灸エビデンス・ライブラリ
Moxibustion in Obstetrics II — エビデンスと臨床判断・全11章

灸の臨床|産科② エビデンスと臨床判断

なぜ Cochrane は「中等度の確実性で有効」と言い、
西欧の無作為化比較試験は陰性が並ぶのか。

第1版 2026年8月 骨盤位 / 妊娠悪阻 / 分娩 / 介入の分解 / 用量ログ・質評価ログ

3分で要点だけ

本文で示した報告値のうち、この教材の骨格になる3点。

  1. Cochraneは中等度で有効、西欧のRCTは陰性が並ぶ分娩時の非頭位は RR 0.87(95%CI 0.78–0.99)。個別試験では陽性と陰性が並存する
  2. 非頭位は減るのに、帝王切開は変わらないRR 0.94(95%CI 0.83–1.05)、I² = 0%、中等度の確実性
  3. 分娩を目的とした灸の対照試験は見つからなかった「安産の灸」が指している内容を検証した試験に到達できていない

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序章

数字を、額面で受け取らないために

骨盤位に対する灸は、灸が単独の介入として国際誌の無作為化比較試験と Cochrane レビューを持つ、数少ない領域である。それゆえ本書は、臨床編のなかでもっとも数字が並ぶ巻になる。しかしその数字は、そのままでは使えない。序章では、本書に出てくるすべての数値に共通してかかる四つの割引を先に渡す。

この部を読むと効果量を読む前に、それを割り引く四つの理由を先に持てるようになる。

00この教材の数字を割り引く四つの理由

効果量を読む前に、それを割り引く理由を知っておく。順序を逆にすると、読者は最初に見た数字に固定される。

0-1 本書の到達目標

  1. この領域で灸が研究されている症状を説明できる。
  2. 研究の介入を分解し、灸単独の効果が判断できるかを見分けられる。
  3. エビデンスの確実性を語彙どおりに評価できる。
  4. 鍼の研究と灸の研究を区別できる。
  5. 研究結果を患者に過剰に伝えず、期待できること・できないことを説明できる。

0-2 ①巻との関係

姉妹巻との分担

骨盤位・つわり・分娩の病態・標準治療・レッドフラッグ・禁忌・安全性は姉妹巻『灸の臨床|産科① 病態と適応』が正本である。本書はそれを繰り返さない。疾患の説明が必要になった箇所では、①巻の該当章を指す。機序(熱がどこまで届くか、血流がどう変わるか)は基礎編14冊が正本である。

0-3 割引の四つの理由

表 0-1 産科領域の効果量を読むときの四つの割引
#割引本書での現れ方
1自然回転が大きい。骨盤位は放置しても相当数が頭位化する対照群で報告された頭位化率は 36%〜62.3% の幅にある。効果量はその上乗せ分でしかない(①巻 表1-1、第2章)
2「偽灸」が二種類ある。熱のある偽灸と、熱のない偽刺激では問うている質問が違うVas らは SP1 への灸、Coulon らは不活性レーザーを対照とした(第5章)
3「鍼灸」と書かれた試験が混ざる。鍼を併用した試験からは灸単独の効果を取り出せないNeri ら・Coulon らは鍼を併用している(第4章)
4地域で結論が割れる。アジアの試験とそれ以外で効果量が異なるメタ解析自身がサブグループとして報告している(第7章)

0-4 確実性の語彙

本書は Cochrane の語彙に従い、次の五つだけを使う。独自の言い換えはしない。

表 0-2 確実性の語彙と、対応する書き方
確実性本書での書き方
高い「〜である」「〜を示している」
中等度「おそらく〜する」「〜と考えてよい」
低い「〜と報告されている」「〜の可能性がある」
非常に低い「〜という報告があるが、確実性は非常に低い」
判断できる研究が見つからなかった「〜については、今回の調査範囲では見出せなかった」

0-5 灸の介入分類(①巻と共通)

表 0-3 灸の介入分類と、灸単独の効果を判断できるか
介入扱い灸単独の効果を判断できるか
直接灸(透熱灸・知熱灸)できる
間接灸(隔物灸)できる(介在物の作用は分離できない)
台座灸できる
温灸・棒灸できる
温灸器・電気温灸器灸系介入燃焼を伴わないものは灸の代理にならない
灸頭鍼鍼+灸できない
鍼+灸 併用複合介入できない
鍼のみ参考対象外(第III部で参考として扱う)
通常治療・無治療対照
偽灸対照
第I部

灸のエビデンス

第I部は本書の中核である。「何に効くか」ではなく「何に対して、どの程度の根拠があるか」を、研究一覧表の形で示す。表に載らなかった領域があることも、同じ重さで示す。

この部を読むと骨盤位・つわり・分娩それぞれに、どの程度の根拠があるのかを確実性の語彙で言えるようになる。

01全体像——何に、どの程度の根拠があるか

産科の三領域を一段落で言うなら、こうなる。骨盤位には Cochrane レビューがあり、中等度の確実性で分娩時の非頭位が減ると評価されている。つわりには灸を含む系統的レビューがあるが、灸を用いた試験は少数で、いずれも中国語圏の非盲検試験である。分娩には、灸の対照試験が見出せなかった。この段落の三つの文が、それぞれ第2章・第3章の内容になる。

1-1 骨盤位——Cochrane レビューの主要結果

2023年に更新された Cochrane レビューは、13試験・2,181 名の女性と児を対象としている。うち6試験が今回の更新で新たに加わった。多くの試験は無作為化の方法と割付の隠蔽に適切な手法を用いていた。徒手的介入であるため参加者と実施者の盲検化は困難だが、客観的なアウトカムを用いているため、盲検化の欠如が結果に影響した可能性は低いとレビューは評価している[1]

表 1-1 灸+通常ケア vs 通常ケア単独(Coyle ら 2023)
アウトカム試験数・nリスク比(95%CI)確実性
分娩時の非頭位7試験・1,152名0.87(0.78–0.99)38%中等度
外回転術(ECV)の必要性4試験・692名0.62(0.32–1.21)78%低い
帝王切開6試験・1,030名0.94(0.83–1.05)0%中等度
前期破水3試験・402名1.31(0.17–10.21)59%低い
オキシトシンの使用1試験・260名0.28(0.13–0.60)中等度
臍帯血 pH < 7.11試験・212名3.00(0.32–28.38)低い
有害事象1試験・122名
(介入 27/65・対照 0/57)
48.33(3.01–774.86)非常に低い
表 1-2 灸+通常ケア vs 偽灸+通常ケア(Coyle ら 2023)
アウトカム試験数・nリスク比(95%CI)確実性
分娩時の非頭位1試験・272名0.74(0.58–0.95)中等度
帝王切開1試験・272名0.84(0.68–1.04)中等度

偽灸との比較では、ECV の必要性・前期破水・オキシトシン使用・臍帯血 pH のいずれも報告されていない。有害事象を報告した1試験は、群別ではなく全体の数値として示していた[1]

1-2 レビュー著者の結論(原文の構造のまま)

著者らの結論

灸+通常ケアはおそらく分娩時の非頭位を減らす(中等度の確実性)。ECV の必要性については不確実である。1試験に基づく中等度の確実性のエビデンスは、灸+通常ケアがおそらく分娩前・分娩中のオキシトシン使用を減らすことを示している。ただし灸+通常ケアはおそらく帝王切開率をほとんど、あるいはまったく変えない。前期破水と臍帯血 pH < 7.1 への影響は不確実である。有害事象は、多くの試験で不十分にしか報告されていなかった。[1]

臨床への翻訳

表1-1でもっとも実務に効くのは、非頭位が減るのに帝王切開が減っていないという組み合わせである(RR 0.87 と RR 0.94)。患者が灸に期待しているのは多くの場合「帝王切開を避けること」だが、レビューが中等度の確実性で示しているのは「分娩時に頭位である割合が増えること」までである。この二つを同じものとして説明してはならない。

1-3 オキシトシンの数字の位置づけ

表1-1のオキシトシン使用(RR 0.28、95%CI 0.13–0.60、中等度の確実性)は、しばしば「灸が分娩を助ける根拠」として引かれる。しかしこれは骨盤位を対象とした1試験(260名)の副次アウトカムである[1]。分娩を目的として灸を行った試験の結果ではない。この区別は第3章で改めて扱う。

02骨盤位——研究一覧表

レビューの統合値だけを見ていると、個々の試験が何を比べたのかが見えなくなる。この章では、本書が原著(または英文抄録)に到達できた無作為化比較試験を、一覧表にして並べる。結論が割れていることが、表を見れば分かる。

2-1 研究一覧表

表 2-1 骨盤位に対する灸の無作為化比較試験(本書が原著または英文抄録に到達できたもの)
研究(国・年)介入比較n主要アウトカム結果有害事象の記載
Cardini & Weixin
(中国・1998)[2]
棒灸・BL67通常ケア(非盲検)260 第35週の頭位/分娩時の頭位 第35週 75.4%(98/130)対 47.7%(62/130)
RR 1.58(1.29–1.94)p < .001
分娩時 75.4%(98/130)対 62.3%(81/130)
RR 1.21(1.02–1.43)p = .02
抄録に記載なし
Neri ら
(イタリア・2004)[4]
鍼+灸・BL67 両側観察240(解析226) 分娩時の胎位 頭位 53.6% 対 36.7% p = 0.01
骨盤位を適応とした帝王切開 52.3% 対 66.7% p = 0.03
抄録に記載なし
Cardini ら
(イタリア・2005)[3]
棒灸・BL67観察(単盲検)123で中断 第35週の頭位 34%(22/65)対 36%(21/58)
RR 0.95(99%CI 0.59–1.5)
治療中断が多発したことが中断理由
Guittier ら
(スイス・2009)[5]
灸・BL67期待管理212 分娩時の頭位 回転 18% 対 16%
RR 1.12(0.62–2.03)
帝王切開 64% 対 58%
別報で母児に有意な副作用なしと報告[24]
Vas ら
(スペイン・2013)[6]
灸・BL673群:偽灸(SP1への灸)/通常ケア406 分娩時の頭位 58.1% 対 偽灸 43.4% RR 1.34(1.05–1.70)
58.1% 対 通常 44.8% RR 1.29(1.02–1.64)
NNT 8(95%CI 4–72)
治療中に重篤な有害事象なし
Coulon ら
(フランス・2014)[7]
灸頭鍼(鍼に炭化艾条で加熱)・BL67・6回不活性レーザー(プラセボ・単盲検)328 第37週2日の骨盤位の割合 72.0% 対 63.4%
RR 1.13(0.98–1.32)p = .10
有意差なし
抄録に記載なし
Bue & Lauszus
(デンマーク・2016)[8]
灸・毎日2週間無処置200 骨盤位の残存 RR 1.05(0.8–1.38)
初産 RR 1.17(0.77–1.76)
経産 RR 1.0(0.69–1.46)
有意差なし
抄録に記載なし
Do(Smith)ら
(豪州・2011)[9]
灸+通常ケア・10日間通常ケア20(実行可能性試験) 実行可能性(副次で分娩時の頭位) RR 5.0(0.7–35.5)
検出力不足。将来の試験に必要な例数を381名と推定
副作用の報告なし。灸群の児2名が新生児室に入院
Higashihara & Horiuchi
(日本・2021)[10]
有煙灸/無煙灸・BL67・20分・1日1〜2回・10〜14日対照(準実験デザイン・非無作為化60(各群20) 介入終了時の頭位 無煙灸 60.0% 対 対照 25.0%
RR 2.40(1.04–5.56)
有煙灸は有意差なし
分娩時には両群とも有意差なし
安全であり、周産期の罹病・死亡と関連しなかった

2-2 メタ解析

Cochrane レビューとは別に、2021年に台湾のグループによる系統的レビューとメタ解析が報告されている(16件の無作為化比較試験・2,555 名)。対照と比較して、灸は分娩時の頭位を有意に増加させた(RR 1.39、95%CI 1.21–1.58)。またサブグループ解析では、アジア人集団(RR 1.42、95%CI 1.21–1.67)のほうが非アジア人集団(RR 1.20、95%CI 1.01–1.43)より良好な結果を示した。灸に鍼を加えた場合の効果は相乗的であったと報告されているが、これは1件の無作為化比較試験に基づく(RR 1.53、95%CI 1.26–1.86)。鍼単独については、感度分析の後、対照との比較で結果が一貫しなかった[11]

本書が採用しなかった数値

このメタ解析については、全文ページに記載された下位集団ごとの試験数・参加者数・NNT・異質性指標(I²)と、PubMed 抄録の記載とのあいだに齟齬があった(灸+鍼の試験数が「2件」と「1件」で食い違う)。本書は抄録に明記された数値のみを採用し、それ以外は記載していない。

2-3 医療経済の報告

スペインのグループは、上記の臨床試験を基礎データとして意思決定分析モデルを構築し、費用対効果を検討している。基本解析では、灸の適用により非頭位での分娩が従来治療(膝胸位法)と比較して 8.92% 減少し、分娩1件あたり平均 107.11 ユーロの費用節減が得られたと報告されている。主たる節減要因は帝王切開の回避である[17]

読み方の注意

これはモデルによる推計であり、臨床試験の測定値ではない(階層としてはモデル研究)。また、Cochrane レビューが「帝王切開率はほとんど変わらない」と評価している(表1-1)ことと、この費用節減の前提は整合しない。どちらが正しいかを本書は判定しない。両方が報告されている、という事実を示す。

03つわりと分娩——そこに無い試験

この章は、表が短いことに意味がある。第2章の骨盤位の表と並べたとき、産科という一つの領域のなかで、研究の厚みがどれほど偏っているかが見える。

3-1 つわり・妊娠悪阻

妊娠中の悪心・嘔吐に対する鍼灸の系統的レビューとメタ解析(21件の無作為化比較試験・2,392 名)がある[12]。同レビューは、21試験のうち18試験が中国で実施され、豪州・クロアチア・英国が各1試験であったと記している。介入期間は4日から4週間で、多くは1〜2週間であった。対象は妊娠初期の悪心・嘔吐を呈する妊婦(平均年齢 28.56 歳、平均妊娠週数 8.76 週)である[12]

本書が注目するのは、著者ら自身の但し書きである。「灸の有効性を比較した研究の数は限られていた」——この一文が、この領域の現在地を最も正確に述べている[12]

表 3-1 つわりに対する灸の位置づけ(Hu ら 2024 の報告による)
項目報告内容
レビュー全体21試験・2,392名。うち18試験が中国で実施(豪州・クロアチア・英国が各1試験)
鍼灸全体 vs 対照悪心・嘔吐の軽減について RR 0.28(95%CI 0.21–0.37)
灸単独群(pure moxibustion)vs 無処置対照RR 0.21(95%CI 0.08–0.52)
鍼+灸 vs 対照RR 0.23(95%CI 0.14–0.38)
鍼 vs 偽鍼有意差なし(RR 0.34、95%CI 0.06–2.13)
著者らの但し書き「灸の有効性を比較した研究の数は限られていた」
重篤な有害事象鍼群と対照群で有意差なし(RR 0.77、95%CI 0.52–1.14)
出版バイアス無効率(ineffective rate)の比較において明らかな出版バイアスが認められた(p = 0.002)。一方、中医証候スコアの比較では有意な出版バイアスは認められなかった(p = 0.620)

この領域の試験で用いられているアウトカムには、中国語圏の臨床研究に特有の「総有効率」が含まれる。総有効率は、治癒・著効・有効・無効といった段階の上位いくつかを合算した複合指標であり、その内訳の定義は研究ごとに異なる。個々の試験の定義を確認せずに合算した値は、症状がどれだけ軽くなったかを示さない。

代表的な一次研究として、150例を鍼灸群・中薬群・西洋薬群の3群に分け、総有効率がそれぞれ 86.0%42.0%38.0% であったとする報告がある(中国語・非盲検)[13]。鍼灸群への介入は、中脘(CV 12)・内関(PC 6)・足三里(ST 36)・陰陵泉(SP 9)への刺鍼に、得気の後 10〜15 分の温和灸を加えるものであった[13]これは鍼と灸の複合介入であり、灸単独の効果を取り出せない(表0-3)。

臨床への翻訳

つわりについて患者に言えることは、骨盤位とは確実性の段が違う。「灸で悪心が軽くなったという報告はあるが、灸だけを取り出して調べた試験は少なく、いずれも盲検化されておらず、出版バイアスの検定が有意である」——ここまでが誠実に言える範囲である。加えて、①巻 第6章で述べたとおり、灸の煙と臭気は悪心を強めうる。つわりの患者に有煙灸を用いる判断は、この二つを併せて説明したうえで行う。

3-2 分娩

分娩の誘発、分娩所要時間、分娩痛のいずれかを主要アウトカムとして、灸を単独介入として検証した対照試験を、今回の調査範囲では見出せなかった。

この主張の根拠として、調査の過程で該当しうるものとして検出されたが除外した文献を挙げる。除外理由を示すことが、空白の主張の裏づけになる。

表 3-2 「分娩と灸」で検出されたが、本書が該当としなかった文献
文献内容除外の理由
Coyle ら 2023[1]オキシトシン使用 RR 0.28(1試験260名・中等度)骨盤位試験の副次アウトカムであり、分娩を目的とした試験ではない
Smith ら 2020[15]分娩痛に対する鍼・指圧の Cochrane レビュー(28試験3,960名)対象が鍼と指圧であり、灸ではない(第6章で参考として扱う)
中期中絶時の CV 4・CV 8 への灸(中国語)性器出血の持続日数などを検討分娩ではなく中期人工妊娠中絶の管理であり、本書の対象範囲外
妊娠後期ラットの子宮頸管熟化に関する電気鍼の研究(中国語)MMP-9・IL-8 の変化動物実験であり、かつ介入は電気鍼である
この空白の意味

「安産の灸」は日本の施術現場に古くからある言い方だが、その内容——分娩の進行を助ける、分娩痛を軽くする——を灸単独で検証した対照試験に、本書は到達できなかった。これは臨床編を通じて本書が示す最大の空白である。伝統的に行われてきたことと、効果が測られていることは、別の事実である。

第II部

介入を分解する

第2章の表を、もう一段細かく見る。試験に「moxibustion」と書いてあっても、実際に何をしたのかは試験ごとに違う。鍼が入っているか、対照に熱があるか——この二つで、その試験から取り出せる結論が変わる。

この部を読むと試験の介入に鍼が混じっていないかを1件ずつ判定し、偽灸が二種類あることを見分けられるようになる。

04この研究から灸単独の効果を判断できるか

表0-3の分類を、第2章の全試験に当てはめる。判定は「できる/できない」の二択であり、程度を付けない。

表 4-1 介入の分解と判定
研究介入の実体分類灸単独の効果を
判断できるか
Cardini & Weixin 1998[2]艾条(moxa roll)による BL67 の刺激温灸・棒灸できる
Neri ら 2004[4]BL67 両側への鍼と灸鍼+灸 併用できない
Cardini ら 2005[3]艾条(Artemisia vulgaris の棒)による BL67 の加熱温灸・棒灸できる
Guittier ら 2009[5]BL67 への灸(院内で週3回+自宅で毎日)できる
Vas ら 2013[6]BL67 への灸/SP1 への灸(偽)できる
Coulon ら 2014[7]鍼を炭化した艾条で加熱する手技(灸頭鍼)鍼+灸できない
Bue & Lauszus 2016[8]Artemisia vulgaris を含む棒の燃焼熱による刺激温灸・棒灸できる
Do(Smith)ら 2011[9]灸+通常ケアできる
Higashihara & Horiuchi 2021[10]有煙灸/無煙灸による BL67 の刺激できる(ただし非無作為化)
Zhang HH 2005[13](つわり)CV12・PC6・ST36・SP9 への刺鍼+得気後の温和灸鍼+灸 併用できない

4-1 この判定が結論を変える場所

第2章の表2-1で「有意差なし」となった二つの試験のうち、Coulon ら 2014 は灸頭鍼を用いている[7]。すなわち、この試験の陰性結果は「灸に効果がない」ことを示さない。示しているのは「BL67 への灸頭鍼を6回行っても、不活性レーザーと比べて第37週2日の骨盤位の割合に有意差がなかった」ことである。

同様に、陽性結果のうち Neri ら 2004 も鍼を併用している[4]。この試験の陽性結果も、灸単独の効果を示さない。

臨床への翻訳

陽性の試験にも陰性の試験にも、鍼を併用したものが混ざっている。したがって「有名な陰性試験があるから灸は効かない」も「陽性のRCTがあるから灸は効く」も、どちらも介入の分解を経ていない主張である。表4-1で「できる」と判定された試験だけを見ると、陽性(Cardini 1998、Vas 2013)と陰性(Cardini 2005、Guittier 2009、Bue 2016)が依然として並存する。この並存こそが、この領域の現在地である。

05偽灸は二種類ある

「偽灸対照」と一言でまとめられるが、本書が到達した二つの試験は、まったく違う対照を用いている。違いは対照に熱があるかどうかである。この差は、その試験が何を問うているかの差である。

5-1 二つの偽刺激

表 5-1 二種類の偽刺激と、それぞれが問うている質問
Vas ら 2013[6]Coulon ら 2014[7]
偽刺激の内容SP1(隠白)への灸=非特異的な経穴への灸不活性化したレーザー=作動しない機器
対照に熱があるかあるない
この試験が問うている質問「効果があるとして、それはBL67 という経穴に特異的か「効果があるとして、それは刺激そのものによるか、期待によるか
盲検の対象参加者は両介入について盲検化された単盲検
結果真の灸 58.1% 対 偽灸 43.4%(RR 1.34、1.05–1.70)有意72.0% 対 63.4%(RR 1.13、0.98–1.32、p = .10)有意差なし

5-2 どちらの設計にも固有の弱点がある

非特異的経穴への灸を対照にする場合
参加者の盲検化はしやすい。しかし、SP1 への灸が生理学的に不活性である保証はない。もし足趾への温熱刺激そのものに何らかの作用があるなら、この対照は「無処置」ではなく「弱い介入」になり、真の灸との差は過小評価される。
熱のない偽刺激を対照にする場合
介入の非特異的効果(期待・注目・通院)を分離できる。しかし、参加者は熱を感じないため、盲検が実際に成立していたかを確認する必要がある。Coulon らの試験は単盲検であり、実施者は割付を知りうる設計である。

Vas らの試験は、実施に先立って研究計画書が公表されている。同計画書は、参加者を両介入について盲検化すること、結果の解析を割付を知らない専門家が行うこと、そして盲検化の成否そのものを評価項目に含めることを明記していた[16]

臨床への翻訳

Cochrane レビューが「偽灸との比較でも、灸はおそらく分娩時の非頭位を減らす(RR 0.74、中等度の確実性)」と述べているとき、その根拠は1試験272名である(表1-2)。この1試験は Vas らの試験群を指しており、対照は「SP1 への灸」である。したがってこの結論が支持しているのは、「灸には期待効果を超える何かがあり、かつそれは BL67 という部位に依存する」という限定的な命題である。灸一般の効果ではない。

第III部

参考:鍼ではどうなのか

この部は短い。灸の位置づけを測るのに必要な比較だけを置き、それ以上は扱わない。本書は鍼の効果を解説しない。

この部を読むと鍼のデータが灸の何を教え、何を教えないのかを区別できるようになる。

06鍼のデータが灸に教えないこと

分娩の領域には、灸の試験がない代わりに鍼の Cochrane レビューがある。それを見ておくことには意味がある。ただし意味があるのは「灸には無い」ことを確認するためであって、鍼のデータを灸に流用するためではない。

6-1 分娩痛に対する鍼・指圧(Cochrane 2020)

Smith らのレビューは28試験・3,960 名を対象とし、うち13試験が鍼、15試験が指圧を扱っている。すべてのドメインで低リスクと判定された研究は一つもなかった[15]

表 6-1 鍼 vs 偽鍼(Smith ら 2020・分娩痛)
アウトカム試験数・n効果量(95%CI)確実性
疼痛強度(VAS)2試験・325名MD −4.42(−12.94 – 4.09)低い
疼痛緩和への満足度1試験・150名RR 2.38(1.78–3.19)中等度
薬物性鎮痛薬の使用2試験・261名RR 0.75(0.63–0.89)中等度

鍼と通常ケアの比較では、疼痛強度について不確実と評価されている(SMD −1.31、95%CI −2.14 – −0.49、4試験495名、I² = 93%、非常に低い確実性)。薬物性鎮痛薬の使用についても同様に不確実である(平均 RR 0.72、95%CI 0.60–0.85、6試験1,059名、I² = 70%、非常に低い確実性)[15]

この表は灸の効果を直接示さない

表6-1はのデータである。刺激の様式(機械刺激か温熱刺激か)、部位、施術者、盲検の設計のいずれも灸とは異なる。この数値を灸に読み替えることはできない。本書がこの表を置く理由は一つ——分娩の領域には鍼のデータが存在し、灸のデータが存在しないという非対称を、読者に見せるためである。

6-2 骨盤位における鍼

骨盤位に対する鍼単独については、前掲のメタ解析が「感度分析の後、対照との比較で結果が一貫しなかった」と報告している[11]。灸に鍼を加えた場合については、同メタ解析が1件の無作為化比較試験に基づいて相乗的であったと述べている(RR 1.53、95%CI 1.26–1.86)[11]1試験に基づく推定であり、これをもって併用が優れると結論することはできない。

第IV部

確実性と、分かっていないこと

ここまでの表を突き合わせると、一つの問いが残る。なぜ Cochrane は中等度の確実性で有効と評価し、西欧で行われた個別の無作為化比較試験は陰性が並ぶのか。第IV部はこの問いに正面から答え、そのうえで空白を列挙する。

この部を読むと結論が割れている理由を、集団・対照・アウトカムの差として説明できるようになる。

07なぜ結論が割れるのか

この章は本書でもっとも読者の判断を変える章である。結論を先に書く。割れているのは「灸が効くかどうか」ではなく、「どの集団で、どの対照と比べ、どのアウトカムを、いつ測ったか」である。

7-1 地域による差——メタ解析自身が報告している

前掲のメタ解析は、サブグループ解析としてアジア人集団と非アジア人集団を分けて報告している。アジア人集団 RR 1.42(95%CI 1.21–1.67)、非アジア人集団 RR 1.20(95%CI 1.01–1.43)である[11]

この差の解釈として考えられるものは複数ある。本書はいずれかを採らず、可能性として並べる。

  1. 集団の違い(体格、経産回数の分布、骨盤位の背景要因)。
  2. 施術条件の違い(艾の質、施灸時間、実施場所、指導の密度)。
  3. 対照の違い(通常ケアの内容が国によって異なる。ECV の実施率が違えば、対照群の頭位化率も変わる)。
  4. 研究の質と報告バイアスの違い。

7-2 対照群の頭位化率が違う

第2章の表と①巻 表1-1を並べると、対照群そのものが試験ごとに大きく違うことが分かる。

表 7-1 対照群の頭位化率のばらつき
研究対照の内容対照群の頭位(時点)
Cardini & Weixin 1998[2]通常ケア。対照群130名中24名が ECV を受けた62.3%(分娩時)
Cardini ら 2005[3]観察36%(第35週)
Vas ら 2013[6]通常ケアのみ44.8%(正期産)
Coulon ら 2014[7]不活性レーザー骨盤位 63.4%(第37週2日)
(原著は骨盤位の割合のみを報告)

Cardini & Weixin の試験では、対照群の 24 名が ECV を受けている(介入群では1名)[2]対照群のほうが多く ECV を受けているにもかかわらず、分娩時の頭位は介入群のほうが多かったというのが、この試験の報告内容である。この構造を知らずに 75.4% 対 62.3% という数字だけを引くと、試験の意味が変わってしまう。

7-3 中断した試験が語ること

Cardini らの2005年のイタリア試験は、計画症例数の 46%(123名)で中断された。中間モニタリングで治療の中断が多いことが判明したためである。著者らの結論は、有効性についても無効性についても支持しない、というものであり、加えて「異なる文化的文脈から移植された伝統的治療を評価することの方法論的な問題」を指摘している[3]

この指摘の重み

1998年の中国の試験と2005年のイタリアの試験は、同じ第一著者による。同じ研究者が、中国では陽性、イタリアでは実施困難という結果を得た。この対比は、集団の生物学的差異よりも、治療の実行可能性——毎日20分前後の施灸を2週間続けられるかどうか——の差を示唆する。

7-4 Cochrane が中等度としている理由

Cochrane レビューは、盲検化の欠如について「徒手的介入では参加者と実施者の盲検化は困難だが、客観的アウトカム(胎位)を用いているため、盲検化の欠如が結果に影響した可能性は低い」と評価している。また多くの試験で追跡不能が少なく、無作為化の方法と割付の隠蔽も適切であったと述べている。一方で研究計画書が入手できた試験は少なく、早期中止された1試験は「その他のバイアス」で高リスクと判定された[1]

すなわち Cochrane の「中等度」は、個々の試験の質が高いからではなく、アウトカムが客観的であるために盲検化の弱点が致命的にならない、という論理で成り立っている。

臨床への翻訳

患者に「Cochrane のレビューでは効果があるとされています」と伝えるのは、正確ではあるが不十分である。正確かつ十分な伝え方は次のようになる。「複数の試験をまとめると、灸をした群のほうが分娩時に頭位である割合がおそらく高い、と評価されています。ただし個別の試験では、効果があったものと、なかったものが両方あります。そして帝王切開になる割合は、まとめて見ても、ほとんど変わっていません」——この三文が、表1-1と表2-1の内容である。

08研究の限界と空白リスト

限界を「今後の研究が待たれる」で締めない。次の研究者が明日着手できる粒度で、何が無いのかを書く。

8-1 研究の限界(本書が引用した試験群について)

表 8-1 限界の所在
項目現状
灸種棒灸(艾条)が大半。透熱灸・台座灸を用いた骨盤位の対照試験に到達できなかった
用量施灸時間・回数・期間が試験ごとに異なる(表11-2)。用量を変えて比較した試験に到達できなかった
経穴ほぼ全試験が BL67。経穴特異性を検証したのは Vas ら(SP1 対照)の1試験のみ[6]
対照偽灸を用いた試験は Vas ら・Coulon らの2件のみ。他は通常ケアまたは観察
サンプルサイズ最大で 406名[6]。実行可能性試験は将来の試験に 381名 が必要と推定した[9]
長期追跡アウトカムは分娩時まで。児の長期予後を追跡した試験に到達できなかった
有害事象の報告Cochrane レビューが「多くの試験で不十分にしか報告されていない」と明記[1]。再解析可能な形で報告したのは1試験のみ

8-2 空白リスト

表 8-2 この領域の空白(2026年8月時点)
#空白影響
1分娩の誘発・所要時間・分娩痛を主要アウトカムとした灸単独の対照試験を見出せなかった「安産の灸」に効果の根拠がない(第3章)
2妊娠悪阻に対して灸単独を検証し、かつ盲検化された試験を見出せなかった(原著自身が灸を比較した研究の数は限られていたと記す)つわりへの言明が「低い確実性」を超えられない(第3章)
3用量反応関係(時間・回数・期間)を検証した試験を見出せなかった何壮・何分・何日が適切かに根拠がない(表11-2)
4日本で一般的な台座灸・透熱灸を用いた骨盤位の対照試験を見出せなかった日本の臨床に、日本の灸種での直接の根拠がない
5経穴特異性を検証した試験が1件しかない[6]「至陰でなければならない」の根拠が1試験に依存する
6帝王切開率が動かない理由を検討した研究を見出せなかった非頭位が減っても帝王切開が減らない機序が不明のまま(表1-1)
7灸の実施を「セルフか施術者施行か」で分けて比較した試験を見出せなかった指導して渡すべきか、通ってもらうべきかに根拠がない

空白6は、本書が到達した表のなかで最も奇妙な組み合わせから生じている。分娩時の非頭位は減る(RR 0.87、中等度)のに、帝王切開は変わらない(RR 0.94、中等度、I² = 0%)[1]。頭位で分娩に至る妊婦が増えているなら、帝王切開は減るはずである。それが減っていない理由——たとえば骨盤位以外の適応での帝王切開が増えているのか、試験間で帝王切開の適応が違うのか——を検討した研究に、本書は到達できなかった。

第V部

臨床判断と患者への説明

ここまでの数値を、明日の判断と、患者に話す言葉に変換する。

この部を読むと研究結果を過剰に伝えず、期待できること・できないことを6項目で説明できるようになる。

09判断フロー

判断は三段階で行う。①行ってよい状態か(①巻の担当)②行うとして、いつか ③何をどこまで説明するか。この章は②と③を扱う。

9-1 週数による判断

表 9-1 週数と、本書が根拠を示せる範囲
妊娠週数研究の対象になっているか判断
28週未満本書が到達した骨盤位の試験の対象外骨盤位を理由とした施術の根拠はない。①巻 第1章のとおり、この時期の骨盤位はありふれた所見である
28〜32週メタ解析の対象週数の下限に含まれる[11]が、個別試験の多くは33週以降根拠は弱い。①巻 表8-2 の段階4として、状態を確認して判断する
33〜35週本書が到達した試験の大半がこの週数を対象としている[2][3][4][6][7][10]研究条件と一致する。RCOG も33〜35週での検討に言及している[21]
34〜36.5週Guittier ら(34〜36週)[5]、Do ら(34〜36.5週)[9]研究の対象になっている。ただし ECV の予定を妨げない
36週以降ECV の実施時期と重なるECV を優先する[21]。産科の方針を確認する

9-2 中止の判断(効果の側から)

安全性を理由とする中止は①巻 第9章に定めた。ここでは効果の側から、いつまで続けるかを考える。本書が到達した試験の介入期間は、7日から2週間、あるいは6回である(表11-2)。これを超えて継続した場合に何が起こるかを検証した試験には到達できなかった。したがって、試験で用いられた期間を超えて漫然と継続することに、根拠はない。

9-3 説明の三段構え

臨床への翻訳

説明は確実性の順に段を分ける。①中等度の確実性で言えること=分娩時に頭位である割合がおそらく増える/帝王切開の割合はおそらくほとんど変わらない。②低い確実性で言えること=ECV が必要になる割合への影響は不確実である。③言えないこと=この人に効くかどうか、分娩が楽になるかどうか、つわりに確実に効くかどうか。この三段を混ぜて話すと、患者は①と③を同じ強さで受け取る。

10公表症例集積と、患者説明の型

本章の症例はすべて公表文献からの引用である。架空の症例は作らない。なお、骨盤位・つわりに対する灸について、個別の症例報告(single case report)で本書が到達できたのは有害事象の報告のみであり、それは①巻 第10章に収めた。本章では公表された症例集積を扱う。

10-1 症例集積1——外来を含む371名

出典:田中恵ほか. 骨盤位妊婦に対する鍼灸治療の矯正率と安全性. 全日本鍼灸学会雑誌. 2021;71(2):86-94.[18]

記載のまま。対象は当院の産婦人科で骨盤位と診断され、治療を受療した妊婦 371 名。骨盤位矯正率は 72.2%(268例/371例)。入院中の切迫早産妊婦では矯正率が 28.6%(6例/21例)と低かった。施術回数あたりの有害事象発生頻度は 1.1%(21件/1,916回)。結論として、左側臥位が安全な施術姿位と考えられ、産科医との十分な連携が必要であるとされた[18]

ここで問い

矯正率 72.2% という数字を、患者に「7割以上が治ります」と伝えてよいか。

答え。伝えてはならない。この報告は対照群を持たない単群の集計である。①巻 表1-1が示すとおり、同時期の骨盤位妊婦は、試験の対照群で報告された頭位化率が 36%〜62.3% の幅にある。72.2% という数字は、自然回転を含んだ全体の頭位化率であって、灸による上乗せ分ではない。上乗せ分を推定するには対照群が要る。

10-2 症例集積2——入院中の切迫早産妊婦23名

出典:武田真輝ほか. 骨盤位に対する鍼灸治療の安全性. 全日本鍼灸学会雑誌. 2024;74(2):93-100.[19]

記載のまま。対象は入院中の切迫早産妊婦 23 名。全例が標準的な切迫早産の管理を受けていた。鍼灸の施術回数は一人あたり 7 回(中央値)、総のべ施術回数は 157 回。頭位に矯正された率は 39.1%(9例/23例)。鍼灸治療による有害事象は 2 件(Grade 1)、施術回数あたり 1.3%(2件/157回)。鍼灸治療後24時間以内に子宮収縮回数の有意な増加は認めず、分娩までに胎児の状態が non-reactive と評価された例はなかった[19]

この症例集積が示すこと。高リスク集団では矯正率が低い(39.1%)。これは症例集積1の入院中サブグループ(28.6%)とも方向が一致する[18]示さないこと。灸の効果。対照群がない。

10-3 症例集積3——病鍼連携下の188例

出典:畑瀬理惠子ほか. 骨盤位矯正を目的に実践された病鍼連携の成果. 日本東洋医学系物理療法学会誌. 2020;45(2):33-40.[20]

記載のまま。2009年2月から2010年12月までの23か月間に、当院で妊娠28週以降の骨盤位矯正を目的として鍼灸治療を含む施術介入を行った 188 例(年齢 32.2 ± 3.9 歳、範囲22〜45歳)を調査対象とした。平均治療回数は 1.5 ± 0.9 回(範囲1〜6回)。骨盤位矯正率の年別内訳は2009年 80.6%(施術総数72例、矯正数58例)、2010年 97.7%(施術総数133例、矯正数130例)で、全年では 91.7% であった。病鍼連携あり矯正群では病鍼連携なし矯正群に比べ、骨盤位診断妊娠週数(p = 0.001)・初診時妊娠週数(p < 0.001)・治療開始期間(p < 0.001)が有意に短縮された[20]

校閲時に確認した内部不整合

年別内訳の施術総数(72例+133例=205 例)は、調査対象として示された 188 例と一致しない。本書は原著の記載どおりに数値を示し、この不一致を解消するための計算を行っていない。読者が原著に当たる際の手がかりとして、ここに記す。

この数値の読み方

91.7% という矯正率は、本書が引用したどの無作為化比較試験の介入群よりも高い。これは灸が優れていることを示さない。対照群がなく、平均治療回数が 1.5 回であることは、受療した時点ですでに頭位化しやすい集団が集まっていた可能性を示す。同報告自身が示しているのは、連携によって患者がより早い週数で来院したことである。早い週数ほど自然回転の余地が大きい(①巻 第1章)。

10-4 患者説明テンプレート(6項目)

次の6項目を、順序どおりに伝える。順序を変えると、患者が受け取る重みが変わる。

表 10-1 患者説明の6項目
#項目伝える内容(本書の根拠)
1自然経過この時期の逆子は、何もしなくても相当数が頭位になる。試験の対照群で報告された頭位化率は 36%〜62.3% の幅にある(①巻 表1-1)
2研究で言えること複数の試験をまとめると、灸をした群のほうが分娩時に頭位である割合がおそらく高い(RR 0.87、中等度)[1]
3言えないこと帝王切開になる割合は、まとめて見てもほとんど変わっていない(RR 0.94、中等度)[1]。個別の試験では効果があったものとなかったものが両方ある(表2-1)
4標準治療を妨げないこと外回転術や産科の方針より灸を優先しない[21]。妊婦健診は必ず受ける
5害の可能性と中止基準悪心・臭気・腹痛・子宮収縮が有害事象として報告されている[1]。①巻 表9-2 の受診勧奨の閾値を渡す
6やめどき試験で用いられた期間は7日〜2週間または6回である(表11-2)。それを超えて続ける根拠はない
臨床への翻訳

項目1を最初に置くことが、この型の要点である。自然経過を先に伝えておくと、頭位になったときに施術者が手柄を主張しなくて済み、ならなかったときに患者が自分を責めなくて済む。順序を逆にして「灸には効果があります」から始めると、この二つの逃げ道が両方ふさがる。

巻末

現在地・用量ログ・質評価ログ

この巻で扱った試験を、後続の教材が束ねられる形で残す。用量ログは臨床編の用量論へ、質評価ログは臨床試験の読み方へ、それぞれ引き渡す原資料である。

この部を読むと用量と研究の質を表の形で残し、後続の教材へ引き渡せる状態にできる。

11現在地・用量ログ・質評価ログ

三枚の表で本書を閉じる。現在地の表は患者説明の土台に、用量ログと質評価ログは後続の教材の材料になる。

11-1 この領域の現在地

表 11-1 産科三領域の現在地(2026年8月時点)
領域・アウトカム確実性試験数・総症例数最大の空白(1行)
骨盤位|分娩時の非頭位(vs 通常ケア)中等度7試験・1,152名[1]効果が自然回転の上乗せ分としてどれだけかを、個別症例で判定する方法がない
骨盤位|分娩時の非頭位(vs 偽灸)中等度1試験・272名[1]経穴特異性を検証した試験が事実上この1件しかない
骨盤位|帝王切開中等度(ほとんど差がない)6試験・1,030名[1]非頭位が減るのに帝王切開が減らない理由が検討されていない
骨盤位|ECV の必要性低い4試験・692名[1]試験間の異質性が大きい(I² = 78%)
骨盤位|有害事象非常に低い1試験・122名[1]多くの試験で有害事象が不十分にしか報告されていない
つわり|悪心・嘔吐低いレビュー全体21試験2,392名
(うち18試験が中国)[12]
原著自身が「灸の有効性を比較した研究の数は限られていた」と記す。無効率の比較で出版バイアスが有意(p = 0.002)
分娩|誘発・所要時間・分娩痛判断できる研究が見つからなかった0試験灸単独の対照試験が存在しない

11-2 用量ログ

後続の教材(臨床編の用量論)の原資料として、引用した各試験の投与条件を残す。抄録に記載がない項目は「記載なし」とし、推測で埋めない。

表 11-2 用量ログ——引用した試験の灸種・部位・時間・頻度・期間
研究灸種部位1回の時間頻度期間・回数開始週数
Cardini & Weixin 1998[2]艾条(棒灸)BL67記載なし記載なし7日間。骨盤位が持続すればさらに7日間第33週
Neri ら 2004[4]鍼+灸BL67 両側記載なし記載なし記載なし33〜35週
Cardini ら 2005[3]艾条(Artemisia vulgaris の棒)BL67記載なし記載なし1〜2週間32〜33週+3日
Guittier ら 2008(副次報告)[24]BL6720分隔日最大9回。頭位化を確認したら中止34〜36週
Guittier ら 2009[5]BL67記載なし院内で週3回+自宅で毎日2週間34〜36週
Vas ら 2013[6]BL67(偽群は SP1)記載なし記載なし記載なし33〜35週
Coulon ら 2014[7]灸頭鍼(鍼を炭化艾条で加熱)BL67記載なし記載なし6回33週4日〜35週4日
Bue & Lauszus 2016[8]艾(Artemisia vulgaris)の棒記載なし(BL67)記載なし毎日2週間(試験期間は平均16日)第33週
Do(Smith)ら 2011[9]記載なし記載なし記載なし10日間34〜36.5週
Higashihara & Horiuchi 2021[10]有煙灸/無煙灸BL6720分1日1〜2回10〜14日間33〜35週
Liao ら 2021(メタ解析の記述)[11]灸・鍼BL67記載なし記載なし記載なし抄録に記載なし
Zhang HH 2005(つわり)[13]刺鍼後の温和灸CV12・PC6・ST36・SP910〜15分記載なし記載なし
武田ら 2024[19]鍼灸記載なし記載なし記載なし一人あたり中央値 7回—(入院中の切迫早産)
畑瀬ら 2020[20]鍼灸治療を含む施術介入記載なし記載なし記載なし平均 1.5 ± 0.9 回(範囲1〜6回)妊娠28週以降
用量ログから読めること

「1回の時間」の欄で数値が入っているのは 3件だけである。「頻度」も「期間」も試験ごとに違い、そろっていない。この領域には、用量を変えて比較した試験がない。臨床で用いられている壮数・分数は、試験の再現ではなく経験知である。

11-3 質評価ログ

表 11-3 質評価ログ——対照・盲検・登録・報告バイアスの疑い
研究対照の種類盲検登録報告バイアス等の疑い
Cardini & Weixin 1998[2]通常ケア(ECV 可)非盲検(open)記載なし(1998年)対照群24名が ECV を受けた。中国の2施設
Neri ら 2004[4]観察記載なし記載なし鍼を併用。14例が脱落
Cardini ら 2005[3]観察単盲検記載なし計画症例数の46%で中断。Cochrane が「その他のバイアス」高リスクと判定[1]
Guittier ら 2009[5]期待管理記載なしNCT00890474初産婦が灸群に偏った(著者が調整解析を実施)
Vas ら 2013[6]偽灸(SP1)+通常ケア参加者盲検・評価者盲検ISRCTN10634508計画書を事前公表[16]。盲検化の成否を評価項目に含む
Coulon ら 2014[7]不活性レーザー(プラセボ)単盲検NCT01487590鍼を併用(灸頭鍼)
Bue & Lauszus 2016[8]無処置記載なしNCT02251886初産・経産で層別無作為化
Do(Smith)ら 2011[9]通常ケア記載なしACTRN12609000985280n = 20 で検出力不足。著者が結果の慎重な解釈を求めている
Higashihara & Horiuchi 2021[10]対照(3群)記載なし記載なし準実験デザイン・非無作為化。各群20名
Liao ら 2021[11]—(メタ解析)記載なし全文と抄録で下位集団の試験数に齟齬(第2章)
Hu ら 2024[12]—(メタ解析)記載なし出版バイアスの検定が有意(p = 0.002)。I² > 50% の比較あり
Zhang HH 2005[13]中薬・西洋薬記載なし記載なし中国語・非盲検。アウトカムが「総有効率」
田中ら 2021[18]/武田ら 2024[19]/畑瀬ら 2020[20]対照群なし症例集積。効果の推定には用いられない。畑瀬らの介入は「鍼灸治療を含む施術介入」であり灸単独ではない。同報告は年別内訳の施術総数と対象数が一致しない
臨床への翻訳

表11-3で登録番号が記載されている試験は5件である。そのうち事前に計画書を公表しているのは1件[16]。この列を見ることは、効果量を見ることと同じくらい実務的である。登録のない試験の陽性結果は、報告バイアスの可能性を割り引いて読む。それは試験を否定することではなく、確実性の段を下げるということである。

演習

理解度チェック

本書の内容から7問。選択するとその場で正誤と解説が出ます。設問はすべて本文に記載した報告値・記述に対応しており、各問には該当章へのリンクを付けました。自己確認のための演習であり、資格や技能を証明するものではありません。

第I部灸のエビデンス3問
Q01 出典:第1章

産科の三領域のうち、灸のエビデンスがもっとも厚いのはどれか。

Q02 出典:第1章

骨盤位に対する灸(通常ケアへの追加)について、Cochrane レビューの評価に合うのはどれか。

Q03 出典:第3章

分娩(誘発・所要時間・分娩痛)に対する灸について、正しいのはどれか。

第II部介入を分解する2問
Q04 出典:第4章

「BL67 への鍼と灸を併用した」試験から、灸単独の効果を判断できるか。

Q05 出典:第5章

偽灸(sham)には熱のあるものと熱のないものがある。この違いは何の違いか。

第IV部・第V部・巻末確実性・判断・空白2問
Q06 出典:第9章

骨盤位に対する灸を検討する妊娠週数として、研究条件ともっとも一致するのはどれか。

Q07 出典:第10章

日本の症例集積が報告した矯正率(72.2% など)を患者に伝えるとき、必ず添えるべき但し書きはどれか。

解答ずみ 0 / 7
付録

引用文献

本書の記述はすべて以下の一次・二次資料に基づく。本文に到達できなかった資料はその旨を明記し、数値を引用していない。

  1. Coyle ME, Smith C, Peat B. Cephalic version by moxibustion for breech presentation. Cochrane Database Syst Rev. 2023;5(5):CD003928. PMC10167788
  2. Cardini F, Weixin H. Moxibustion for correction of breech presentation: a randomized controlled trial. JAMA. 1998;280(18):1580-1584. PMID 9820259
  3. Cardini F, Lombardo P, Regalia AL, et al. A randomised controlled trial of moxibustion for breech presentation. BJOG. 2005;112(6):743-747. PMID 15924530
  4. Neri I, Airola G, Contu G, Allais G, Facchinetti F, Benedetto C. Acupuncture plus moxibustion to resolve breech presentation: a randomized controlled study. J Matern Fetal Neonatal Med. 2004;15(4):247-252. PMID 15280133
  5. Guittier MJ, Pichon M, Dong H, Irion O, Boulvain M. Moxibustion for breech version: a randomized controlled trial. Obstet Gynecol. 2009;114(5):1034-1040. PMID 20168104
  6. Vas J, Aranda-Regules JM, Modesto M, et al. Using moxibustion in primary healthcare to correct non-vertex presentation: a multicentre randomised controlled trial. Acupunct Med. 2013;31(1):31-38. PMID 23249535
  7. Coulon C, Poleszczuk M, Paty-Montaigne MH, et al. Version of breech fetuses by moxibustion with acupuncture: a randomized controlled trial. Obstet Gynecol. 2014;124(1):32-39. PMID 24901279
  8. Bue L, Lauszus FF. Moxibustion did not have an effect in a randomised clinical trial for version of breech position. Dan Med J. 2016;63(2):A5199. PMID 26836801
  9. Do CK, Smith CA, Dahlen H, Bisits A, Schmied V. Moxibustion for cephalic version: a feasibility randomised controlled trial. BMC Complement Altern Med. 2011;11:81. PMC3192686
  10. Higashihara A, Horiuchi S. Smoke or smokeless moxibustion treatment for breech presentation: A three-arm pilot trial. Jpn J Nurs Sci. 2021;18(4):e12426. PMC8518843
  11. Liao JA, Shao SC, Chang CT, et al. Correction of breech presentation with moxibustion and acupuncture: A systematic review and meta-analysis. Healthcare (Basel). 2021;9(6):619. PMID 34067379
  12. Hu Y, Yang Q, Hu X. The efficacy and safety of acupuncture and moxibustion for the management of nausea and vomiting in pregnant women: A systematic review and meta-analysis. Heliyon. 2024;10(2):e24439. PMC10828706
  13. Zhang HH. [Observation on therapeutic effect of acupuncture and moxibustion on hyperemesis gravidarum]. Zhongguo Zhen Jiu. 2005;25(7):469-470.(中国語。本書は英文抄録から引用した) PMID 16309132
  14. Mao ZN, Liang CE. [Observation on therapeutic effect of acupuncture on hyperemesis gravidarum]. Zhongguo Zhen Jiu. 2009;29(12):973-976.(中国語。介入は鍼のみであり、本書は灸の根拠として用いていない) PMID 20088416
  15. Smith CA, Collins CT, Levett KM, et al. Acupuncture or acupressure for pain management during labour. Cochrane Database Syst Rev. 2020;2(2):CD009232. PMID 32032444
  16. Vas J, Aranda JM, Barón M, et al. Correcting non cephalic presentation with moxibustion: study protocol for a multi-centre randomised controlled trial in general practice. BMC Complement Altern Med. 2008;8:22. PMC2412837
  17. García-Mochón L, Martín JJ, Aranda-Regules JM, Rivas-Ruiz F, Vas J. Cost effectiveness of using moxibustion to correct non-vertex presentation. Acupunct Med. 2015;33(2):136-141. PMID 25669428
  18. 田中恵, 武田真輝, 小野雅代, 種田遥美, 古谷陽一. 骨盤位妊婦に対する鍼灸治療の矯正率と安全性. 全日本鍼灸学会雑誌. 2021;71(2):86-94. doi:10.3777/jjsam.71.86
  19. 武田真輝, 小野雅代, 林佳子, 梶原龍之介, 古谷陽一. 骨盤位に対する鍼灸治療の安全性. 全日本鍼灸学会雑誌. 2024;74(2):93-100. doi:10.3777/jjsam.74.93
  20. 畑瀬理惠子, 糸井信人, 長谷川尚哉, 林正敏. 骨盤位矯正を目的に実践された病鍼連携の成果. 日本東洋医学系物理療法学会誌. 2020;45(2):33-40. doi:10.32255/jjsop.45.2_33
  21. Royal College of Obstetricians and Gynaecologists. External Cephalic Version and Reducing the Incidence of Term Breech Presentation. Green-top Guideline No. 20a. 2017. rcog.org.uk
  22. Cluver C, Hofmeyr GJ, Gyte GM, Sinclair M. Interventions for helping to turn term breech babies to head first presentation when using external cephalic version. Cochrane Database Syst Rev. 2012;1:CD000184. PMID 22258940
  23. Zhou Z, Wu J, Zhang G, Yang J. Spontaneous cephalic version and risk factors for persistent breech presentation: a longitudinal retrospective cohort study. J Matern Fetal Neonatal Med. 2022;35(25):9452-9459. PMID 35236215
  24. Guittier MJ, Klein TJ, Dong H, Andreoli N, Irion O, Boulvain M. Side-effects of moxibustion for cephalic version of breech presentation. J Altern Complement Med. 2008;14(10):1231-1233. PMID 19040374

灸の臨床|産科② エビデンスと臨床判断 第1版 2026年8月24日発行
発行:合同会社YOMOGI BASE(灸エビデンス・ライブラリ)

本書の位置づけ。本書は臨床編の第2冊であり、「なぜ Cochrane は中等度の確実性で有効と評価し、西欧の無作為化比較試験は陰性が並ぶのか」という一つの問いに答えるために編んだ教材である。骨盤位・つわり・分娩の病態、標準治療、レッドフラッグ、禁忌、安全性は姉妹巻『灸の臨床|産科① 病態と適応』が正本であり、本書は繰り返さない。機序は基礎編14冊が正本である。

数値の出所方針。本書に記載した数値は、すべて一次文献に記載された報告値をそのまま引用したものである。編者が計算・推定・丸めた値は含まない。信頼区間・p値は原著の表記どおりに記した(たとえば文献8のリスク比は原著の表記に従い「1.0」と記した)。原著の抄録に記載のない投与条件は、表11-2において「記載なし」と明示し、推測で埋めていない。本書には図を掲載していない。

採用しなかった数値について。校閲の過程で、二つの文献について採用を見送った数値がある。文献11(Liao ら 2021)については、全文ページに記載された下位集団ごとの試験数・参加者数・NNT・異質性指標と、PubMed 抄録の記載とのあいだに齟齬を認めた(灸+鍼の試験数が「2件」と「1件」で食い違う)。本書は抄録に明記された数値のみを採用し、それ以外は記載していない。この判断は第2章の本文にも明記した。文献12(Hu ら 2024)については、当初「灸を用いた試験は4件」と記していたが、抄録にも全文にもその件数を明示した記載を確認できなかったため削除し、原著が明記している「灸の有効性を比較した研究の数は限られていた」という記述と、21試験中18試験が中国で実施されたという実数に置き換えた。また出版バイアスについては、原著が「無効率の比較において」と対象を限定していることに合わせ、中医証候スコアでは有意なバイアスが認められなかった(p = 0.620)ことを併記した。

介入の分解について。本書は引用したすべての臨床試験について、灸単独の効果を判断できるかを表4-1で判定した。鍼を併用した試験(文献4・文献7・文献13)については、陽性・陰性のいずれの結果も灸単独の効果を示さないことを本文中に明記している。

症例の扱い。本書に掲載した症例はすべて公表文献からの引用であり、架空の症例は含まない。本書が扱ったのは症例集積3件(文献18・19・20)であり、いずれも対照群を持たないため効果の推定には用いていない。個別の症例報告で本書が到達できたのは有害事象の報告のみであり、それは姉妹巻①の第10章に収めた。

調査範囲。英語・日本語・中国語圏を対象に25クエリの検索を行い、一次・二次資料25件に到達したうえで、本書に必要な24件を採用した(2026年8月24日時点)。到達できなかった数値は記載していない。

本書の限界。本書が引用できた骨盤位の無作為化比較試験のうち、偽刺激を対照としたものは2件のみであり、その2件は対照の性質(熱の有無)が異なる。灸単独で、かつ偽灸対照で、かつ登録済みの試験は事実上1件である(文献6)。そして本書最大の空白として、分娩の誘発・所要時間・分娩痛を主要アウトカムとした灸単独の対照試験に到達できなかった。空白の一覧は第8章の表8-2に、確実性の一覧は第11章の表11-1に掲げた。

後続の教材への引き渡し。第11章の表11-2(用量ログ)と表11-3(質評価ログ)は、臨床編の総論——用量論および臨床試験の読み方——の原資料として作成した。これらの表は各領域の教材で積み上げられる。

本書が書かないこと。本書は疾患の解説をしない。鍼の効果も解説しない(第III部で参考として必要最小限を扱った)。経穴の選定・壮数・施術手技の指導も行わない。示したのは、研究から何がどこまで言えるかと、それを患者にどう伝えるかである。

発行と利益相反。本書の発行者は合同会社YOMOGI BASEである。同社はよもぎ・お灸に関連する商品を扱う事業者であり、この利害関係を開示したうえで、本書では特定の商品・サービス・銘柄に一切言及せず、効能をうたわない編集方針を採っている。効果を扱う教材において、この開示はとりわけ重要である。文献の選定・数値の引用・空白の明示は、事業上の利害と独立して行った。自社および自社関係者による発信は、査読の有無にかかわらず出典として用いない。

ご利用にあたって。本書は教育・研究目的の学術情報であり、個々の患者に対する診断・治療方針を示すものではない。臨床判断は、施術者自身の責任において、患者の状態と関連法規に基づいて行われたい。妊娠の管理と分娩の取り扱いは医師・助産師の管轄である。

改版履歴。2026年8月24日 第1版発行。