < 0.05)
偽レーザー灸群の治療前との比較有意差なし(p > 0.05)有意差なし(p > 0.05)
両群の比較レーザー灸群が短い(p < 0.05)レーザー灸群が短い(p < 0.05)

著者らの結論は、CO2レーザー灸は変形性膝関節症患者の15m最速歩行時間を大きく改善し、その治療効果は治療後少なくとも8週間持続する、15m最速歩行時間は膝OA患者の歩行能力の変化を反映する指標として機能する、というものである[3]

4-3 この試験が持つ強み

3点ある。第一に、二重盲検・偽対照・多施設である。第二に、主要アウトカムが患者の自己記入ではなく実測値である。第三に、偽対照群では治療前後で有意差が出ていない——つまり自然経過や通院そのものでは、この指標が動かなかったということである[3]

この試験の限界

用いられたのは10.6μmのCO2レーザー灸であり、艾を燃やす伝統的な灸ではない。両者が同じ効果を持つかどうかを直接比較した試験の結果は、今回の調査範囲では見出せなかった(第19章)。また第1巻で見たとおり、同じ392人をKL grade別に解析すると、grade 4では有意な効果が示されていない[4]

臨床への翻訳

この試験の設計は、そのまま自院に移せる。15mの距離とストップウォッチがあればよい。患者の「楽になった気がする」と、実際に歩く速さが変わったかどうかを分けて記録できる。偽対照群でこの指標が動かなかったという事実は、この指標が期待や通院で揺れにくいことを示唆する[3]

第II部

メタ解析が示したもの

個々の試験の次は、それらを統合した解析を読む。統合すると数は増えるが、質は上がらない。そして文献そのものの状態も確かめる必要がある。

この部を読むとメタ解析の効果量と、文献そのものの収載状態の両方を確かめられるようになる。

0543研究4,008人のメタ解析

膝OAに対する灸の最新の系統的レビューである。効果量だけでなく、治療条件と有害事象まで報告している。

5-1 組み入れと方法

7つのデータベースを2024年6月まで検索し、膝OAの疼痛緩和に対するさまざまな灸の介入について現在の証拠を統合した系統的レビューがある。バイアスリスクはCochraneのROB2で、主要アウトカムの証拠の確実性はGRADEで評価された。組み入れられたのは43研究・4,008人である[5]

5-2 報告された効果

表 5-1 膝OAに対する灸のメタ解析(43研究・4,008人)[5]
アウトカム効果量95%信頼区間
WOMAC−0.91−1.12〜−0.70
VAS−0.95−1.18〜−0.73
総有効率(灸群)93.11%——
総有効率(対照群)76.41%——

さらに、電子灸がもっとも有効な介入であったこと、週3回を超える治療頻度がそれより少ない回数より有効であったことが報告されている[5]

5-3 有害事象

有害事象は16研究で報告され、そのうち重篤な有害事象が1件あった[5]

著者らの結論は、灸は他の治療より疼痛緩和において有効であり有害事象の発生率は低い、ただしこれらの知見を検証するにはさらに高いレベルの証拠が求められる、というものである[5]

「他の治療より」という比較

この結論の比較相手は「他の治療」であり、偽灸ではない。第I部で扱った3つの偽対照試験と、このメタ解析は別のことを述べている。メタ解析の効果量には、偽対照試験も非盲検の対照試験も混ざっている。

臨床への翻訳

膝痛については、2種類の説明ができる。ひとつは「偽の施術と比べた研究がある」(第I部)。もうひとつは「多くの研究を集めると、他の治療より良い結果が報告されている」(本章)。前者のほうが強い主張であり、後者は比較相手が曖昧である。強いほうを使う。

06鍼と灸を併用したメタ解析

臨床では灸を単独で使うことは少ない。鍼と併用した場合のメタ解析がある。ただし結果は時間軸で一定しない。

6-1 組み入れ

Ovid MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trialsを検索し、膝OA患者において鍼と灸の併用を他の標準治療と比較した無作為化比較試験を集めたメタ解析がある。組み入れられたのは18の無作為化比較試験である[6]

6-2 時間軸で分かれた結果

表 6-1 鍼と灸の併用の効果——時間軸による違い(18RCT)[6]
期間WOMAC(疼痛・こわばり・身体機能)
短期(4週未満)結果は一定しなかった
中期(6〜60週)結果は一定しなかった
長期(60週超)有意な改善

疼痛のVASと、長期(60週超)のWOMACにおける疼痛・こわばり・身体機能の得点は、他の治療と比べて有意な改善を示した。一方、短期(4週未満)と中期(6〜60週)のWOMACのアウトカムは結果が一定しなかった。総合的な有効率は、短期と中期の評価において併用療法を有意に支持した。また、この療法は有害事象がより少ないことと関連していた[6]

この結果の読みにくさ

短期と中期で一定せず、長期で有意になるという結果は、解釈が難しい。通常、介入の効果は治療直後に最も大きく、時間とともに減衰する。逆のパターンが出た理由は、原著では説明されていない。長期のデータを報告している試験の数が少なく、選択的な報告が影響している可能性を考慮する必要がある。

臨床への翻訳

「長期で効く」という結論は魅力的だが、短期と中期で一定しないという同じ報告の前半部分を落として引用してはならない。この不一致がなぜ生じたかは分かっていない(第19章)。

07撤回された論文と、批判の書簡

文献は、公表されたあとも状態が変わりうる。膝OAと灸の領域には、その実例が2つある。効果の数値を確かめるのと同じ手間で、文献の状態も確かめられる。

7-1 撤回された系統的レビュー

2022年に、温鍼灸と薬物療法を膝OAについて比較した系統的レビューとメタ解析が公表された。PubMed、Embase、Cochrane Library、VIP、WanFang、CNKIを2022年3月23日まで検索し、30の無作為化比較試験(温鍼灸群1,324人・対照群1,293人)が組み入れられている[7]

報告された結果は、温鍼灸群が対照群より優れた効果を示し(RR = 1.22、95%CI 1.17〜1.27)、WOMAC得点(WMD = −8.48、95%CI −13.13〜−3.83)、日常生活動作得点、関節のこわばり得点、疼痛得点(SMD = −1.09、95%CI −1.38〜−0.79)のいずれでも改善が大きかった、というものであった[7]

この論文は2023年に撤回された。撤回通知が同じ雑誌に掲載されている[8]

7-2 方法論批判の書簡

もう一つの例は、雷火灸が膝OAの治療効果を本当に増強するのかを問う書簡である。2025年に、最近公表されたペアワイズ・メタ解析に対する方法論的批判として発表されている[9]

表 7-1 この領域で確認された文献の状態
文献状態確認方法
温鍼灸 vs 薬物療法のメタ解析[7]2023年に撤回[8]撤回通知が同誌に収載
雷火灸のペアワイズ・メタ解析方法論批判の書簡が公表[9]書簡が書誌データベースに収載

7-3 なぜこれを書くのか

本ライブラリの『灸の臨床|肩こり②』では、頸部痛に対する鍼のCochraneレビューの新しい版が撤回の表題で収載されていることを扱った。膝痛では、灸のメタ解析そのものが撤回されている。

撤回や批判は、この分野で珍しいことではない。引用する前に、著者名と年号だけでなく、その文献が現在どう収載されているかを見る習慣が要る。

臨床への翻訳

資料や研修で「30研究2,617人のメタ解析で灸の有効性が示された」という引用を見たら、その文献の現在の状態を確認する。撤回された論文の数値が、撤回後も引用され続けることは実際に起こる。確認は数分で終わる。

第III部

比較の相手

灸の位置は、灸だけを見ても決まらない。同じ患者に対して他に何が使えるのか、その証拠はどれだけ強いのか。

この部を読むと運動・鍼と並べたときの灸の位置を、過大にも過小にも語らずに済むようになる。

08運動療法——54研究が置いた基準

膝OAの非薬物治療で最も多くの試験に支えられているのは運動である。灸の効果を語るとき、この規模と質が比較の基準になる。

8-1 54研究

5つの電子データベースを2013年5月まで検索し、陸上の治療的運動を非運動群または無治療対照群と比較した無作為化比較試験を集めたCochraneレビューがある。54研究からデータが抽出された。うち19研究(20%)が適切な無作為化の順序生成と割り付けの隠蔽を報告し、不完全アウトカムデータを適切に処理していた[10]

著者らは、研究が選択バイアスからはおおむね自由であった一方、参加者の割り付け盲検化を報告した試験は4件のみであり、疼痛・身体機能・生活の質はいずれも参加者の自己報告であるため、実施バイアスと検出バイアスの影響を受けうると述べている[10]

8-2 効果の大きさ

44試験・3,537人による高い質の証拠として、運動は治療直後に疼痛を減少させた(標準化平均差 −0.49、95%CI −0.39〜−0.59)[10]

表 8-1 膝OAに対する陸上運動療法の効果(100点法)[11]
アウトカム改善95%信頼区間時点
疼痛12点10〜15治療直後
身体機能10点8〜13治療直後
生活の質4点2〜5治療直後
疼痛6点3〜92〜6か月後
身体機能3点1〜52〜6か月後

著者らの結論は、膝OAをもつ人において陸上の治療的運動は、正式な治療の終了後少なくとも2〜6か月持続する短期的な便益をもたらす、というものである[11]

臨床への翻訳

「運動は効く」と言うより、「54研究で、疼痛は100点法で12点良好(10〜15)、その効果は治療終了後2〜6か月持続する」と言えるほうがよい。この粒度で話せる施術者は、患者が整形外科で受けている指導を否定せずに、自分の施術の位置を説明できる。

09診療ガイドラインの中核治療

国際的なガイドラインは、膝OAの治療をどう並べているか。灸を選ぶ前に、患者に何が置かれているべきかを確認する。

9-1 2019年のOARSIガイドライン

変形性関節症研究学会(OARSI)は、60の介入について2018年7月までの系統的検索を行い、GRADE Evidence Profilesを作成したうえで、専門家パネルの投票により推奨を作成した[12]

膝OAの中核治療(Core Treatments)は、関節炎に関する教育と、構造化された陸上運動プログラム(食事による体重管理を伴う場合と伴わない場合)である[12]

表 9-1 膝OAに対する主な推奨の水準[12]
治療位置づけ
関節炎の教育+構造化された陸上運動中核治療
外用の非ステロイド性抗炎症薬強く推奨(Level 1A)
関節内ステロイド、関節内ヒアルロン酸、水中運動Level 1B/Level 2(併存疾患による)
アセトアミノフェン条件つきで推奨されない(Level 4A・4B)
経口・経皮のオピオイド強く推奨されない(Level 5)

9-2 鍼の位置づけ

2014年のOARSIガイドラインでは、鍼は特定の臨床サブフェノタイプに対して適切性が不確かな治療に分類されている[13]。灸については、本書の調査範囲でOARSIガイドラインの推奨に記載を見出せなかった。

臨床への翻訳

灸はガイドラインの推奨一覧に位置を持っていない。これは「効かない」とされたという意味ではなく、評価の対象として取り上げられていないという意味である。だからこそ、第I部で見た偽対照試験を施術者自身が正確に知っている価値がある。

10鍼——偽に勝たなかった282人の試験

灸と最も近い手技である鍼について、膝痛を対象とした大規模な無作為化比較試験がある。結果は、灸の試験とは方向が違う。

10-1 設計

オーストラリア・ビクトリア州で2010年2月から2012年12月にかけて実施された、Zelenデザイン(無作為化を同意取得の前に行う)の臨床試験である。50歳以上で慢性の膝痛をもつ地域住民の志願者282人が、家庭医である鍼師によって治療された[14]

介入は、無治療(対照群71人)、鍼(70人)、レーザー鍼(71人)、偽レーザー鍼(70人)の4群で、12週間実施された。参加者と鍼師はレーザー鍼と偽レーザー鍼について盲検化され、対照群の参加者は試験の存在を知らされていなかった[14]

10-2 結果

表 10-1 12週時点の偽レーザー鍼との比較(282人)[14]
介入アウトカム平均差95%信頼区間
疼痛(0〜10)−0.4−1.2〜0.4
レーザー鍼疼痛(0〜10)−0.1−0.9〜0.7
機能(WOMAC 0〜68)−1.7−6.1〜2.6
レーザー鍼機能(WOMAC 0〜68)0.5−3.4〜4.4

12週時点で、鍼もレーザー鍼も偽レーザー鍼と比べて疼痛・機能のいずれも有意に改善しなかった[14]

一方、無治療対照との比較では、鍼(−1.1、95%CI −1.8〜−0.4)とレーザー鍼(−0.8、95%CI −1.5〜−0.1)が12週時点で疼痛のわずかな改善をもたらしたが、1年時点では認められなかった。鍼は対照と比べて12週時点で機能のわずかな改善をもたらしたが(−3.9、95%CI −7.7〜−0.2)、偽との差は有意でなく、1年時点では維持されなかった[14]

著者らの結論は、50歳を超える中等度から重度の慢性膝痛の患者において、レーザー鍼も鍼も疼痛・機能について偽を上回る便益をもたらさなかった、われわれの知見はこれらの患者に対する鍼を支持しない、というものである[14]。重篤な有害事象はなかった[14]

灸の試験との違い

第I部で見た灸の3試験はいずれも偽に対して差を示した。この鍼の試験は示さなかった。手技が違い、対象の選び方が違い、アウトカムの時点が違う。どちらが正しいという読み方ではなく、同じ膝痛でも介入によって結果が違うという事実として持っておく。

臨床への翻訳

この試験は、膝痛に対する鍼について最も引用される陰性の結果である。患者や他職種から「鍼は効かないという研究がある」と言われたときに、その内容を正確に知っていることは、防御ではなく誠実さの問題である。そのうえで「灸については偽と比べた試験で差が出たものがあります」と言える。

11慢性疼痛の個別患者データ

前章だけを読むと結論を急ぎかねない。より大きなデータでは、小さいが消えない差が観察されている。

11-1 39試験・20,827人

2015年12月31日までに発表された無作為化試験のうち、割り付けの隠蔽が適切と明確に判定できたものだけを組み入れ、原著者から生データを取得して統合した個別患者データメタ解析がある。非特異的筋骨格痛、変形性関節症、慢性頭痛、肩の痛みを対象とし、39試験・20,827人が組み入れられた[15]

鍼は、偽鍼に対しても無治療対照に対しても、いずれの疼痛病態でも有意に優った(いずれもp < .001)。群間差は、無治療対照との比較でおよそ0.5標準偏差、偽鍼との比較でおよそ0.2標準偏差であった[15]。効果は時間とともに持続し、1年後の治療効果の減少はおよそ15%にとどまった[15]

11-2 持続を詳しく見る

同じデータ群を用いた解析では、29試験・17,922人が対象となり、長期追跡データは20試験・6,376人で得られた。無治療対照との比較では効果量の減少は3か月あたり−0.011標準偏差(95%CI −0.014〜0.037、p = 0.4)で、12か月時点でも便益のおよそ90%が維持される計算であった。偽鍼との比較では3か月あたり0.025標準偏差の減少(95%CI 0.000〜0.050、p = 0.050)で、12か月でおよそ50%減弱すると推定された[16]

第10章との関係

282人の単一試験は偽との差を示さず、20,827人の統合データは約0.2標準偏差の差を示した。矛盾ではない。単一試験が0.2標準偏差の差を検出するには、282人では足りない可能性がある。同時に、統合データの0.2標準偏差が臨床的に意味のある大きさかどうかは別の問題である。

12何と比べるかで結論が変わる

第I部から第III部までを、証拠の強さと対照の種類で並べ直す。膝痛における灸の位置が、他の巻とどう違うかが見える。

表 12-1 膝痛に使える手段と、その証拠の状況
手段規模対照結果
運動療法[10][11]54研究・44試験3,537人非運動・無治療疼痛12点/100 改善、高い質の証拠
灸(伝統灸)[1]110人偽灸疼痛は24週まで有意、機能は24週で有意でない
灸(生活の質)[2]150人偽灸SF-36の2下位尺度で有意
レーザー灸[3]392人偽レーザー灸15m歩行時間が4週・12週で有意に短縮
灸(メタ解析)[5]43研究4,008人他の治療WOMAC −0.91、VAS −0.95
[14]282人偽レーザー鍼・無治療偽に対して有意差なし
鍼(慢性疼痛全般)[15]39試験20,827人偽鍼・無治療偽鍼比 約0.2 SD

12-1 この表から言えること

膝痛は、本ライブラリの臨床編で灸が偽対照に対して差を示した唯一の領域である。同時に、最も証拠が厚いのは依然として運動療法である。

そして第1巻で見たとおり、その灸の効果も重症度によって分かれていた。KL grade 2・3では改善が大きく、grade 4では有意な効果が示されなかった[4]

臨床への翻訳

患者に説明するときの言い方の例。「膝の痛みについては、灸をしているふりと比べた研究がいくつかあり、痛みや歩く速さで差が出ています。ただし、変形がかなり進んだ段階では、はっきりした結果は出ていません。そして最も研究が積み重なっているのは運動です。ですから、灸で痛みを抑えて運動を続けられるようにする、という組み立てをお勧めします」。この説明は、どの文も報告値の範囲に収まっている。

第IV部

効果の分解

偽対照試験があるということは、効果を分解できるということである。この部では、その分解が何を意味するかを詰める。

この部を読むと観察された改善を、灸・施術の場・指標の性質に分けて考えられるようになる。

13偽灸は作れる

膝痛の領域で偽対照試験が積まれたのは、偽灸が作れるからである。そのデバイスの妥当性は、独立して検証されている。

13-1 デバイスの設計と検証

実灸と偽灸の艾柱は、専用の台座に艾炷を固定して作られた。両者は外見・燃焼の過程・燃え残りが互いに似ているが、偽灸の台座は艾から出る熱と煙を遮断し、皮膚に到達しないようにしてある[17]

二重盲検・無作為化・プラセボ対照のパイロット試験として、北京市朝陽区の地域外来施設で2003年11月初旬から12月下旬に実施された。55歳から75歳の志願者71人が治療群36人と偽対照群35人に無作為に割り付けられ、足三里(ST36)へ2日に1回・1か月間の施灸を受けた[17]

試験終了時、「実灸を受けたと思う/偽灸を受けたと思う/どちらか分からない」と答えた人数は、治療群で30・0・5、偽対照群で29・0・4であり、群間に統計的な差はなかった(p = 1.000)。2人の施術者による判定でも群間差はなかった(p = 0.811、p = 0.840)[17]

13-2 膝痛での実装

第2章で扱った110人の試験では、患者と施術者の盲検化が成功しており、新しい艾のデバイスの有用性が検証されたと著者らが述べている[1]。第4章の392人の試験は、レーザー灸という別の方式で二重盲検を実現している[3]

臨床への翻訳

「灸は盲検化できないから偽対照は無理だ」という主張は、この領域では成立しない。実際に複数の方式で偽対照が実装されている。他の領域で偽対照試験が積まれていないのは、技術的な限界ではなく設計上の選択である——本ライブラリが繰り返し述べてきたことの、最も明確な実例がここにある。

14非特異的効果の大きさ

偽対照が置かれた試験を読むには、偽対照そのものがどれだけの効果を生むのかを知っておく必要がある。

14-1 262人の3群比較

ローマII基準を満たし症状重症度スケールが150点以上の過敏性腸症候群患者262人(76%が女性、平均年齢39歳、SD 14)を対象とした、6週間・単盲検・3群の無作為化比較試験がある。3週間、待機(評価と観察のみ)、偽鍼のみ、偽鍼に温かさ・注意・自信による患者-施術者関係の強化を加えた群のいずれかが割り当てられた[18]

表 14-1 プラセボ効果の成分ごとの3週後アウトカム(262人)[18]
アウトカム待機偽鍼のみ偽鍼+関係性傾向性
全般改善スケール(1〜7)3.84.35.0p<0.001
十分な症状緩和を報告28%44%62%p<0.001

著者らの結論は、非特異的効果は統計的にも臨床的にも意味のある結果を生みうること、そのなかで最も頑健な成分は患者-施術者関係であることである[18]

14-2 膝痛の試験に当てはめると

この幅を知ったうえで、第I部の試験を読み直す。偽灸群の患者も、通院し、施術者と接し、施術を受けている。その群と比べてなお差が出たということが、第I部の試験の意味である。

とくに第4章の392人の試験では、偽レーザー灸群で15m最速歩行時間が治療前後で有意に変化しなかった[3]。実測の歩行時間は、この幅の影響を受けにくい指標である可能性がある。

臨床への翻訳

自院で対照を置かずに成績を数えれば、その数字はこの幅の中に容易に収まる。同時に、関係性は施術者が意図的に高められる臨床資源でもある。膝痛の領域では、その両方を持ちながら「偽と比べても差が出た試験がある」と言える。これは他の領域にはない立場である。

15総有効率という指標

中国語圏の試験でもっとも多く報告される指標である。数字が大きく見えるため引用されやすいが、扱いには注意が要る。

15-1 報告されている値

43研究・4,008人のメタ解析では、総有効率は灸群93.11%、対照群76.41%と報告されている[5]

また、第7章で扱った撤回された系統的レビューでは、温鍼灸群が対照群より優れた効果を示した(RR = 1.22、95%CI 1.17〜1.27)と報告されていた[7]。この論文は2023年に撤回されている[8]

15-2 この指標の3つの問題

  1. 判定基準が試験ごとに異なる。何をもって「有効」とするかが統一されていない
  2. 非盲検下では判定者の期待が入りやすい。連続量を二値に丸める過程で、判定者の主観が入る余地が大きい
  3. 効果の大きさを表さない。93.11%という数字は、痛みがどれだけ軽くなったかを示していない

15-3 対照群の値を必ず並べる

総有効率を引用するときは、対照群の値を必ず並べる。灸群93.11%という数字だけを示すと、対照群でも76.41%が「有効」と判定されていた事実が消える[5]

臨床への翻訳

「灸は9割以上の患者に有効」という宣伝文句を見たら、対照群の値を探す。見つからなければ、その引用は片方だけを示している。本ライブラリの『灸の臨床|肩こり②』でも同じ構造を扱った。総有効率は、患者への説明に使う指標ではない。

16重症度による効果の差をどう解釈するか

第1巻の中核である所見を、効果の分解という文脈で読み直す。部分集団解析をどう扱うかという、より一般的な問題でもある。

16-1 報告されたこと

392人の試験の参加者をKellgren-Lawrence gradeで分けた解析では、392人のうち364人(92.86%)が試験を完了した。KL grade 2・3・4の患者は grade 1 より疼痛・機能・WOMAC総得点が有意に高く、KL gradeとWOMACの各得点には正の相関が認められた[4]

4週間の治療後、KL grade 2 と 3 の患者は grade 1 より疼痛・機能・総得点の改善が有意に大きく、grade 2 はこわばりの改善も grade 1 より大きかった。KL grade 4 の患者では有意な効果が示されなかった[4]

16-2 3つの解釈と、その検証可能性

表 16-1 grade 4 で効果が示されなかったことの解釈
解釈この解析で検証できるか
進行した関節では、灸の作用機序が届かないできない(機序を測っていない)
この層の人数が少なく、小さな効果が検出されなかったできない(各層の人数が原著抄録に示されていない)
この層では改善の余地そのものが小さい(床効果)できない(ベースライン得点は高いと報告されている)

3つ目については補足が要る。KL grade 4 の患者はベースラインのWOMAC得点が高い、すなわち症状が重い[4]。したがって「改善の余地がない」という単純な説明は当てはまらない。

16-3 部分集団解析の一般的な注意

部分集団に分けた解析は、事前に規定されていれば強い情報になる。しかし分けた時点で各群の人数は減り、検出力は落ちる。また、複数の部分集団で検定を繰り返せば、偶然の有意差も生じやすくなる。

臨床への翻訳

この所見は、施術の適応判断に使える最も具体的な情報である。同時に、単一の試験の部分集団解析であることを忘れない。臨床での使い方は「grade 4 には効かないから断る」ではなく、「grade 4 では疼痛軽減を目標に置かず、期限を決めて別のアウトカムで判定する」である。第1巻の第9章・第10章で扱った整理と同じである。

第V部

安全性と臨床判断

効果が示された領域だからこそ、安全性と設計を丁寧に扱う。そして最後に、残っている空白を言葉にする。

この部を読むと試験の条件をそのまま再現する形で、施術を設計できるようになる。

17灸の有害事象

膝痛の試験では有害事象の報告が比較的整っている。それでも、発生率は分かっていない。

17-1 膝痛の試験での報告

43研究・4,008人のメタ解析では、有害事象が16研究で報告され、そのうち重篤な有害事象が1件あった。著者らは有害事象の発生率は低いと結論している[5]

第I部で扱った偽対照試験では、110人の試験で試験期間中に重大な有害事象は認められず[1]、150人の試験でも有意な有害作用は認められなかった[2]

17-2 灸全般の有害事象

灸に関連する有害事象を報告した24論文・64症例を、6か国から集めた系統的レビューがある。報告された有害事象は、アレルギー、熱傷、感染、咳、悪心、嘔吐、胎児仮死、早産、基底細胞癌、眼瞼外反、色素沈着、そして死亡である[19]

著者らは、体位、施灸時間、艾と皮膚の距離、施術者の熟練度、患者の状態、煙の有無、施術環境までもが灸の安全性に影響しうるとし、施術者の技術の向上と操作の規格化が有害反応の発生を減らしうると述べている[19]

14のデータベースを検索した別の系統的レビューの結論は、灸は完全に無リスクではなくアレルギー・熱傷・感染などの潜在的な有害事象があるが、現時点でこれらの発生率は不明であるというものである[20]

17-3 膝関節周囲で特に考えること

以下は本書が引用した知見から導ける整理であり、ガイドラインではない。

  • 膝は座位で施術することが多く、患者から施灸部位が見える。熱さの申告を得やすい部位である。この利点を使う
  • 高齢者が多い。知覚が鈍っている場合、申告が遅れうる。第1巻で見たとおり、日本の地域住民調査の平均年齢は70歳前後である
  • 週3回という頻度が報告されている[5]。同一部位への反復施灸になるため、皮膚の状態を毎回確認する

熱傷の機序と深度分類については、本ライブラリの『お灸の安全性』で詳しく扱っている。

臨床への翻訳

膝痛の領域は、効果について語れることが多いぶん、安全性への注意が緩みやすい。有害事象の発生率は依然として不明である[20]。分母が分かっていない以上、「めったに起きない」とは言えない。言えるのは、報告されている事象の種類と、それを減らす条件である[19]

18施術としての設計

この領域は、証拠に沿った設計が最も具体的に書ける。試験の条件をそのまま移せばよいからである。

表 18-1 本書の証拠から導ける設計と、その根拠
設計根拠となる知見
週3回を目安に、4〜6週を1つの区切りとする偽対照試験は週3回・4週[3]または6週[1]/メタ解析で週3回超が有効[5]
疼痛と歩行時間を別々に記録する15m最速歩行時間は偽対照群で動かなかった[3]
KL gradeを聞き取って記録するgrade によって効果が分かれた[4]
grade 4 では疼痛軽減を目標に置かないこの層で有意な効果が示されなかった[4]
12週まで追跡してから継続を判断する効果は治療後18週[1]または8週[3]持続したと報告されている
運動と競合させず、運動につなぐ位置に置く中核治療は教育と陸上運動[12]/運動の効果は2〜6か月持続[11]
総有効率を患者への説明に使わない判定基準が試験ごとに異なる[5]
施灸部位の皮膚を毎回確認する有害事象の発生率は不明[20]
臨床への翻訳

この表は、そのまま自院の手順書にできる。膝痛は、本ライブラリの臨床編で唯一、試験の条件を再現できる領域である。再現したうえで効果が出なければ、それは記録に値する情報になる。再現していない状態で効果を語ることが、いちばん学びが少ない。

19未解決問題と、次に必要な研究

本書の調査範囲で確認できた空白を列挙する。この巻の空白は、これまでの巻とは種類が違う。

19-1 確認できた空白

表 19-1 本書で確認した空白
問い現時点で分かっていること
KL grade 4 への効果有意な効果は示されなかった[4]。この層を主対象とした試験は見出せなかった
伝統的な灸とレーザー灸の同等性直接比較した結果は見出せなかった
灸を運動に上乗せしたときの効果運動単独と比較した試験は見出せなかった
効果の時間経過短期・中期・長期で結果が一定しない[6]
灸の有害事象の発生率不明[20]
日本の患者での対照つき試験見出せなかった
ガイドラインにおける灸の位置推奨の一覧に記載を見出せなかった[12]

19-2 時間経過の不一致

鍼と灸を併用した18試験のメタ解析では、60週を超える長期のWOMAC得点で有意な改善が報告される一方、4週未満の短期と6〜60週の中期では結果が一定しなかった[6]。この不一致がなぜ生じるのかは説明されていない。

一方、第I部の偽対照試験では、110人の試験で効果が治療終了後18週まで持続したとされ[1]、392人の試験では治療後少なくとも8週間持続したとされている[3]。個々の試験とメタ解析で、時間経過の描かれ方が一致していない。

19-3 次に必要な研究

  1. 艾を燃やす伝統的な灸と、レーザー灸を直接比較する非劣性試験の完了と結果報告
  2. KL grade 4 の患者を主対象とし、疼痛以外のアウトカム(歩行、睡眠、外出頻度)を主要評価項目に置いた試験
  3. ガイドラインの中核治療である運動に灸を上乗せし、運動単独と比較する試験
  4. 治療終了後6か月以上の追跡を置き、時間経過の不一致を解消する報告
  5. 有害事象の発生率を分母つきで報告する前向き研究
臨床への翻訳

膝痛は、本ライブラリの臨床編で灸の証拠が最も厚い領域である。だからこそ、施術者が語るべきことは「効きます」ではなく、どの層にどの条件で何が報告されているかである。その精度で話せることが、この領域における専門性になる。

演習

理解度チェック

全13問。選択するとその場で正誤と解説が出ます。各設問は設問文だけで解ける形にしてあり、前提となる試験の条件は設問文の中に書いてあります。自己確認のための演習であり、資格や技能を証明するものではありません。

第I部偽対照試験4問
Q01 出典:第2章

慢性の変形性膝関節症疼痛をもつ110人を実灸群と偽灸群に割り付け、週3回・6週間施術した二重盲検試験で、24週時点の結果はどうであったか。

Q02 出典:第3章

変形性膝関節症患者150人を実灸群と偽灸群に割り付け、SF-36で生活の質を評価した試験で、実灸群が有意に優った下位尺度はどれか。

Q03 出典:第4章

変形性膝関節症患者392人をレーザー灸群と偽レーザー灸群に割り付け、15m最速歩行時間を主要アウトカムとした二重盲検・多施設試験の結果はどれか。

Q04 出典:第1章第13章

膝痛の領域で複数の偽灸対照試験が実施できた理由として、報告に基づいて言えることはどれか。

第II部メタ解析と文献の状態3問
Q05 出典:第5章

膝OAに対する灸の43研究・4,008人のメタ解析で報告されたWOMACの効果量はどれか。

Q06 出典:第6章

膝OA患者において鍼と灸の併用を他の標準治療と比較した18試験のメタ解析で、WOMACのアウトカムについて報告されたことはどれか。

Q07 出典:第7章

膝OAに対する温鍼灸と薬物療法を比較した30試験の系統的レビューについて、その後に起きたことはどれか。

第III部比較の相手3問
Q08 出典:第8章

膝OAに対する陸上運動療法のCochraneレビュー(54研究)が、100点法で報告した治療直後の疼痛の改善はどれか。

Q09 出典:第9章

変形性関節症研究学会の2019年ガイドラインが、膝OAの中核治療として挙げているものはどれか。

Q10 出典:第10章

50歳以上の慢性膝痛患者282人を、無治療・鍼・レーザー鍼・偽レーザー鍼の4群に割り付けた試験の12週時点の結果はどれか。

第IV部・第V部効果の分解と安全性3問
Q11 出典:第15章

灸のメタ解析で総有効率が灸群93.11%、対照群76.41%と報告された。この指標を扱ううえで適切な態度はどれか。

Q12 出典:第16章

392人の試験をKellgren-Lawrence grade別に解析した研究で、grade 4 の患者に有意な効果が示されなかった理由について、この解析から検証できることはどれか。

Q13 出典:第17章

灸の有害事象について、複数の系統的レビューが共通して述べていることはどれか。

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付録

引用文献

本書の記述はすべて以下の資料に基づく。数値は原著の報告値であり、編者による換算・推定は行っていない。文献の版と収載状態(撤回を含む)は、書誌データベースの記録を直接確認したうえで記述した。

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  2. Ren X, Yao C, Wu F, Li Z, Xing J, Zhang H. Effectiveness of moxibustion treatment in quality of life in patients with knee osteoarthritis: a randomized, double-blinded, placebo-controlled trial. Evid Based Complement Alternat Med. 2015. PMC4320789
  3. Chen L, Zhao L, Cheng K, Lin L, Wu F, Shen X. Effect of 10.6-μm CO2 laser moxibustion on the fastest 15-m walking time in patients with knee osteoarthritis: a double-blind, sham-controlled, multi-site randomized trial. J Orthop Surg Res. 2023. PMC10666435
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本書の数値はすべて原著論文の報告値である。編者が計算・換算した値は載せていない。信頼区間・p値・効果量は原著の表記をそのまま用い、丸めていない。文献の版と収載状態(撤回を含む)は、書誌データベースの記録を直接確認したうえで記述している。第1版・2026年9月。