灸エビデンス・ライブラリ
Start Here — お灸の基礎・全9章

お灸の基礎

お灸のことを、もっとちゃんと知りたい方へ。
七つの問いを順にたどると、既刊8冊の地図ができる。

第1版 2026年8月 お灸とは何か / 熱の受け取られ方 / 神経 / 痛み / 臨床エビデンス / 空白
序章

はじめての方へ

本ライブラリの既刊8冊は、それぞれ一つの問いを深く掘っている。本書はその手前に置く入口である。「お灸ってそもそも何か」から「まだ分かっていないことは何か」まで、七つの問いに順番に答える。新しい数値は一つも足していない。ここに出てくる数値はすべて既刊に掲載済みの原著報告値であり、各節の末尾から、その数値を詳しく扱っている巻へ直接飛べるようにした。

00この教材の読み方と、数値の読み方

お灸について書かれたものを読むとき、最初に確認すべきは効果ではない。どの灸を、どこで測ったかである。ここを飛ばすと、同じ「お灸」について何度でも矛盾した数字を集めることになる。本書はその確認の仕方を先に渡す。

0-1 この教材が答える七つの問い

  1. お灸ってそもそも何?(第1章)
  2. お灸は体に何を起こす?(第2章)
  3. 熱は皮膚でどう感じられる?(第3章)
  4. 神経はどう反応する?(第4章)
  5. 痛みにはどう関係する?(第5章)
  6. 研究ではどこまで分かっている?(第6章)
  7. まだ分かっていないことは?(第7章)

この順番には理由がある。物として何であるかを決めないまま体の反応を語ると、灸種の違いが刺激量の違いにすり替わる。体の反応を決めないまま臨床効果を語ると、効いた理由がすべて同じ機序に見えてしまう。本書は下から積む。

0-2 同じ灸でも、測る場所が違えば数字は変わる

先に一つだけ例を挙げておく。日本の査読誌に、台座灸の温度を 55.9℃ と報告した研究と、26.71℃ と報告した研究がある[4][8]。二倍の開きがあるが、どちらも正しい。測っている点と対象が違うからである(第3章)。

数値を読むときの三点確認

①どの灸か透熱灸・台座灸・温筒灸棒灸隔物灸灸頭鍼は、熱の伝わり方が別である)。②どこを測ったか(灸そのものの温度か、皮膚表面か、模擬生体の内部か)。③誰で測ったか(ヒトか、動物か、生体模擬モデルか)。この三つが書かれていない数値は、本書では引用しない。

0-3 エビデンスの階層

本書は、系統的レビューと動物実験と物理測定を同じ重みで並べない。数値を書くときは、それがどの階層のものかが分かるように書く。読者に先に渡したいのは結論ではなく、疑い方である。

表0-1 本書で用いるエビデンス階層
階層デザイン典型的な弱点
A盲検化RCT/Cochraneレビュー本数が少ない。偽灸の妥当性が問われる
B健常者実験・器機による物理測定n が小さい。測定条件が研究ごとに違う
C動物実験(機序解明)刺激条件がヒトの臨床と異なる
D非盲検RCT/単群前後比較期待効果を分離できない。出版バイアス
E実技者の実測報告・症例報告(非査読)査読なし。本書では数値引用に用いない

0-4 本書の約束

数値はすべて原著の報告値
編者が計算・推定・丸めた値は載せない。平均±SD と 平均±SE は原著の表記どおりに記す。
分かっていないことを削らない
第7章はまるごと空白の章である。「今後の研究が待たれる」では終わらせず、何が測られていないかを具体的に書く。
商品・銘柄に触れない
本書は特定の商品・サービス・銘柄に一切言及せず、効能をうたわない。
第I部

お灸とは何か

体の反応を語る前に、物として何を燃やしているのかを決める。ここが決まらないと、以降の数値はすべて「お灸」という曖昧な一語に吸い込まれる。

01お灸ってそもそも何?

お灸とは、ヨモギの葉から取り出した繊維(艾)を燃やし、その熱を体表に加える手技の総称である。ただし「総称」という点が重要で、熱の伝わり方の異なる複数の手技が、同じ一語で呼ばれている。

1-1 艾は葉ではない

艾の原料になるのは、葉そのものではなく、葉の表面に生えている毛(毛茸)である。Cuiら(2022年)は Artemisia argyi の毛茸を形態・超微形態・化学の三面から記載し、2種類の分泌毛と1種類の非分泌毛を報告した[1]。分泌毛からはモノテルペン1種とフラボノイド7種が検出され、著者らはこれらの毛茸を「生理活性代謝物の産生の鍵となる組織」と位置づけている[1]

艾の綿状の実体をなすのは主として非分泌毛であり、香りと薬理成分を担うのは分泌毛である。つまり「よく燃える繊維」と「成分の入った袋」は、葉の上で別々の構造として存在している

1-2 精製とは、何を捨てる工程か

精製度を上げるとは、原料の葉を多く使って少量の艾を得ることである。Liら(2019年)は、生葉と艾の重量比が 1:1、5:1、10:1、15:1 の艾を作り、フェノール酸6種とフラボノイド3種を定量した[2]。精製比を 1:1 から 15:1 へ上げたとき、親水性化合物は 58.67〜84.06% 減少したと報告されている[2]

臨床への翻訳

この物質収支が示すのは、精製とは、薬理成分を捨てて熱源としての性質を得る工程であるということである。精製度の高い艾を選ぶ判断は「成分をより多く得るため」ではありえない。熱の出方を選んでいる。患者への説明でこの二つを混同すると、事実と逆のことを言うことになる。

1-3 灸法は「熱の伝わり方」で分けられる

灸法を分類する軸はいくつもあるが、体に起きることを予測するうえで有用なのは、熱の伝達様式による分類である。

表1-1 熱伝達様式による灸の分類(『灸と血流の生理学①』第9章の整理による)
伝達様式該当する灸法温度特性
直接燃焼透熱灸・焼灼灸・打膿灸点状・超高温・短時間
伝導熱隔物灸(生姜・塩・味噌・ニンニク)中温・面状・介在物に依存
輻射熱棒灸・箱灸低〜中温・広範囲・長時間
伝導+輻射台座灸・温筒灸中〜高温・限局・数分
金属伝導灸頭鍼(温鍼)深部へ持続加熱

1-4 温度で見ると、どれくらい違うのか

透熱灸では、米粒大艾炷(高さ 5 mm・底面直径 3 mm の円錐形)を石綿板上で燃焼させたときの底面最高温度が平均 140〜160℃ と報告されている[3]。これは石綿板上の測定値であり、ヒトの皮膚が到達する温度ではない。

間接灸については、市販の3種を熱電対で 0.55秒間隔・600秒間、各6回測定した比較データがある[4]

最高温度(℃)
温筒灸
64.3
台座灸
55.9
棒灸
(高さ20mm)
51.2
棒灸
(高さ100mm)
30.1
0 ── 70℃
42℃を超えていた時間(秒)
棒灸
(高さ20mm)
182
温筒灸
132
台座灸
87
棒灸
(高さ100mm)
0(未到達)
0 ── 200秒
図 1-1 間接灸3種の温度特性[4](階層B)。平均最高温度は、温筒灸 64.3 ± 3.3℃、台座灸 55.9 ± 5.0℃、棒灸(高さ20 mm)51.2 ± 4.7℃、棒灸(高さ100 mm)30.1 ± 3.3℃ と報告されている。同じ棒灸でも、体表からの高さが違えば別の温度が報告されている点に注意されたい。なお42℃超過区間の秒数は、既刊『灸と血流の生理学②』が原著抄録からは独立に確認できなかった数値であり、原著本文の記載に基づく。
臨床への翻訳

「お灸」という一語は、最高温度が 30℃ 台のものから 140℃ を超えるものまでを束ねている。したがって「お灸は◯◯に効く」という文は、それ単独ではほとんど情報を持たない。文献を読むときも、患者に説明するときも、灸種と測定点を先に確定させる。これが本ライブラリ全体を通じた作法である。

もっと詳しく

艾の材料と精製は『もぐさの特性』、温度曲線と灸種別の特性は『温度曲線』、灸法の分類体系は『灸と血流の生理学①』第10章で扱っている。

02お灸は体に何を起こす?

この章は全体の見取り図である。細部は第3章以降に送り、ここでは「熱が加えられてから体の反応が現れるまで」に何が並んでいるかだけを示す。最初に押さえるべきは、反応は一つではなく、時間差のある複数の現象であるという点である。

2-1 局所では、まず下がって、それから上がる

灸の局所反応を機序ごとに分解した研究がある。ウレタン麻酔下ラットの腓腹筋に灸様温熱刺激(加熱7.5秒・休止12.5秒を1分間に3回)を与え、レーザードップラー血流計で筋血流を測定したものである[5](Wistarラット36匹、階層C)。刺激時の実測温度は1回目 42.7 ± 1.2℃、2回目 49.2 ± 1.8℃、3回目 51.0 ± 0.8℃ であった。

筋血流は一過性の低下に続いて増加する二相性の反応を示し、血圧の変化はなかった。低下のピーク値は平均 −23.3 ± 2.4%、増加の最大ピーク値は平均 +25.5 ± 8.6% と報告されている[5]

2-2 どこで反射が閉じているか

この研究の価値は、経路を一つずつ潰した点にある[5]

表2-1 介入による二相性反応の消長[5](数字は反応が観察された試行数)
介入低下相増加相解釈
局所麻酔消失 (6/6)消失 (6/6)いずれも神経性
坐骨神経切断保持 (6/6)消失 (0/6)増加相は求心性線維を要する
脊髄離断保持 (7/7)保持 (7/7)反射弓は脊髄より末梢
CGRP拮抗薬消失 (8/8)増加相はCGRPを介する

著者らは、増加相は脊髄より末梢に反射弓を持つ軸索反射によって生じ、低下相は節後性の筋交感神経線維への直接刺激によって生じると結論している[5]。血圧が変化しなかったことから、これは全身性ではなく局所性の反応である。

2-3 全体の見取り図

ここまでを一枚にすると、次のようになる。この図の各地点が、第3章以降の各章に対応する。

艾の燃焼 熱・輻射・煙 皮膚の受容 温度感受性TRPチャネル 一次求心線維 Aδ線維・C線維 軸索反射(局所) CGRP・局所血流の増加 脊髄後角 入力の編集 下行性調節・自律神経 脊髄を経ない 脊髄を経る 第1章 第3章 第4章 第2章 第4章・第5章
図 2-1 模式図。実測波形でも解剖図でもなく、本書の章の並びを示すための概念図である。地点ごとに、得られているデータの階層は異なる。軸索反射の分離は動物実験(階層C)[5]によるものであり、皮膚での受容は第3章、線維と脳は第4章、脊髄後角より先の痛みへの関与は第5章で、それぞれ出典を示して扱う。
臨床への翻訳

施灸直後に局所が一度冷たく感じられることがあっても、それは失敗の徴候とは限らない。低下相は交感神経性、増加相は軸索反射性という、機序の異なる二つの現象が時間差で起きていることが動物実験で示されている[5]据えた直後に効果を判定してはならない。ただしこの二相性はラットの筋血流で測られたものであり、ヒトの臨床効果の時間経過を示すものではない。

もっと詳しく

局所血流の時間経過と灸種別の比較は『灸と血流の生理学②』第3章、軸索反射の機序は『灸と神経生理学①』第7章で扱っている。

第II部

体はどう受け取るのか

熱は、熱のままでは体の中を伝わらない。皮膚のどこかで電気信号に変換され、線維を選び、脊髄と脳で編集される。この部では、その変換の各段階で実際に測られている値を見る。

03熱は皮膚でどう感じられる?

温度は刺激の「強弱」ではない。開く分子を切り替える独立変数である。この章では、温度がどの閾値をまたぐと何が起きるのか、そして灸の温度がその地図のどこに乗るのかを見る。

3-1 温度感受性TRPチャネルの閾値

哺乳類で温度受容に関わる分子として、6つのTRPチャネルが知られている。それぞれの活性化温度閾値は次のように整理されている[6](総説)。

表3-1 温度感受性TRPチャネルの活性化温度閾値[6]
チャネル活性化温度閾値
TRPV1>43℃
TRPV2>52℃
TRPV3>32〜39℃
TRPV4>27〜35℃
TRPM8<25〜28℃
TRPA1<17℃

3-2 灸の温度は、この地図のどこに乗るのか

健常者15名の右下腿ST36に間接灸を行った研究では、施灸時の皮膚温が 45.3 ± 3.3℃ と報告されている[7](ヒト、n=15、階層B)。この値は TRPV1 の閾値(43℃)を超え、TRPV2 の閾値(52℃)には届かない帯域にある。一方、透熱灸の艾炷底面温度 140〜160℃[3] は石綿板上の測定値であり、皮膚が到達する温度ではない。

3-3 同じ台座灸が55.9℃にも26.71℃にもなる

ここで第0章の予告に戻る。台座灸の温度を報告した日本の研究が二つあり、片方は 55.9℃、もう片方は 26.71℃ と書いている。どちらも正しい。測っているものが違う。

表3-2 同じ「台座灸の温度」でも、測定対象が違えば別の数値になる
報告測っているもの報告値
和田ら(2017)[4]灸そのものの温度特性(熱電対)平均最高温度 55.9 ± 5.0℃
松井ら(2023)[8]簡易生体モデル(ロースハム15枚重ね)の最表面温度試料A 26.71℃/試料B 27.41℃

両者はいずれも台座灸を測っているが、センサの位置と、灸を置いた対象が異なる。前者は灸自体の温度特性を把握するための測定であり、後者は熱が模擬生体の内部へどう伝わるかを推定するための測定である[4][8]。なお、この二つを直接比較して「台座灸は皮膚表面では26.7℃にしかならない」と述べることはできない。ロースハムの熱物性はヒトの皮膚の熱物性ではないためである。

3-4 42℃前後で何が変わるか

灸の温度設計は、狭い帯域をめぐって組み立てられている。

表3-3 組織温度と、報告されている生体反応
組織温度報告されていること出典
40〜41℃内臓血流を変えうる温度帯として報告されている[10]
約42℃熱ショックタンパク質(HSP)を誘導する臨界温度はおよそ42℃とされる[9]
>43℃TRPV1 の活性化温度閾値[6]
44℃超組織熱傷が発生する[10]
臨床への翻訳

温度は量ではなく、動員する受容体集団を入れ替える操作である。「もう少し熱くする」という調整は、刺激を強めているのではなく、別の分子を開いている可能性がある。したがって、心地よい温感で行う灸と、はっきり熱い灸を、同じ機序の強弱として説明することは避けるべきである。

もっと詳しく

TRPチャネルの閾値地図は『灸と神経生理学①』第2章、測定点による数値の食い違いは『温度曲線』第2章、42℃という境界線は『灸と血流の生理学①』第6章で扱っている。

04神経はどう反応する?

熱が電気信号に変わったあと、その信号は二種類の線維に分かれて運ばれる。ここで測られている値は、灸の刺激量を考えるうえで最も実用的な数値の一つである。

4-1 Aδ線維とC線維——ヒトで測られた閾値

健常成人9名にCO₂レーザーパルスを有毛部皮膚に与え、反応時間でAδ線維(<650ms)とC線維(≧650ms)を弁別した研究では、次の値が報告されている[11](ヒト、n=9、階層B)。

表4-1 Aδ線維とC線維の熱検出閾値(平均±SD)[11]
条件C線維Aδ線維
基準(皮膚初期温度 未変化)39.8 ± 1.7℃46.9 ± 1.7℃7.2 ± 1.7℃
皮膚初期温度 34℃40.3 ± 1.3℃47.4 ± 1.6℃7.1 ± 1.4℃
皮膚初期温度 38℃42.4 ± 1.0℃46.7 ± 1.8℃4.3 ± 1.1℃

反応潜時は Aδ 平均 459ms、C 平均 961ms であった[11]。第3章で見た間接灸の施灸時のヒト皮膚温 45.3 ± 3.3℃[7] は、C線維の閾値を明確に超え、Aδ線維の閾値に到達するかどうかの境界にある。SDが 3.3℃ であることを踏まえれば、同じ手技でも個体や部位によってAδ線維を動員する場合としない場合が生じうる。

ただし表4-1はCO₂レーザーによる急峻な加熱で得られた値であり、灸のように数十秒から数分かけて加温する刺激とは時間経過が異なる。灸の加温プロファイルでヒトのAδ・C線維閾値を測定した研究は、既刊の調査範囲では見出せなかった。

4-2 ヒトの脳では何が測られたか

変形性膝関節症患者を対象に、犢鼻(ST35)への灸を行い、安静時機能的MRIで脳活動を測定した研究がある[12](ヒト、熱敏群 n=30、非熱敏群 n=30、階層D)。無煙艾条を皮膚から3cmの距離に置き、42〜48℃の温度範囲で10分間、1日1回、連続10日間の介入である。

表4-2 VASの変化[12]
指標熱敏群(n=30)非熱敏群(n=30)
VAS 前7.34 ± 1.806.28 ± 1.82
VAS 後3.64 ± 0.585.62 ± 0.74
群×時間の交互作用F = 11.43, p = 0.001

著者ら自身が挙げている限界は三つある。①表現型による割付であるため一般化可能性が制限され、期待バイアスが入りうる。②先行する灸経験を体系的に収集していない。③単一の解析手法のみを用いている[12]本研究は盲検化されていない観察比較であり、「熱敏感覚が出たから効いている」と因果として説明することはできない。

4-3 「副交感優位」で終わらせない

「お灸をすると副交感神経が優位になる」という説明は、現在の証拠では断定できない。健常者における受動的加温プロトコルと心血管自律神経調節の関係を調べた系統的レビュー(27研究を質的統合)では、加温の様式によって変化の方向が異なると報告されている[13]

表4-3 加温様式による心臓自律神経調節の変化方向[13]
加温様式報告された変化研究数
全身加温心臓迷走神経調節の低下14研究
全身加温交感神経調節の亢進と迷走神経離脱の双方2研究
局所加温・サウナ浴心臓迷走神経調節の増加

著者らの結論は「全身の熱ストレスは健常成人において心臓への交感神経調節を増加させ迷走神経調節を減少させうる。一方、局所加温療法とサウナ浴は心臓迷走神経調節を増加させ、交感神経調節と反対に作用するようである」というものである[13]

臨床への翻訳

皮膚の初期温度が違えば、同じ熱刺激でも動員される線維構成が変わりうる[11]冷えた四肢と温まった体幹に同じ灸を据えたとき、同じ神経入力になっているとは限らない。「同じ壮数だから同じ刺激量」という前提は、この実測に照らして成立しない。施灸前の皮膚温は、刺激条件を記述する変数の一つとして記録する価値がある。

もっと詳しく

線維の使い分けと脊髄後角の反応は『灸と神経生理学①』、脳と下行性調節・自律神経出力は『灸と神経生理学②』で扱っている。

05痛みにはどう関係する?

臨床で最初に決めるべきことは、経穴でも刺激量でもない。目の前の痛みがどの機序で生じているかである。この分類を飛ばすと、以降の議論はすべて平均値の話になる。

5-1 痛みは三つに分類される

国際疼痛学会(IASP)は痛みを三つの記述子に分けている[14]

侵害受容性疼痛
実際の組織損傷、あるいは損傷のおそれによって侵害受容器が活性化されて生じる痛み。炎症・外傷・変形性関節症の痛みがここに入る。侵害受容器という入口が実在するのが特徴である。
神経障害性疼痛
体性感覚神経系の疾患または病変によって生じる痛み。帯状疱疹後神経痛、糖尿病性多発神経障害、神経根症などが該当する。入口である受容器ではなく、配線そのものが壊れている状態である。
侵害可塑性疼痛
組織損傷の明らかな証拠も、体性感覚神経系の疾患・病変の証拠もないにもかかわらず、侵害受容の変化から生じる痛み[14]。線維筋痛症などが典型例として挙げられる。2017年に第三の機序として導入され、2021年にIASPが最初の臨床基準を公表した比較的新しい概念である[14]

5-2 灸を据えた局所では何が出ているのか

施灸部位のプリン体を高速液体クロマトグラフィで直接測った研究がある[15](雌SDラット、各群 n=10、階層C)。右後肢にCFAを注入して炎症性疼痛モデルを作り、5日目にST36(足三里)へ艾条を約1cm離して30分間施灸したものである。

表5-1 CFA炎症性疼痛ラットにおける灸の効果[15]
指標備考
施灸前の疼痛閾値2.847 ± 0.229 gvon Frey フィラメント
施灸後の疼痛閾値8.268 ± 0.468 gP < 0.01
鎮痛の持続90分120分までに消失
施灸部位のATP(60分時点)186.62 ± 23.12 nMベースラインの約7倍、P < 0.001

局所で上がったのはアデノシンではなくATPであった。ATPの分解を促進する薬剤(ATPase)を投与すると鎮痛が減弱し、分解を阻害する薬剤(ARL67156)を投与すると鎮痛が増強したと報告されている[15]。これはラットの炎症性疼痛モデルでの所見であり、ヒトで同じことが起きているかを測った研究ではない。

5-3 痛みの型が違えば、読み方が違う

表5-2 痛みの型と、灸について得られているデータの状況
痛みの型灸の臨床データ本書の該当章
侵害受容性(変形性膝関節症など)二重盲検試験を含む(階層A〜D)第6章
神経障害性(帯状疱疹後神経痛など)メタ解析はあるが確実性は低い(階層D)第6章
侵害可塑性(線維筋痛症など)該当する試験に到達できなかった第7章
臨床への翻訳

この分類は、施術後の反応の読み方を変える。侵害受容性疼痛では局所の炎症が引く時間軸で痛みが動く。神経障害性疼痛では、局所への刺激が痛みの発生源に届いていない可能性を最初から考える必要がある。侵害可塑性疼痛では、刺激量を上げることが状態を悪化させうる。「効かないから壮数を増やす」という判断は、三つのうち一つの型でしか正当化されない。

もっと詳しく

痛みの経路と灸が触れうる地点は『灸と痛みの生理学①』、疾患別の臨床エビデンスは『灸と痛みの生理学②』で扱っている。

第III部

どこまで分かっているのか

ここまでは機序の話である。機序が分かっていることと、臨床で効くことは別の問題である。この部では、臨床試験で何がどれだけ測られ、その数字をどれだけ割り引いて読むべきかを扱う。そして最後に、測られていないものを並べる。

06研究ではどこまで分かっている?

結論から言えば、灸の臨床エビデンスには順序がある。もっとも厳格に検証されているのは変形性膝関節症であり、そこですら根拠は単一の二重盲検試験に依存している。患者への説明は、この順序に従って強さを変えるべきである。

6-1 効果量の順序

表6-1 痛みの型別に見た灸の報告値(抜粋。詳細は『灸と痛みの生理学②』第7章)
対象比較報告値確実性・注記
変形性膝関節症偽灸(二重盲検)WOMAC疼痛 3.03±2.33 対 4.56±3.09(6週、p<0.001)[16]階層A/単一試験・n=110
変形性膝関節症各種(メタ解析)39試験のうち二重盲検は2試験のみ[18]階層D/出版バイアスあり
帯状疱疹後神経痛薬物・生薬・無治療VAS MD −1.79(−2.26, −1.33)[17]階層D/I²=91%・全13試験が中国
線維筋痛症など(侵害可塑性)該当する試験に到達できなかった不明

この表を読むときは、四つの割引が要る。①対照の厳しさが揃っていない(偽灸対照と無治療対照は同じ土俵の数字ではない)。②実施国が偏っている。③異質性が制御されていない(I² が 90% 前後の統合値が並ぶ)。④出版バイアスが検出されている統合が複数ある[17][18]

6-2 偽灸は作れるのか

灸の臨床研究における最大の技術的障害は盲検化である。熱は感じられる。現時点での答えは、条件つきの「作れる」である。

変形性膝関節症を対象とした二重盲検試験[16]では、実灸と外観・燃焼過程・残渣が似ており、基部が熱と煙を遮断する偽灸デバイスが用いられた。実測は実灸 49.8℃/偽灸 40.9℃ である。6週時点で被験者にどちらだったかを推測させたところ、全体で正答 36%、誤答 32%、不明 32%、群間差はなかった(Fisher の正確検定 p = 0.565)[16]。三択であることを考えれば偶然の水準と区別できず、盲検化は統計的には成立していたと判断される。

ただし残る問題が三つある。第一に、40.9℃ という偽灸の温度は「何もしていない」ことを意味しない。この試験で検出された差は「灸 対 無刺激」ではなく「侵害性の熱 対 非侵害性の熱」の差である。第二に、著者らは被験者が灸に不慣れであったことを盲検化成功の理由として挙げており、灸の経験がある患者では同じ盲検化は成立しない可能性が高い[16]。第三に、多くの試験ではそもそも偽灸が使われていない[18]

論文を読むときの三点確認

「偽灸対照」と書かれていたら、次を確認する。①偽灸の温度は測られているか。②盲検化の検証は行われたか。③被験者に灸の経験はあったか。この三つが書かれていない「偽灸対照試験」は、実質的に非盲検試験として読むべきである。

6-3 安全性——分母のある数字

症例報告の集積では、灸に関連する有害事象として24論文・64症例が6か国から同定されており、内訳は熱傷 43、アレルギー 7、感染 6、胎児への影響 2、悪心・嘔吐 2、その他 2 であった[20]。ただし著者らは発生率は不明であると結論している[20]。症例報告には分母がないためである。

分母のある数字は、有害事象を系統的に記録した臨床試験にしかない。変形性膝関節症を対象とした非盲検RCTでは、施灸 1,158回・102名について次のように記録されている[19]

表6-2 灸群における有害事象(施灸 1,158回、102名)[19]
項目実数
有害事象の総数121件(施灸回数の10.45%)
1件以上を経験した参加者48名/102名(47%)
I度熱傷6件
II度熱傷113件
重症度:軽度/中等度/重度99/21/1

一方、前述の二重盲検試験では、実灸群で施術部位に直径約 5 mm の皮膚発赤が 10例 報告されたのみで、いずれも 3日以内 に医療的処置なく消失している[16]。同じ「灸」で有害事象が 10.45% の試験と発赤10例のみの試験があるのは、灸の安全性が試験によって違うのではなく、何を有害事象として記録したかが違う可能性が高い。「有害事象なし」という記述は、有害事象がなかったことの証明ではない。

臨床への翻訳

熱傷の多くが新生児・小児・感覚障害のある人に生じていたことが指摘されている[20]感覚が低下している部位への施灸は、患者の「熱い」という訴えを安全弁として使えないことを意味する。神経障害性疼痛の患者には、まさにこの条件が当てはまる場合がある。適応を考えるとき、効果量の議論より先に、その部位の温度覚が保たれているかを確認する必要がある。

もっと詳しく

疾患別の効果量一覧・偽灸・安全性・撤回論文の扱いは『灸と痛みの生理学②』で、臨床エビデンスの現在地は『灸と神経生理学②』第8章で扱っている。

07まだ分かっていないことは?

この章は、本書がもっとも誠実でなければならない章である。既刊8冊の未解決問題の章から、入口として知っておくべき空白を集めた。「今後の研究が待たれる」とは書かない。何が測られていないかを具体的に書く。

7-1 空白の一覧

表7-1 既刊の調査範囲で到達できなかった主なデータ
問い状況該当する巻
灸がヒトの痛覚閾値・CPMをどれだけ変えるか定量的感覚検査で測った査読済み研究に到達できなかった痛み① 第14章
灸がヒトで下行性疼痛調節系を駆動するかヒトでの定量データを見出せなかった痛み① 第14章
ヒトの施灸でCGRP・サブスタンスPがどれだけ遊離するか直接測定した研究を見出せなかった神経① 第7章
灸の加温プロファイルでのヒトAδ・C線維閾値測定した研究を見出せなかった神経① 第5章
精製度と最高温度の対応同一研究内で対応づけて定量した査読済み研究に到達できなかったもぐさ 第3章
精製後の艾に各型の毛茸がどの比率で残るか定量した研究に到達できなかったもぐさ 第1章
透熱灸の赤外放射測定した研究に到達できなかった(既刊が到達できた放射の測定は艾条と隔物灸)温度 第7章
侵害可塑性疼痛(線維筋痛症など)への灸該当する臨床試験に到達できなかった痛み② 第5章

7-2 最大の空白

この一覧を眺めると、空白は散らばっているのではなく、一つの層に集中していることが分かる。

本ライブラリ全体の最大の空白

動物では、どの線維が動き、局所で何が放出され、痛みの型で反応がどう変わるかまで分かっている。ヒトでは、痛みが減ったかどうかは大量に測られている。しかしその二つをつなぐ「ヒトの神経系で何がどれだけ変わったか」の層が抜けている。

この空白には構造的な理由がある。定量的感覚検査やCPMの測定は疼痛研究の専門設備と訓練を要し、鍼灸の臨床研究が多く行われている環境とは重ならない。加えて、灸は熱感が明白であるため被験者の盲検化が難しく(第6章)、心理物理学的指標を用いる実験では期待効果の分離が困難になる。技術的に不可能なのではなく、研究のインセンティブ構造が向いていない。

7-3 この空白と、どう付き合うか

空白があることは、灸に効果がないことを意味しない。測られていないというだけである。同時に、空白は「まだ分かっていない」と言い続ける理由でもある。本ライブラリが各巻に未解決問題の章を置いているのは、この二つを同じ精度で扱うためである。

第IV部

次の一冊へ

七つの問いに一通り答えたところで、既刊8冊の地図を渡す。どこから読んでも構わないが、順番には設計がある。

08次に読む一冊——既刊8冊の地図

本書で触れた数値は、すべて既刊のどこかに、測定条件と限界つきで載っている。関心のある問いから入るのがよい。

表8-1 既刊8冊と、それぞれが答える問い
教材答える問い本書の関連章
もぐさの特性もぐさは何でできていて、燃やすと煙に何が出るのか第1章
温度曲線燃えているとき、温度は時間とともにどんな形を描くのか第1章・第3章
灸と血流の生理学①温熱はどの分子を介して血管を変えるのか第1章・第3章
灸と血流の生理学②灸の種類ごとに、局所と全身の血流はどう変わるのか第2章
灸と神経生理学①灸の熱は、どこで電気信号に変わるのか第2章・第3章・第4章
灸と神経生理学②脳と自律神経は、灸に対してどう応じるのか第4章
灸と痛みの生理学①灸は痛みの経路のどの地点に触れているのか第5章
灸と痛みの生理学②どの痛みに、どれだけ効くと報告されているのか第6章

用語で迷ったときはお灸の用語辞典を、全体をまとめて確認したいときは理解度チェックを使ってほしい。

演習

理解度チェック

本書の内容から6問。選択するとその場で正誤と解説が出ます。設問はすべて本文に記載した報告値・記述に対応しており、各問には該当章へのリンクを付けました。自己確認のための演習であり、資格や技能を証明するものではありません。

Q01 出典:第1章

本書が「お灸」という語について述べていることに合うのはどれか。

Q02 出典:第3章

台座灸の温度が、ある研究では 55.9℃、別の研究では 26.71℃ と報告されている。この食い違いの説明として本書の記述に合うのはどれか。

Q03 出典:第2章

灸様温熱刺激に対する筋血流の反応として、麻酔下ラットで報告されているのはどれか。

Q04 出典:第4章

ヒトで報告されている熱検出閾値(基準条件、平均±SD)として正しいのはどれか。

Q05 出典:第6章

灸の臨床エビデンスについて、本書の記述に合うのはどれか。

Q06 出典:第7章

既刊の調査範囲で「到達できなかった」とされているのはどれか。

解答ずみ 0 / 6
付録

引用文献

本書に記載した数値は、すべて既刊8冊に掲載済みの原著報告値である。以下は本書が引用した一次・二次資料であり、すべてに到達可能なURLを付した。

  1. Cui Z, Li M, Han X, Liu H, Li C, Peng H, Liu D, Huang X, Zhang Z. Morphogenesis, ultrastructure, and chemical profiling of trichomes in Artemisia argyi H. Lév. & Vaniot (Asteraceae). Planta. 2022;255(5):102. doi:10.1007/s00425-022-03889-0
  2. Li M, Chai X, Wang L, Yang J, Wang Y. Study of the Variation of Phenolic Acid and Flavonoid Content from Fresh Artemisiae argyi Folium to Moxa Wool. Molecules. 2019;24(24):4603. PMC6943600
  3. 山下仁, 江川雅人. 透熱灸の温度と燃焼時間——艾炷の密度および高さの影響. 全日本鍼灸学会雑誌. 1995;45(3):203-207. doi:10.3777/jjsam.45.203
  4. 和田恒彦, 全英美, 宮本俊和. 間接灸の温度特性——台座灸、温筒灸、棒灸の比較. 日本東洋医学系物理療法学会誌. 2017;42(2):65-71. doi:10.32255/jjsop.42.2_65
  5. Noguchi E, Ohsawa H, Takagi K. Neural mechanism of localized changes in skeletal muscle blood flow caused by moxibustion-like thermal stimulation of anesthetized rats. J Physiol Sci. 2009;59(6):421-427. PMC10717530
  6. 富永真琴. 温度受容の分子機構——TRPチャネル温度センサー——. 日本薬理学雑誌. 2004;124(4):219-227. doi:10.1254/fpj.124.219
  7. Nakahara H, Kawai E, Miyamoto T. Acute effects of regional heat stimulation by indirect moxibustion on cardiovascular responses. J Physiol Sci. 2022;72:29. PMC10717983
  8. 松井敬宏, 糸井信人, 佐藤義晃, 谷口美保子, 石井祐三, 中西智子, 中嶋拓美, 松本美由季, 長谷川尚哉. 2種の異なる台座灸燃焼時の深部温度変化シミュレーションの検討. 日本東洋医学系物理療法学会誌. 2023;48(2):75-85. doi:10.32255/jjsop.48.2_75
  9. Thermal Effect on Heat Shock Protein 70 Family to Prevent Atherosclerotic Cardiovascular Disease. Biomolecules. 2023;13(5):867. PMC10216495
  10. Takayama S, et al. Changes of Blood Flow Volume in the Superior Mesenteric Artery and Brachial Artery with Abdominal Thermal Stimulation. Evid Based Complement Alternat Med. 2011;2011:214089. PMC3095448
  11. Churyukanov M, Plaghki L, Legrain V, Mouraux A. Thermal detection thresholds of Aδ- and C-fibre afferents activated by brief CO₂ laser pulses applied onto the human hairy skin. PLoS One. 2012;7(4):e35817. PMC3338467
  12. Tian L, Lian T, Xie H, Chen Y, Zhang J. Neuroregulatory mechanism of heat-sensitive moxibustion on the Dubi acupoint (ST 35) in patients with knee osteoarthritis: a resting-state functional magnetic resonance imaging study. Front Neurol. 2026;17:1699988. doi:10.3389/fneur.2026.1699988
  13. Ferreira FC, et al. Cardiovascular autonomic modulation during passive heating protocols: a systematic review. Physiol Meas. 2023;44(1). doi:10.1088/1361-6579/aca0d9
  14. Nijs J, Malfliet A, Nishigami T. Nociplastic pain and central sensitization in patients with chronic pain conditions: a terminology update for clinicians. Braz J Phys Ther. 2023;27(3):100518. PMC10314229
  15. Yin HY, Fan YP, Liu J, Li DT, Guo J, Yu SG. Purinergic ATP triggers moxibustion-induced local anti-nociceptive effect on inflammatory pain model. Purinergic Signal. 2023;19(1):5-12. PMC9984580
  16. Zhao L, Cheng K, Wang L, et al. Effectiveness of moxibustion treatment as adjunctive therapy in osteoarthritis of the knee: a randomized, double-blinded, placebo-controlled clinical trial. Arthritis Res Ther. 2014;16(3):R133. PMC4095686
  17. Wu Q, Hu H, Han D, Gao H. Efficacy and Safety of Moxibustion for Postherpetic Neuralgia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Neurol. 2021;12:676525. PMC8427698
  18. Yuan T, Xiong J, Wang X, et al. The Effectiveness and Safety of Moxibustion for Treating Knee Osteoarthritis: A PRISMA Compliant Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Pain Res Manag. 2019;2019:2653792. PMC6935827
  19. Kim TH, Kim KH, Kang JW, et al. Moxibustion Treatment for Knee Osteoarthritis: A Multi-Centre, Non-Blinded, Randomised Controlled Trial on the Effectiveness and Safety of the Moxibustion Treatment versus Usual Care in Knee Osteoarthritis Patients. PLoS One. 2014;9(7):e101973. PMC4111481
  20. Xu J, Deng H, Shen X. Safety of Moxibustion: A Systematic Review of Case Reports. Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:783704. PMC4058265

お灸の基礎 第1版 2026年8月19日発行
発行:合同会社YOMOGI BASE(灸エビデンス・ライブラリ)

本書の位置づけ。本書は本ライブラリの入口であり、既刊8冊への道案内である。七つの問いに順に答える構成をとるが、いずれの問いについても、詳細・限界・測定条件は該当する既刊に譲る。各節の末尾に深掘り先を示した。

数値の出所方針。本書に記載した数値は、すべて既刊8冊に掲載済みの原著報告値であり、本書で新たに追加した数値・計算・推定は一つもない。平均±SD は原著の表記どおりに記した。図2-1は本書の章の並びを示す概念図であり、実測波形でも解剖図でもない。

調査範囲。本書は新規の文献調査を行っていない。素材はすべて既刊8冊の本文であり、引用文献は既刊が出典照合済みのものから、本書が引用した20件を再掲した。したがって本書の空白は既刊の空白と一致する(第7章)。

本書の限界。「お灸とは何か」に対して、本書は材料・精製・分類・温度の側から答えている。灸法の歴史的成立過程、地域ごとの普及状況、日本と中国の灸法の系譜については、既刊に扱いがなく、本書でも扱っていない。

発行と利益相反。本書の発行者は合同会社YOMOGI BASEである。同社はよもぎ・お灸に関連する商品を扱う事業者であり、この利害関係を開示したうえで、本書では特定の商品・サービス・銘柄に一切言及せず、効能をうたわない編集方針を採っている。文献の選定・数値の引用・空白の明示は、事業上の利害と独立して行った。自社および自社関係者による発信は、査読の有無にかかわらず出典として用いない。

ご利用にあたって。本書は教育・研究目的の学術情報であり、個々の患者に対する診断・治療方針を示すものではない。臨床判断は、施術者自身の責任において、患者の状態と関連法規に基づいて行われたい。

改版履歴。2026年8月19日 第1版発行。